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おすすめ転生スポット

 ……なんだろうこれは。

 僕は足元に落ちていたボールペンを拾うと、改めてわら半紙を読み返す。


『転生希望先申請書』


 ふむ。

 別に希望してないのだが? 


 とはいえ、地獄に落ちたり無に還るよりは、転生できるほうがはるかにましである。僕はペンを握ると、『転生者』の欄に自分の名前を書いた。

 問題はその次だ。



 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆



―――――――――――――――――――――――

転生先  | A.千葉県柏市  B.ヴァザリア帝国

     | C.死の都サリ  D.ワンダバー鉱山

―――――――――――――――――――――――



 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 うーん。

 治安の良さでいうと、たぶん『柏市』だけど、



 うーん。



 僕の心は『柏市』と『ヴァザリア帝国』の間で大きく揺れていた。『鉱山』も悪くはないけど、帝国の魅力にはかなわない。

 当然、言うまでもなく『死の都サリ』は論外だ。死にゲーの香りがプンプンする。僕は×印を書くため、『C』の選択肢にペンを伸ばした。


「そこはやめておいた方が……」


 と、左側から声が掛けられた。見ると、ひかれ仲間の女性が僕の転生希望先申請書を覗いていた。


「たぶん、5分くらいで死んじゃいます」


 そんなにか。

 思わずひるんだ僕を憐れんでくれたのだろう。彼女は恐る恐る、ある提案を持ちかけてきた。


「あのう、私、ライフプランナーを務めておりまして……。よろしければ、ご相談に乗りましょうか?」

「お願いします!」


 僕は身を乗り出して、書きかけの申請書を彼女に差し出した。彼女はきれいな笑顔(ビジネススマイル)を浮かべると、『転生者』の欄をちらりと見てから、僕の名前を呼んだ。


「加藤さまは、安全な暮らしと、冒険の日々、どちらをお望みでしょうか?」


 僕は「敬語はやめてください!」と伝えてから、少し悩んで、「冒険、ですかね」と答える。


「でしたら、Bのヴァザリア帝国をお勧めします。こちらは……間違っていたら恐縮では済まないのですが、おそらく、ほぼほぼ確実に、国民的RPGゲーム『ドラグーンファンタジー5』の舞台となっております」

「はぁ」



 彼女の説明を要約すると、ヴァザリア帝国というのは、ある有名なゲームに登場する巨大都市らしい。帝国の周辺には大小さまざまなダンジョンが点在し、世界中から戦士や魔法使いといった『冒険者』が集まっているそうだ。

 中でも活気のある城塞都市『ヴァッサバ』には、鍛冶屋や魔法具店、ギルドや酒場が所狭しにひしめき合っているとのこと。


 ……なんだかもう、今すぐにでも転生したくなってきた。僕は話を聞きながら、『B.ヴァザリア帝国』を大きな丸印で囲んだ。


「続いて『スキル候補欄』ですが、……ダンジョンに潜るとなると、おすすめは、『A』と『D』、それに『F』ですかねぇ……」


 言われて、僕はスキル候補欄に目を向ける。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆



_______________________

所持スキル候補欄(転生先B/C/Dのみ)(3つまで)

 A.【身体強化】     B.【毒無効】

 C.【聞き耳】      D.【分身】

 E.【鑑定】       F.【鎧化】

_______________________



★☆★☆★☆★☆★☆★☆



「身体強化と分身と……、よろい、か?」

「はい、こちら、鎧化(がいか)と言いまして、体の一部を鎧に変えられるんです。D(ドラグーン)F(ファンタジー)5でも強力なスキルの一つでして、ネットユーザーからは『公式チート』とも呼ばれてますね。防御はもちろん、攻撃にも転用できる、非常に使い勝手の良いスキルです」

「ははぁ……」


 僕は言われるがままに、AとDとFを丸で囲むと、ひとつの疑問を投げかけた。


「あの、あなたもヴァザリア帝国に?」


 この人が一緒に転生してくれたなら、非常に頼りがいがありそうだ。僕は期待を込めて尋ねたが、彼女は「いえ、それが」とあいまいな笑顔を浮かべ、自らの転生希望先申請書を見せてくれた。


「実は、私の『転生先』、加藤さんのと全然違うんです」



★☆★☆★☆★☆★☆★☆



―――――――――――――――――――――――

転生先  | A.群馬県甘楽 B. フリーディア王国

     | C.山形県鶴岡 D. CA(カリフォルニア)州ナパ

―――――――――――――――――――――――



★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 4分の3が地球である。なんなら『フリーディア王国』も田舎のテーマパークあたりに存在するのかもしれない。下の項目に目を向けていくと、スキル候補欄も僕のと全然違う……。


 あ、でも回復魔法とか書かれてるし、(Bのみ)って項目もあるから、フリーディア王国は異世界なのか。


 僕は二枚の申請書を見比べながら、「全然違うんですねぇ」と無難な感想を述べた。そして、


「ちなみにですけど、どれを選ぶんです?」


 と尋ねたとき、目の前の女性から発せられる『オーラ』が変わった。




「フリーディア王国一択です。だって、……だって『アーベル王子』や『イェルド団長』、『リオンさま』もいらっしゃるんですよ!!! ええ、当然、『ヨハンたん』も見逃せません!! あぁ、できるなら貴族令嬢に産まれて壁のシミになりたい……。とはいえ、(くらい)が高いと『ノワール家のニーナさま』に目をつけられちゃう……。あああでもでもでもッ!! 没落しても追放されたとしても、『カイくん』に出会えれば安泰です!!! おおおぉ神さま仏さま女神さま!!

 ……そして、お父さん、お母さん。

 私、わたしに生まれてよかった……。

 これまでの、すべてに、感謝……」




 言い終えた彼女の瞳から、一筋の涙がこぼれた。

 僕が言葉を失っていると、前方から



「小文字のg(ジー)の15から25番!! 前に来てください!!!!」



 という怒声があがった。

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