目が覚めるとそこは
「……あぁっ、あああっ!
辞める…。もう辞める!!
辞めてやるこんな仕事ッ!!!!」
「なにキレてんだコノヤロー。キレてえのはこっちだバカヤロッ!」
切れのある怒声に目を覚ますと、僕は病院とか市役所の待合室にある『座り心地がいいんだか悪いんだかよくわからないソファ』に座っていた。
正面には『転生受付窓口』と書かれたカウンターがあって、そこでは『なんかのデモ?』ってくらいの盛り上がりというか……、怒号の嵐が渦巻いていた。
窓口の内側では、一人の女性が天を仰ぎ、頭を抱えながら絶叫している。彼女の肩にはタスキがかけられており、そこには『女神』と書かれているが、あれはいったい何の冗談だろうか。
――というか、僕、さっきトラックにひかれなかった?
状況を理解できずに戸惑っていると、カウンターに片足を乗せて叫んでいるプリン頭さんの前に、日焼けした丸刈りの青年が割り込んできた。
「落ち着けってオバサン……。それより、オレの考えた『チート』なんだけど」
「だからぁ、その紙に書いてあるスキル以外は与えられないんです!!!」
「ったって、こんなザコスキルじゃなんにも――」
「アタシの話が終わってねえだろ!! とにかく、あんたらのミスで死んだんだったら、さっさと元の場所に戻すのが道理ってもn」
「ぁぁぁぁあああああっっ! だからミスしたのはうちの課じゃなんですよねえぇえ「ちょっといいかね。私は美少女になって既婚男性をたぶらかしたい者なのだが「「あんた(オメェ)はずっと黙ってろぉおおお!!!」」
……ちょっとしたショーである。
目の前にお菓子があったら、カウチポテト待ったなしだ。
その後も議論というか、会話のデッドボール……というにはインファイトが過ぎるが、乱闘寸前のやり取りは続いた。僕はふわふわとした頭を小突きつつ、流れる怒号から意識をシャットアウトして、記憶の糸をたどってみる。
ええと、たしかバイトの帰り道、目の前でOLっぽい女性がひかれそうになってたから、思わず飛び出して――
ふいに、左隣りからかわいらしい声が流れてきた。
「わァ……
これ。
異世界転生だァ……!」
見ると、そこにはさっき突き飛ばした女性が座っていた。彼女は安っぽいボールペンを握りながら、一枚のわら半紙を見つめて、目を輝かせていた。
冷静になってあたりを見渡すと、僕が座っている一台の長いソファには、5人の男女が横並びに座っていた。誰もかれも、左の女性と同じく、ペンを片手に紙とにらみ合っている。
なんだここは。
一体何なのだこれは。
あたりを見渡すために立ち上がろうとしたとき、太ももから地面に向かって『するり』と一枚の紙が落ちていった。反射的に拾った紙には、上部に、太くて堅苦しいフォントで、
『転生希望先申請書』
と書かれていた。