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ウィード村のはずれにて【橘ひかり視点】

 ちょろりとした短い尾から、鉄のように固く鋭い鼻先まで、全長2.8メートル。

 人々から『スピアボア』と呼ばれるイノシシ型のモンスターが、1匹、朽ちかけた切り株の下に鼻を突き刺していた。

 槍のように鋭い頭が『グイ』と上がるのと同時に、めりめりと音を立てて、切り株が引き抜かれていく。日の光にさらされたキノコや虫が、スピアボアの腹にガツガツと収められていった。


 ――ここが地球なら、散弾銃を持っていても立ち向かいたくない。


 そんな化け物(モンスター)に、私、橘ひかりは弓を向けていた。

 すぐ隣から、パーティーメンバーの少女、『フィリア』の息を呑む音が伝わってくる。


 私は、矢尻に塗られた緑色の毒(390ゴールド)を視認してから、(つる)を引き絞った。

 スピアボアまでの距離は、目測(もくそく)65メートル。

 ギルドの射撃場で打ちぬいた的よりも、10メートルほど遠い。

 けれど、()()()()()()これ以上近づくことは無理だろう。勝負を決めるのは、今しかない。


 ――ああ、こんなとき、『パーチ』ちゃんがいたらなぁ。


 と、私はハクナウに想いをはせた。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 攻略対象の一人である、ヨハン第二王子。


 幼いころから優秀な兄と比較された彼は、聡明で優しい人柄でありながら、どこかはかなげで、自己肯定感がとっても低い美青年です。

 母親の身分が低いために、王族でありながら、一部の高位貴族からは見下されてさえいます。


 そんな()()()の攻略法は、極めてイージー。

 話を聞いたり、内緒話を共有するだけで、好感度(というか依存度)はグングン上がっていきます。性格も一途なので、ヤンデレ好きの方にはヨハンルートがおすすめです。


 ――しかしながら、そのルートに進むためには、一匹の大きな壁が立ちはだかります。それが、ヨハンたんと契約しているクロヒョウの聖獣、『パーチ』ちゃんです。


 聖獣と巫子の心は深く結ばれているため、気まぐれで人見知りの彼女パーチと打ち解けられなければ、ヨハンたんの本心にふれることはできません。そのため、ヨハン推しのプレイヤーは序盤から魔物の肉やまたたびの収集に勤しみ、パーチちゃんのご機嫌を伺い続ける必要があるのです。



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、もはや『()()()()()()()()()()()!』と叫んでもよいでしょう。



 聖獣として『狩猟の成功』をつかさどるパーチちゃんは、RPGパートでもとっても優秀。パーティーメンバーの音や匂いを消せるので、魔物退治に出向く際は、不意打ちから逃走まで、マルチな活躍をしてくれます。


 ああ、ここにパーチちゃんがいたらなぁ……。


「バシュッ」



★☆★☆★☆★☆★☆★☆



「やった! やったよ『ライト』!」


 眉間を毒矢でぶち抜かれたスピアボアの上で、フィリアがぴょこぴょこと跳ねていました。

 私は二の矢を収めてから立ち上がります。


「……あと4回、ですね」


 そう言って、私、橘ひかりこと『オレン・ディー・ライト』は微笑みました。

 ダンジョンに潜るためには、このような討伐依頼を5回達成する必要があります。私はフィリアとハイタッチしてから、スピアボアの首に解体用のナイフを『ズブリ』と突き立てました。

*1ゴールド=10円です。

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