婚約破棄のお値段
ちょっとだけ修正してます。
内容的には、ほとんど同じです。
7/16 19時 誤字報告ありがとうございます。
大変助かります(*^^*)
公爵令嬢グレナダ・ファンタスティ(17才)は、今めっちゃ怒っていた。
それはもう烈火の如く!
純粋な怒りだけではなく、愛憎渦巻くエントロピー(熱と内部エネルギーの混沌)上昇で、自らも焼き尽くす勢いである。
辛すぎて辛すぎて…………………結果、酒に逃げた。
主に赤ワインに。
「やってられっか! バカにするな短足!」
優秀な彼女付きの侍女クリスティは、片手でワインボトルを持つグレナダの不便が無いように、生ハムチーズ、ウインナーとベーコン焼き、チーズに焼き野菜や果物を乗せたカナッペ、果物盛り合わせ等の指で即食べできるツマミを用意する。
そして酔いが回ると、溢れる涙でボートが漕げるくらい泣きまくった。
「あんにゃろー、若薄毛ー、ちくしょーーー!!!」
そう、婚約者の第一王子クロルニウム・ダンワーズは、禿げてないけど、ぽやぽやの猫っ毛で毛量少なめ。
いやいや、そんなことは今どうでも良くない?
え、大事なことだって?
若薄毛なのに妥協してやってるって。
ああ、うん。 偉い! 主、最高!
良し機嫌直ったな。
重要なのは、婚約者がいるのに王子が他に複数の恋人を作ってること。
そして次期王太子妃(婚約者の為)の予算を、その恋人に使っていることだ!
政略であるもお互い7才の頃から婚約し、王太子妃教育を経て現在に至る彼女。
婚約当時は天使の如く穢れなき笑顔で、グレナダに福音(会話)をくれた彼はもういないのである。
ふわふわな金の髪、深き湖のごとき青の瞳、美少女も裸足で逃げ出す愛くるしい顔は、ほぼその姿のまま成長したが、心は天使とは真逆の存在に育ったようだ。
両親である国王陛下夫妻も、同じように美しかった。
第二王子の面立ちは違ったが、武術の才を発揮し厳つい騎士と訓練を重ねる男気に溢れる人だ。
一方甘やかされた第一王子は、すぐ人頼みにして向上心がなかった。
失敗しても、国王は叱責せずなあなあにするのだ。
時には隠蔽もしていた。
王子を溺愛し過ぎて、躾を疎かにした付けが回ってきたのだ、何故かグレナダに。
王子は鍛えず学ばずに逃げ続け、王太子の仕事もせずに遊んでいた。
その分の皺寄せ(王太子の仕事)をグレナダが処理し、更に王太子妃教育も受けて多忙に過ごす。
お陰でいつも、目はショボショボの慢性寝不足状態だ!
王子の遊びには女性との不埒な付き合いも入っており、思春期に入った後のたがのはずれ方には周囲も顔をしかめた。
すぐにグレナダの両親も知るところとなる。
だからグレナダの両親は願ったのだ。
王太子妃と決定せず、候補に留めるようにと。
もし確定し、王家の闇(秘匿せし)教育を受けて破棄されれば、幽閉されし修道院か毒杯を飲まされるか、人知れず暗殺されるかの詰んだ人生が待つからである。
懇願により、まだその教育は受けさせないことを承諾され、せめてもの逃げ道を確保したのだ。
王子の仕事まで行い尽くす娘に、最高の地位を与えてやりたい気持ちはあれど、女癖の悪さは性癖だからほぼ治らない。
そして王子はグレナダを大事に扱わず、家来のように献身を当たり前としている。
そんな男はいつ『真実の愛』に目覚め、娘を捨てるかわからないし、娘が王妃になっても苦労は増えるだろう。
グレナダの両親は娘を愛していた。
その為何度か婚約解消を打診するも、公爵家の力と優秀な娘の使い勝手の良さを、王様が手放すことはかったのだ。
この先もお飾りのような王太子妃、更には王妃となり、夫の傍には側妃や愛人が侍る歌劇のような生活を予見し、諦めかけていたグレナダだったが、あることがきっかけでキレまくった。
そうそれは決算書類を記載していた時のこと。
今までの担当事務官が胃痛で休職し、一時的にその書類整理もグレナダに回ってきた時に、ある事実が発覚したのだ。
王太子妃(婚約者)予算の欄に、1つの商品代金の支払いとしては到底あり得ないくらいの金額が示されていた。
サンフェタン宝石店
6月25日 ネックレスとイヤリングセット ※48万円
(※わかりやすく日本円の価値で換算しております)
ん? 一瞬?が過る。
この時期だと貰うとすれば、7月の王国祭の夜会用に装着するプレゼントのはずだが、グレナダは何も貰っていない。
それどころか夜会やパーティーに、ドレスや宝石等をプレゼントされたことも、婚約後の10年で数えるくらいしかない。
誕生日ですらおざなりの物で、古いデザインの物か模造宝石を贈られるので、公式の場で装着したこともほとんどない。
一度プレゼントされたものを偽物とわかっていて夜会で付けたことがあったが、目敏い侯爵令嬢タニアに「ダイヤの模造宝石ですわね」と指摘されたことがあった。
その時の私は婚約者予算がどの程度組まれているかわからなかったので、「殿下が(予算内で)選んでくださったので満足しています」と答えると、令嬢はひきつく笑顔で「それはお幸せですね」と言って、足早に去っていった。
何故かそれを見た王太子は、怒ったような表情を浮かべていた。
他人にバレないと思っていたのかしら?と、私はその時ボンヤリ考えていたが、毎日寝る間を惜しみ王太子妃教育を学んでいたので、余計な気は回すことができなかった。
後に王子が、「ダイヤの模造宝石なんかして俺に恥をかかせた」と側近に苛立ちをぶつけたことを耳にしたも、自分が用意した物で怒られても困ると思ったものだ。
用意した物は付けないと失礼だと思っていたが、付けて行き怒られるとは。どれだけこの王子は、常識が当てはまらないのだろうと嘆息したのだ。
今まで見ることがなかった婚約者予算は税金だ。
少し寂しいが、プレゼントをくれないならくれないでかまわない。
民の税金を大事に使うなら、それはそれで良いことだから。
だが婚約者予算を婚約者に使わず、婚約者でない恋人に渡すのはいくらなんでも反則だろう。
それも私へは数千円程度で、恋人には今回だけで48万円ですよ!
侍女のクリスティが、私へのプレゼントがあんまりショボいんで、逆に何処で購入したのか調べてくれた。
模造宝石ならば、雑貨屋か民間の宝石商だろうけど、古い意匠の物はもし王妃様の物なら扱いを変えないといけないからだ。
すると模造宝石は、
ファンシー雑貨ミリス ダイヤ(模造宝石)ネックレス1,980円
裏通りの露店 古い意匠の指輪 100円だった。
因みに今まで貰った物も、王子が個人的に購入した物は全てここで仕入れたらしい。
幼い時に貰ったリボンや花束は、側近が購入したのでそれなりの値段だと思われる。しかし、王子は選ばず人任せみたいだ。
予算の件、どうしてこんなことになっているかと言えば、14才当時の王子の恋人のせいだった。
「今月、もうお金ないんだよ。 来月買ってあげるね」と王子が言った際、
「やっぱり婚約者さんの方が大事ですもんね。くすん」と泣き真似した恋人その①カミレ・ネカクレ男爵令嬢(小柄でおっぱいの大きい、ピンク髪と黄緑の瞳の美少女だ)。
学園では同級生の2人は、入学してから2か月ほどで王子が声を掛けて始まったのだ。
「いや、別にあいつに何か買うとかじゃないぞ。買うとしても別に予算があるから、俺の金は減らないし…………おぉ勿論、カミレの方が大事だよ。そうだ、あいつには安物でも買えば十分だな」
これが、軽い気持ちで婚約者予算に手をつけた瞬間だった。
「あ~それなら私、良い店知ってますよ~。 とってもお安いの」
なんて話になり、それが3年も続いている。
それから婚約者予算は、カミレと多数の恋人達に分散された。
時折カミレが、「たまには婚約者さんにも買ってあげてくださいね」と、雑貨屋に連れて行き模造ダイヤがプレゼントされたのだ。
「あんな奴にまで気遣いするなんて、カミレは優しいなぁ」と、たまにプレゼントされたものを、たまたま夜会でグレナダが装着して、不機嫌になってが一連の話。
そしてカミレは自分が高額な物を貰い、婚約者であるグレナダが1000円程度のものしか貰えないことで優越感を得ていた。
グレナダが模造宝石のダイヤネックレスを付けていた時も、お可哀想にと言ってほくそ笑んでいたのだ。
模造ダイヤの件から色々と調査を始め、現在グレナダ公爵令嬢サイドはお通夜状態である。
いくら政略婚約でも、誠意は必要でしょ!
①婚約者の定期お茶会も欠席しがちで、2か月に1回くらいしか話してない。それも不機嫌で10分くらいで終了。
②夜会のエスコートだけはするが、1曲踊れば即恋人の元へ。
③王太子の仕事も丸投げだが、グレナダが補佐を王様に頼まれてしまった為、学園にも通っていない。いくら王宮で高等教育を受けられると言っても、学園は社交を広げる場なのに。学園生活は憧れだったのに。何故王子が行って、自分だけが行けないのか?
④そして最大の屈辱が、婚約者からのプレゼントの件である。
婚約者予算なのに、関係のない者へ予算全部が使われている。
私には、100円の指輪程度しか価値がないというのか?
普通に横領じゃない? 税金だよ!
「ふははははっ、もういい。もういいわ。
幼い時の天使はもういないんだもの。あの時の恋心なんて幻想だわ。
クロルニウムはいくら待ってても、もう元になんて戻らない。
ここまで尽くしてこの仕打ちだもの」
そう言ってくだを巻いてちょっと寝入って、喉の渇きで起きて再び侍女のクリスティを呼ぶと、部屋の中に家族全員と執事長、執事、従僕、侍女長、侍女、メイド長が控えていた。
メイド全員は入れず廊下で待機し、メイド長だけが中に入って来たそうだ。
母と父が抱き締めてくれて、弟は泣いていた。
使用人達も、真剣な面持ちでこちらを向いていた。
「この国はもうダメだ。あの王子が跡目を継げば、お前がいくら頑張っても焼け石に水だろう。お前が頑張ってきたので、私から辞退しろと強く言えなかったんだ。
実はお前がまいっている時、婚約解消は数度打診しても受けてもらえなかったんだ、ごめんよ。
でも完全に見切りをつけたんなら、私も腹を括るよ。
代々貿易で生計を立てている我が家だ。隣国には爵位を持つ叔父や叔母もいるし、準備を進めよう。
良いかい?」
父は私の欲しい言葉を全部くれた。
本当は反対されると思ってたの。
だって私が断れば、弟の立場が弱くなるんじゃないかと心配してたの。
でもサラシナも、
「ずっとお姉ちゃんが心配だった。
何回も馬鹿王子を殴りそうだったよ。
いつも女にデレデレして、気持ち悪くて。
殴って捕まらなくて良かったよ。
すぐ隣国に行こうぜ!」と、もう涙は止まり微笑んでいた。
母も辛そうな顔で、
「もう一生分の苦労したわね。ごめんね庇えなくて。
これからはもう、好きなことして過ごしなさい。
嫁なんて行かなくて良いから」と心配してくれてた。
………………嫁とかはう~ん、良いか!
使用人達は、全員付いて来てくれるらしい。
大好きだ、みんな~~~~~♪♪♪
今後の方針は決まった。
でも私はちょっとイタズラしたいと、酔いながら閃いた計画を話した。
幸いみんなノリノリだ。
そして、私達は最後の夜会に出席した。
王子のエスコートは断り、弟に付き添ってもらいダンスホールへ歩んでいく。
勿論、両親も後ろに控えている。
たくさんのシャンデリアが煌めいて明るいホール、女性達の色とりどりの魅惑のドレスと賑やかな会話。踊る度くるくる回ると、花のように艶やかだ。
その日グレナダは、両親と共に作成した最高級シルクの真っ赤なマーメイドドレスを纏う。
銀の髪はハーフアップに、イヤリングは瞳と同じ薄紫の花柄の物を。
それから今まで王子に貰った、全てのアクセサリーを身に付けた。
模造ダイヤのペンダント
古い意匠の指輪
白薔薇の髪飾り
胸には象牙のブローチ
手首には、幼い時貰ったピンクのリボン
花束も当時と同じ物を両親が持って来た。
(その花束は、王宮のメイドに渡すと花瓶に活けてくれた)
これが貰った物の全部のリスト。
だが良く見ると、全てのアクセサリーは光輝いており、とても安物とは思えない。
以前に偽造ダイヤを指摘した侯爵令嬢タニアは、目を輝かせて声を掛けてきた。
「こんばんは、グレナダ様。デザインは以前と同じようですが、このダイヤは本物ですね。とても素敵な輝き、もしかしてピンクダイヤですか?」
「さすがタニア様、その通りですわ」
輝く笑顔で頷くグレナダ。
タニアは以前のことを思い出したのか、気まずげに口ごもった。
グレナダはそれに気づき、
「私、反省しましたのよ。いくらくれるからって何でも貰ってはいけないって。以前のあなたの表情を見てハッキリわかりました。あの時は、ありがとうございます」
そう伝え、スッキリした表情で礼をする。
嫌みではなく心底思っていることが伝わったタニアは、微笑んで話を続けた。
「私ね、いつも貴女と話がしたかったの。幼い時に話したこと覚えてる?あの時持ってた、白いうさちゃんのぬいぐるみ、私も茶色の持っていたのよ。ああ趣味が合う人がいたもっとうさちゃん話したいと思ってたのよ。そしたらなかなかお茶会には来ないわ、学校には来ないわで、どれだけ落胆したか。ちょっと遅くなったけど、お友だちになれないかしら?」
恥ずかしそうに口を尖らすタニア。
グレナダはタニアの両手を包み、満面の笑みで「はい、はい。喜んで」と答える。
嬉しそうな笑顔は、周囲の雰囲気も明るくする。
公爵令嬢と侯爵令嬢。
家格も合う二人に、反対する者はいない。
すると、和やかな雰囲気に水を差す声が!
「あら嫌だ! なんだか安っぽいアクセサリーですね。公爵令嬢には似合わないのではないですか?」と、カミレ・ネカクレ男爵令嬢が失礼などや顔で現れた。
その後ろには、カミレを追いかけてきたクロルニウム王子もいる。
タニアが失礼でしてよ、とカミレに怒ってくれている。
『タニア良い人、好きだなぁ』とホヤンとしてるグレナダだったが、゛予定通りの鴨ネギ、逃がさん!〝 と気合いを入れ直したのだ。
「始めまして男爵令嬢様? 私のアクセサリーはお眼鏡に叶いませんか?」
微笑んで答えると、更に失礼な発言が続く。
カミレはニヤツキながら、「だってこれ、商店街横の露店で見ましたよ。グレナダ様って、アクセサリーに無頓着なんですね」と嫌みっぽい。
グレナダは平気な顔で、「これは露店の物じゃないですよ」と返す。
タニアは再度カミレに向かい、憤る表情を扇子で隠し抑えていた。
「初対面では家名でお話なさい、名を呼ぶとは本当に恥知らずね」と苦言を呈す。
「それにこのアクセサリーは、どれも一流の細工よ。変なことを言ってはいけないわ。弁えなさい、男爵令嬢ごときが!」
私の為に怒ってくれてる、タニア良い人!!!
感動でまたぽやんとしていると、騒ぎで囲む人の中からモノクル(片眼鏡)をかけた老齢の紳士が現れた。
「私は鑑定士です。少々拝見しても良いですか? ふむふむ、これは繊細な細工だ、良い職人(の逸品)と出会いましたな」
そう言い切って去っていく。
呆気に取られた周囲の幾人かが、彼の正体に気づき声をあげる。
「あの鑑定士知ってるわ。王室の御用達パイン・ペンギン様だわ! 彼が間違えるはずないわ」
「それにしても、物も知らん男爵令嬢ごときが随分生意気だな」
「あら、大きな声はダメよ! あの子、クロルニウム王子の愛人なんだから」
「ごほん、ごほん。すまないな、教えてくれてありがとう。そうか、立派な公爵令嬢がいると言うのにな」
「まあ、まだお若いから。そのうち落ち着くでしょ?」
「性欲処理は必要だもの」
「何人も恋人? がいるそうよ」
「ずいぶん暇なんだな?」
「頭の出来がねぇ……いない方が捗るから……ヒソヒソ」
ザワザワザワザワ………………………………………
知らないうちに、話題は王子の陰口にシフトチェンジ。
さすがのクロルニウムも分が悪いのか、カミレを連れて去っていく。
「なんで私が責められるの? あれは偽物じゃない!」と、顔を歪ませ憤るカミレ。
「不敬だぞ、全くあいつらぁ!」
言いながらも、何となくカミレを恥ずかしく感じてしまうクロルニウムだった。
カミレのネックレスとイヤリングを見て、タニアは呟く。
「あの娘何だったのかしら? 自分の方が安っぽい物付けてるくせに」
その日のグレナダは、睡眠を取りストレスも発散しきったせいか本来の美しさで輝いている。
何故か自分の両親に、「お疲れさま」と色んな種類の真っ赤な花束を渡されていた。
花を受け取りはにかむ笑顔に、堅物の第二王子も見とれる程で。
男女関係なく気品溢れる仕草に、将来の王太子妃は安泰だと感じていた……………………のだが………………………………
「「「ええーーーー、公爵家隣国に出奔したの?」」」
寝耳に水の国民は、貴族は、驚いていた。
公爵家の屋敷には既に人はおらず、弁護士に手を回して後処理を頼んでいたようだ。
婚約については、「爵位を返上し身分が釣り合わないので破棄してください」と、弁護士から王室に手紙が届けられた。
他にも「私が指示された書類仕事は終了しております。書類内の婚約者予算は自分に使われていません」等との記載が。
そして夜会で身に付けていた物は、゛王子に貰った物では恥ずかしいので、同じような物を作って身に付けた〝ことも。
王子に貰った物は、全てお返ししますと弁護士が机に並べる。
模造ダイヤのペンダント
古い意匠の指輪
白薔薇の髪飾り
象牙のブローチ
ピンクのリボン
花束は弁護士が購入してくれていた。
10年間の婚約でこれだけ。
ドレス1枚も送っていなかった。
「クロルニウム! お前にあたえた婚約者への予算、どうしたのだ! 確か、毎回使いきっていたな!」
「っ、そ、それは………」何も言えることはない。
顔を青くするだけだった。
王妃様も「なんで何にもプレゼントしなかったの? 本当なの? いくらなんでも、酷すぎるわ。全然知らなかった」と涙声に。
第二王子フランシスも唖然としている。
まさか、ここまで屑だったなんて。
ああ。あの時彼女がスッキリしてたのは、こういうことだったのか。
それは愛想もつきるよな!
でも、隣国かあ。行けない距離じゃないよなと綻ぶのだ。
クロルニウムは言う。
「だってあいつは俺のもんだろ? 所有物に金なんてかけないだろう、普通」
男尊女卑甚だしいが、それを許したのはまさしく王様と王妃様なのだ。
クロルニウムを擁護したいが、間に弁護士が入っているので誤魔化しはできない。
どちらにしろ、クロルニウムが支払いできなければ収監される。
それを避ける為には、臣下に落とし与えた土地を売却するしかない。
クロルニウムが、口を出せることはもうないのだ。
出奔した公爵家に籍を移したが、土地のほとんどを国などへ売却することになった。
その為、税収では食べていけない。
商売をするか働きにでなければ、その内爵位も売るしかないだろう。
その後は身分もない、元王族としてどうしていくのか?
何とか心を入れ変えて、堕ちる前に頑張って欲しいものである。
クロルニウムが女達にアクセサリーを買い与えた店は、あの騒ぎの後閉店していた。
どうやら詐欺で、模造宝石を売っていたようだ。
貰った女達も売却してもいくらにもならず、途方にくれることになった。
特に男爵令嬢カミレ・ネカクレは、長くクロルニウム王子と付き合い傲慢に振る舞っていた為、嫁の貰い手がなかった。
クロルニウムにも、それどころじゃないと突き放されてしまう。
近い内に腹の突き出た薄らハゲの、孫もいるエロ親父の後妻として嫁ぐそうだ。
クロルニウムの頭部も、天辺が寂しくなったらしい。
グレナダの呪いかしら?
いやいや、グレナダはもうクロルニウムなんて忘れて、父の貿易船で通訳としてイキイキと働いている。
結局こちらからの婚約破棄だからと、国から提示された慰謝料は受け取らなかった。
クロルニウムから逃げられただけでプラスだから。
王太子妃教育で、語学も学べたしね。
両親も仕事の手腕と隣国の叔父達の信頼もあり、近々子爵となる予定だ。
もし第二王子がアプローチに来たら、どうするのかな?
今の生活が、一番幸せなグレナダですから。
タニアとも親友として、文通しているしね。
未来は、これからだ!!! てねっ♪
クロルニウムが、公爵領を売っても大した金銭を得られなかったのは、元々貿易で益をなした家で海岸縁の貿易や漁師等、特殊な職種にしか使えない土地だった為。 農耕をされている土地ではないのです。 しかも下手な貴族に売ると、密輸やら他国の密航等問題が増えるだけです。
資質のある貴族と調整が必要なので、取りあえず取っ払い状態で国が買い取っているので安くなりました。
(上記のことを加味して弁護士が入り、調整は行っています。悪質事例な為、支払いが遅くなると収監を逃れられないのです。)
さりとてクロルニウムの横領金を、王様や王妃様、第二王子の資産から支払うことは、それも税金使用になってしまうので認められません。
他貴族から借りても、弱味を持たれることになるので推奨されません。
苦肉の策だったのです。
7/12 ランキング7位でした。
ありがとうございます(*^^*)