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第七話

※多少、流血表現があります。

悩んでいる間にも時は過ぎる。

答えのでない事に悩むぐらいなら、己がどうしたいかを考え動かなければ。

時間は有限ではない。


私がしたいこと。

第一、自分が死ぬこと。

第二、ギルバート殿下が幸せになること。

第三、グロリアがハッピーエンドを迎えること。


物語はほぼ分岐できないルートに入っている。

分岐できるのはグロリアが死ぬか、生きるかのみの選択だ。

そこに強引にギルバートの幸せを挟み込むのは至難の業だろう。

だが、できることをできる限りしてそれで駄目ならそれまでなのだ。


”全てに優れた男”は計画も用意周到だ。

全容は彼しか知らない。

関わる人間はすべて盤上のコマであり、己の計画通りにそれを動かしていく。

そこに私は組み込まれているかなど知る由もないが、私はイレギュラーだ。

完璧な計画に穴を開ける厄介者、計画を知るもう一人の人間。


「私は優しくなんてないんですよ、殿下」


他者から見れば私の親切は優しさだろう。

だが、私はただ自分の死をいいものにしたいから親切にしているだけ。

中身など何もない、空っぽの人間だ。

今回の事だって私が死ぬことが第一優先、二番目以降はそこに至るまでにできるだけ良い事をしておきたいというだけの話。

そもそももっと前に止められた事を止めず傍観していたのだ、どこに優しさがある?


そして私は彼の計画に小さな穴を開けた。





「裏切ったな!!アンジェラ!!!」



鬼の形相とはまさにこの事。

不機嫌になることはあれど、私に対して怖い顔をして怒鳴ることなど一度としてなかった彼がそんな顔をしている。

それだけの事をした自覚はあるが、謝るつもりはない。


冷たい床の上に放り投げられ襟首を掴まれる。


「いかなる理由があろうと俺はお前を許さない」

「そう殿下の中でお決めになったのなら従いましょう」

「従順なフリをしていずれ俺を殺すのだろう、お前は」

「なぜ私があなたを?」

「あの馬鹿王子とする謀りごとは楽しかったか、アン」

「謀りごと…。あぁ、グロリアの誕生日祝いの件なら王子と共にいたしましたが」

「俺を愚弄する気か!?あの馬鹿と結託し、俺を亡き者にしようとしたのだろう?」

「私が、殿下を?」

「白々しい」



そう私は少し時計の針を早めた。

私が殿下を王子と結託して殺そうとしていると噂を流した。

嫉妬に狂い、私に裏切られたと思い込んだギルバート殿下は、己の計画が整わないまま王子を殺そうと動くだろうと踏んでの事だったが、見事に引っかかってくれた。


ギルバート殿下が個人で所有している屋敷に呼び出されて赴けば、問答無用で牢に放り込まれ、今は彼から尋問を受けている真っ最中だ。


「俺はお前を愛していた!!なのになぜお前は俺を愛さない!!あまつさえあの馬鹿と共に暗殺計画を立てるなど……!!どこまで俺を愚弄すれば気が済むんだ!!」


怒り、悲しみ、嫉妬、恐れ、愛しさ……

様々な感情が入り混じったその叫びに、彼を抱きしめたくなるがそれをしてはいけない。

私はもう事態を動かしてしまったのだから。


「アン、俺のアンジェラ。お前だけは信じていた、お前だけは俺を愛してくれると……」

「……」

「何も言わないのか」

「何も聞こえないあなたに言う事はありません」

「そうか、残念だよ。アンジェラ」



それから数時間で私は牢から出された。

小規模なパーティーができるように存在するダンスホールに連れてこられ、顔に大きな火傷を負ったグロリアと対面する。


「ギルバート殿下……。あなたというお方は……!!!」

「お前も怒りを持つんだな。いい顔が見られた」

「女性の顔になんてことをしているのですか!?」

「もうすぐ死ぬ女をなぜそこまで気にする?」

「……私の目の前で殺すおつもりですか」

「裏切りには裏切りを。大事なものを奪われたのなら大事なものを奪う。それが俺だ」


この大馬鹿野郎と叫びたかったが、ストーリーが多少変わってしまっている以上不用意な発言はするべきではない。

ギルバート殿下が指先に炎を集め始める。

あれの矛先はグロリアだ。

大丈夫、落ち着け。

私はできる、グロリアとそして殿下を生き残らせるのだ、絶対に。


「アンジェラ、俺がお前の友人を殺す所をよく見ておけ。二度と俺に歯向かうことがないよう覚えるんだ」

「グロリア!!!!」



瞬間、私とグロリアを光が包む。

その直後にやってきた腹部への焼けるような痛みと不快な肉の焼ける匂い。

あぁ、成功したのだ。

私はグロリアを救えた。


これで”私”の役目は終わった。



「アン、ジェラ……。なぜ……」

「言ったでしょう、私は人を守るためにしか魔法が使えないと」



“ヒロイン友人”がどのルートでも死ぬのは自身の魔法が原因だ。

彼女は人を守ることにしか魔法が使えない。

それも自爆とも言える魔法なのだ。

「守りたいと思った対象者と自分の位置を入れ替える」

彼女が使えるたった一つの魔法。

危機的状況でしか発動しないそれは自分でも使えるか分からなかったが、やはり使えたらしい。


鼓動に合わせてどくどくと流れ出る血の量は致死量だろう。

それでもいい。

ようやく終わらせることができたのだから。



視界の端でギルバート殿下が駆け寄ってくるのが分かるが、動けそうになかった。

私を抱き起こし、必死に私の名を呼ぶがそれになんと答えたらいいか分からない。



「あなたは、誤解をして、る。私は、ギルバート殿下の……幸せ、……を願っている……」

「お前がいてこその幸せなんだ!!俺をおいて逝くな!!アンジェラ!!」

「きっと素敵な、人に出会え、ます……。」



こんな死にたがりの女より、普通にあなたを愛してくれる人に出会えればいい。

あなたが不幸になる運命は阻止しているのだから、あなたはどんな幸せでも望める。

あなたが立てた計画はひとつも実行されていないし、露呈もしていない。

今回巻き込まれたのは私とグロリアだけ。

私があなたの暗殺を計画したための粛清。

グロリアは私に巻き込まれただけ。

お咎めなし、とまでは行かないだろうがあの結末よりずっとマシなはずだ。

だから大丈夫、あなたは幸せになれる。


その思いを込めて微笑んだ。

これで終わるんだと思っていたのに……。




「ギルバート様、どいてください!!」


ヒロインであるグロリアの声が聞こえる。

なんで、どうしてと思うが、息をするのがやっとで、しゃべることなどできない。


「アンジェラさま、今助けますから!!」


傷口から暖かな力が流れ込んでくるが、私の体は冷えていく一方だ。


「ギルバート様!アンジェラさまを助けたいならその有り余る魔力を私に預けてください!!私だけの力じゃ助けられません!!!!」


瞬間、全身が暖かな力で包まれ呼吸が楽になる。

冷えていた体も徐々に温度を取り戻していく。


「アン、アンジェラ。俺のアンジェラ……」

「これなら…!」



……私は生きていてよかったのか。


両親にとって前世の記憶がある私はおかしな子供だったろう。

愛してはくれていただろうが。どう育てたらいいかわからず持て余していた。

奇跡のような事を起こすが、その恩恵を受けた事がないものからは「頭がおかしい」「化け物付き」だと陰口を叩かれた。


そんな私だからグロリアに出会うまでずっと孤独だった。

だからこの子を守って死のうと思った。

”ヒロイン友人”としてではなく、私の意思でだ。

二度と前世の記憶をもって生まれ変わることがないように、輪廻転生の理から外れて完全に消滅できるように。

ギルバートの炎に焼かれ髪の毛一本すら残さず消えようと。


なのに二人は必死に私を生かそうとしてくれている。

その思いだけで十分だった。


「ありが、とう……」



そして私はまぶたを閉じた。

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