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第五話

「目覚めたか」

「……ギルバート殿下」


どうやら死亡ルートを回避してしまったらしい。

さて、そうなると残されるのはグロリアも死ぬバッド・エンドか、ギルバート殿下が死ぬハッピーエンドになるわけだがどちらに転ぶのか。


「何を考えている」


考え事がバレたようで不愉快そうに彼の眉間にシワが寄る。

これからのあんたの人生だよ、とは言えないのでその問いを無視できる言葉を探す。


「随分と心配をおかけしたようで」

「三日三晩眠ったままだ。さすがにな」


思惑通り話を逸らすことができたが、色濃い疲れの表情を見せる彼に少しばかり驚き、心配をかけた事を謝罪する。

寝転んだままだった事を思い出し、さすがに失礼にあたると起き上がろうとすれば彼に制され、そっと抱き寄せられた。


「殿下?」

「腕の中で冷たくなっていくお前に目の前が真っ暗になった。どんな手を使ってでも生かすことだけ考えた。そしてやった相手に地獄を見せると」

「それで気が晴れたのですか?」

「まさか。実行しようと考えていた時、お前が俺に軽蔑した視線を向ける夢をみた。お前は望まないんだろう?誰も恨まない、相手にしない、それがアンジェラという女だ」

「よくおわかりで」

「だから、実行犯たちは然るべき奴らに引き渡して俺は傷ついたお前の側にいる事にした」


おっとー?

私はどこでギルバートとのフラグを立てた?

あれか、「頭のいかれた女」から「おもしれー女」になっていたのか?

私はヒロイン友人のアンジェラであり、どこの誰とも恋愛にならずに死ぬ女のはずだ。

でも話の流れからすると、ギルバート殿下の行動はヒロインのピンチを助けたヒーローだ。

これを折るにはもっと過去でルート分岐が必要だったのだろうか…?



「体の傷は治っても心の傷、特に恐怖はすぐに治るものじゃない。俺が側にいてやるからいつでも呼べ」

「ありがとうございます、ギルバート殿下。でも私は……」

「傷ついてなどいない、だろう?お前はそうやっていつも一人になろうとする。やんわりと人を遠ざける。心の中を見せているようで、絶対に見せない部分がある」


その言葉に私は体の力を抜いた。

全て当たっている。

彼に嘘偽りを言った事はないが、意図的に見せていない部分はあった。

だが、ソレは仕方ないだろう。

私は前世の記憶を持っているのだ、それを言って益々孤独を深めることはしたくなかった。

それにどんなに惹かれていたって私は”グロリア”を守って死ぬ。

いま私を抱きしめているこの男に殺されるのだ。

それについては何も言うことはない。

ただ、私を思ってくれているこの人に私を殺させてしまう事に心が痛む。


「アンジェラ。少しでいい、今体の力を抜いたようにその心を俺に見せてくれ」

「……殿下はどういったお気持ちでそれを私に言っているのですか?」

「今の段階で愛してると言ってもお前は微笑んで礼を言うだけだろう?俺の気持ちは固まっていてもお前が心を開いてくれない限りこの言葉は響かない。無駄な事はしない主義なんでな。だから質問の答えとしては”お前に愛されたい”からにしておこうか」

「それはとてもずるい答えですね」

「俺はお前の全てが欲しい。そのためには待てるという、話だ」


頭の中でカチッとなにかピースがハマった音がした。

そうか、これがハッピーエンドへのフラグの一つか。

王子を殺そうとしたのは自分の長年の嫉妬心もあるだろうが、私がグロリアや王子と親しくしていることも気に入らなかったのだ。

あるいはアンジェラが手ひどい裏切りをしたのだろう。

”アンジェラ”が自分よりも友人を優先し、己を裏切った。

その事実が積年の嫉妬心と相まって、この人を狂人へと駆り立てた。



その運命が避けられないものならばせめてもの罪滅ぼしとして、この人の側にいよう。

私のためと言いながら、自分のために私を側に置こうとする彼の震える体をそっと抱きしめた。




その後、殿下と入れ替わるように見舞いにきた両親に会ったのだが短くなった髪を見て悲鳴を上げた。

当てつけに坊主にでもしようかと思っていたのだが、たかが髪が短くなったぐらいで私より悲しむ二人を見て思いとどまった。

両親によれば私がいるこの場所は王家専用の病院でギルバート殿下が、私の身の安全を最優先してくれたおかげで入院できたとのことだった。

まぁ、学園内で襲われたとなれば王家以外に守れるものなどいないし、あの様子だとかなり責任を感じていたようだったので当然の流れなのかもしれない。

あと数日で事件の処理が完了するとのことだったので、それまで入院だと聞かされた。


「それとね、アン。あなたの意思を優先したいのだけど、ギルバート殿下からあなたを妻に欲しいと内々に言われたわ。後日正式な申し込みもすると」

「嫌だったら断ってもいいんだぞ」

「断れるはずないでしょう?お父様」


王家からの正式な申込みに断る事などできはしない。

着々と外堀を埋めてくるのは私の身の安全を考慮してか、己の欲望のためか……。

前者だと願いたいがここに来てあの人がよくわからなくなっているので、後者の可能性もある。

けれど、それとこれとは別問題である。

この世界で婚姻とは家同士の繋がりのために行われる。

我が家は王家との縁ができ、ギルバート殿下は金も地位もある家の後ろ盾を得られる。

利害は一致しており、家の格という釣り合も問題ない。

私が断ることなど出来はしないと分かっていて、この機会に自分を両親に売り込んだのだろう。

娘をやる男には娘を第一に考えて欲しいと思っている両親にとって、死にかけた娘を救い、手厚い治療と保護までしている彼に王族ということを抜いても否と言えるわけがない。

倒れている私を見て、瞬時にここまで計算したのかどうかは知らないがさすが”全てに優れた男”である。


「もし、正式なお申込みがありましたら私は快諾いたします」


両親を安心させるよう微笑んでそう言えば、二人はほっと息をついた。

そりゃそうだろう。

様々な噂がある私の貰い手に苦慮していたのだ。

これ以上無い良縁に喜ばないわけがない。

まぁ、そんな娘はあと1年もしないで結婚を申し込んできた男に殺されるのだけど。


疲れたから眠ると言って両親を病室から追い出し、ベッドへ横になる。



「……ほんと疲れた」



”アンジェラ”としての振る舞いをすればするほど心との乖離が生まれ、息苦しくなる。

前世の私はとにかく人の顔色をうかがい、その人に最適な自分を演じていた。

アンジェラになってからは人付き合いも最小限にとどめていたため、そこまで苦しいと思いはしなかったが髪を切られた事で”アンジェラ”としての心が折れた。

今の私がみなに求められるアンジェラになるのはとても気力がいる。


こういう時は寝るに限る。

私はこれ以上なにも考えたくなくて夢の世界に逃げ込んだ。

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