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第一話

みなさん、前世というものを信じるだろうか。

私は信じていなかった。

輪廻転生なんてのも信じていなかった。

でも、この状況になれば信じる他なかったのだ。


自分がどこかおかしな人間だという自覚はあった。

どこに属しても生きづらさは拭えず、そこから逃げるために私はゲームや小説、マンガを好んだ。

特に恋愛ものが好きで、ヒロインとヒーローの恋模様をひっそりと覗き見るモブになりきる毎日だった。

もちろん、女性向け恋愛ゲーム。いわゆる乙女ゲームも嗜んでいた。

(モブということが重要である。ヒロインに自分を投影しない楽しみ方がいいのだ)


そんな私は人生に疲れ、30歳を前に己を世界から消し去った。

要は自ら命を絶ったのだ。

これについては魔が差したとか、勢い余ってとか色々あるが、生きづらさを抱えてあとウン十年生きて行けるほど私のメンタルは強くなかった。


なのに、だ。

どうしてこうなった。


なにゆえ私は趣味として楽しんでいた乙女ゲームの世界の”ヒロイン友人”になっている?

しかもこのゲームは学園ものなのに結構殺伐としていて、選択肢を間違えるとヒロインは死ぬ。

”ヒロイン友人”にいたってはどのルートでも死ぬ。

死に方のバリエーションは様々で、嫉妬に狂った攻略対象の婚約者からヒロインを守って死ぬとか、ヒロインをいじめていると勘違いした攻略対象から殺されるとか、天変地異、事故でとかルートによって様々だが、同じ死に方は一つとしてない。

ただ共通しているのは誰かを守って死ぬということだ。


それはまぁ、いいのだが。

なんで自ら命を絶った人間が第二の人生なんて歩まなければならない?


この世界での”私”が自我を確立する前に思い出した様々な記憶は、その後の人生において中々に困難を与えた。


私は”生きづらさ”を抱えていた人間だ。

いくらこの世界の自分の容姿が整っていようが、ご令嬢だろうがなんだろうが、そこは変わらなかった。

前世の記憶を思い出してしまった私は子供らしくない達観した考え方を持っていた。

そうするとどうなるか。

まぁ、友達なんてできるわけがない

そしてこの世界でも生きづらさを抱えることになってしまった。


救済は”死ぬこと”によって得られると子供ながらに思ってしまった”この世界の私”は、二度と生まれ変わらないように前世で聞きかじったどこかの宗教の教えを取り入れていた。

その宗教では輪廻転生の理から外れることが幸せになることだと教えられていた。

それには多くの徳を積むことが必須になる。

欲望を最小限にし、慎ましく、他者を敬い、どんなことも許す。

様々なものを丁寧に扱い、磨き上げ、己の邪念を払う。

そして自分の知識は惜しみなく人に与える。


この”自分の知識は惜しみなく人に与える”という所で私は失敗したのだ。


この世界は中世ヨーロッパの町並みや文化に魔法を加え、若干現代の要素も入った世界観。

ゆえに生活水準が前世とは比べ物にならないほど低い。

不便な事が多く、正直ご令嬢と呼ばれる”ヒロイン友人”ではない人間に生まれ変わっていたらと考えるとゾッとする。

便利な事が必ずしもいいこととは言えないが、楽はしたい。

そして効率が悪い部分は変えるべきである。

強引に変えようとは思わなかったので、うちで働いてくれている人に軽くアドバイスする程度だったが、大変喜ばれた。

そしてあっという間に街に広がり、国に広がった。

友達もおらず、生きてるのもどうでも良かった私は”深窓のご令嬢”として家に引きこもっていたのでそんな状況を全く知らなかった。

それが原因となり、やりすぎたことに気がついたのはこの国の聖女だ天使だなんだと祀り上げられた後だった。


知ってる。

私この通称知ってる。


”ヒロイン友人”はサブキャラである。

けれど、庶民の出であるヒロインを優しくときに厳しく、立派なレディに育て上げたキャラクターだ。

その温和で優しいヒロイン友人は”学園の天使”なんて呼ばれていた。

なるほど、その通称は学園に入ってからつけられたものではなかったのか。

まぁ、名前が「アンジェラ」だもんなぁ、そこからキャラクター付がされたのかどうかは知らないけど。


さて、”ヒロイン友人”こと、私、アンジェラは今日も今日とて徳を積むために掃除に勤しんでいる。

お嬢様が何をしているのだと最初のころは家族にも使用人の人に怒られたが、そこは”天使”と言われる金髪碧眼の容姿を駆使して嘘の涙一つこぼして丸くおさめた。


私がゲームの舞台となった学園に入学するまで後ひと月。

全寮制のその学園は立派な紳士淑女となるべく高貴な身分のものが集められる場所だ。

ひょんなことから貴族の養子になったヒロインは平民出身ながらそこに入学することからストーリーは始まる。

プライドの高い貴族の中に平民が放り込まれ、四面楚歌(いや針のむしろか)の環境の中健気に生きるヒロインに学園で人気のある(もちろん高貴な身分の)攻略対象たちが心惹かれ、ヒロインと結ばれる王道ストーリー。

王道だからこそ、選択肢を一つでも間違えると死ぬというおかしな仕様になっているとも言えるし、アンジェラの死は恋のスパイスである。


ちなみに私の寿命はどんなに長くてもあと3年だ。

あと3年も生きなければならない。

だが、その3年の間に二度と生まれ変わらないよう、たくさん徳を積むのだ。

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