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現代×魔導 第一章 第五話 呪詛魔導士事件  作者: マグネシウム・リン
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 東京潰瘍内部──旧渋谷区

 カナは廃墟の雑居ビルの、屋上のへりに腰掛けてぐぐぅと背伸び=「陰鬱ね、ここは」

 吹き付ける海風も日光もない、ただ停滞した空気と時間=廃墟の町。

 カナ=佐賀出身/大分育ち。渋谷なんてテレビの中の世界/人と人と人に溢れる街だった=今は廃墟の間を怪異が跋扈(ばっこ)する地獄。

 遥か眼下/渋谷のランド―マークだった交差点のど真ん中に設置された潰瘍の監視ポスト=その脇に2台の多目的輸送車(ハンヴィー)が停車/第1小隊が修理作業中。

 潰瘍内部で活動するための防護服&強化外骨格(APS)、そしてMk.IV(マークフォー)ライフル。

 普通の人間になりたいと夢想したことがある/今は人間じゃないことに感謝=潰瘍の中にいても魂が溶け出したりしない。

 右耳に装着した無線機(インカム)から呼び出し。

「デコちゃーん。4時方向、ボギー」

 ポイントマン=リンが強化外骨格(APS)の機械仕掛けの脚力で走ってくる=その背後/6本足のC型怪異=象とサイとカバをごちゃまぜにしたような姿/線路の陸橋を弾き飛ばす/触手で枯れた街路樹、破棄された車両、街灯をちぎる&投げ飛ばす。

 爆豪&爆炎=怪異の腹下で魔導障壁対策済みの対戦車地雷が一斉に起爆/外国の軍隊から払い下げらた軍需品/戦争が無くなったせいで不良在庫に。

 再びインカムの向こうでリンが叫んだ。

「あーやっぱだめか。魔改造の対戦車地雷じゃ効果なし」

「だから言ったでしょ。あの稟議書も本社には出さないわよ」

「でもRPGなんて不良在庫がゴロゴロしてるでしょ」

「それはあなたが撃ちたいだけでしょ。あのね、常磐が武装したら文句をつけてくる人が増えるの。ちびちゃんの古巣の人たちとか」

「陸自? あー何人か顔が浮かんだわ」

 再びインカムからコール/割り込みが入った。

「おい、怪異じゃないか。こっちの作業はまだ時間がかかる。そっちで片付けてくれ」

 ケン=監視ポストの復旧作業班を指揮。

 リン=銃を構える素振りなし/豆鉄砲では効果が無いのをわかっている。

「デコちゃーん。お仕事」

「はいはい、わかっているわよ」

 重たいお尻を持ち上げた/こういう荒事はニシの仕事/しかし彼と同じ(最高位)として強さを仲間に示しておくのは悪くない。

 指が艶やかに舞い印を結んだ。カナの周りに軽やかに流れ出すマナはまるで魔導の四重奏(カルテット)だった。

「フラッシュ!」

 神妙な所作&横文字な呪文=出典はマジカル★ガールズ/土曜朝7:30から大絶賛放送中。

 光の壁/裁断機がC型怪異を両断する/さらに裁断機が光の速度で落下=食前のミートローフのように輪切りに/マナを帯びた光の圧で怪異は霧散した。

「あたしに当たりそうだったんだけど」

 インカムの向こう側でリンが喚く。

「ちゃんと外してあげたでしょ」

 遥か眼下/小さい背格好の防護服&強化外骨格(APS)はひとしきりにカナへ文句を言い終わると、ライフルを構えた。わらわらと集まってくるA型怪異を倒していく。

 カナ=手のひらを見ながら開閉。

「やっぱり付け焼き刃ね。ニシには遠く及ばない」

 ニシには魔導の先生がいた/かなり厳しかったらしい/攻撃性の魔導ばかりを教わって修練してきた/いつか悪意ある魔導士に対抗するため=一緒に働きながら見聞きした彼の努力の過程。

 カナの手の中でかすかな光が発生──消失。

 きっかけは5年前の魔導災害/電磁パルスによる広大な被害──が地元ではほとんど無かった。変わらぬ日常とテレビの中の大災害=攻撃性の魔導を習得するきっかけに。

「デコちゃん、装填中!」

 リンは弾倉を交換/カナ=待っていましたといわんばかりにマナが流れ出す/魔導の四重奏(カルテット)

 カナの周囲を光球が旋回=リンに群がるA型怪異に狙いを定めた。

 高出力のレーザ光線/薄暗闇の潰瘍の廃墟群が真っ白い光に照らされる/熱で空気が歪む。

 地面を蒸発させながらリンの周囲の怪異を排除=なんてことない雑魚の排除。

「さっすが、デコちゃん。(最高位)の魔法使い」

魔導士(・・・)です。こういうときだておだてるのは反則なんだから」

「へーそう。自信がなさそうだったからサ。インカム、独り言がダダ漏れだゾ」

 カナは、はっとして口を閉じた=もう遅い。

「どんだけ卑下しても、デコちゃんは最強人類の上位1%に入ってるんだから。まるで範馬勇次郎ね」

「率直に喜べない褒め方はやめて」

 リン=気にする素振り/なし。廃墟ビルの屋上にいるカナへいいね(サムズアップ)

 しかし/口を閉じていることを確認=人類の仲間に入れてくれたのは嬉しかった。

 「人間じゃない」=幼少期から続く/元友人の声で/教師の声で/自分の声で。

 だから自分以外の世界すべてが憎かったし世界を拒絶することが個性(わたし)だと思っていた。

 青天の霹靂=光を祀る神社の家族/養子に来ないか=快諾。

 2つ目の家族、2人目の母親と2人目の父親、(うやうや )しく受け入れてくれた氏子(うじこ)さんたち。

 ああ、懐かしいな。

「デコちゃーん」

「聞こえてるから。叫ばなくていいから」

「なんかぼーっとしちゃってたから。修理完了。次は代々木公園。あたしの青春の舞台でもあった原宿よ」

「ええ、そうね。ここから北へ1kmね」

「そっけないなー」

 眼下=隊員たちが各々多目的輸送車(ハンヴィー)に乗り込んで移動する。

「私は都会っ子のちびっこ隊長と違って田舎者ですから」

 雑談をしつつ魔導を展開/身体強化=予備動作なしの跳躍で隣の廃墟ビル/廃墟ビル/線路の外壁に降り立つ/線路を蹴って飛翔しながら多目的輸送車(ハンヴィー)に追いつく。

「あらあら、よかったじゃん。ケンはそういう素直そうな田舎っぺが好きだからね」

 インカムの向こうで言い争いが聞こえる──たぶん、先月の合コンで逢瀬(おうせ)を共にした彼女さんのことを話している。

 1つ目の実家には、少なくとも和気あいあいした雰囲気はなかった=初めて心の底で笑ったのは2つ目の実家に来てから。

 私を人間だと認めてくれた/受け入れてくれた家族=転換点。友だちもできたし勉強も頑張れたし魔導工学を極めたいと思えたのもあの環境のおかげ。

 地上に降り立つ/代々木公園=枯死した林が視界を遮っている。

「修理作業は?」

「んーやっぱりダメね。まるごと交換みたい」

 リンが肩をすぼめた。

 隊員たちは多目的輸送車(ハンヴィー)の荷台から新しい監視ポストを下ろす/地面に立てる/硬い地面を選んで固定用のボルトを強化外骨格(APS)杭打機(パイルバンカー)で打ち込む。

 円筒形の監視ポストが空を向いた=通信中継/怪異の探知/地形把握etcの多機能モデル=少々高価な品。

 リンの瞳がくるくると動く=強化外骨格(APS)の頭部ヘルメットに内蔵されているヘッドアップディスプレイをざっと閲覧/監視ポストから敵データを受信=「また怪異よ」

「はいはい、わかってますよ」

 指が艶やかに舞い印を結ぶ。

 光線が編み上げられドーム状に仲間たちを覆う/接近する怪異は阻まれる/無理に押し通ろうとして焼き切れる。強力な魔導の展開に作業中の隊員たちも手を止めて金色に輝く防御系魔導に目を奪われていた。

「ヒュー、ニシに負けないのね」

 リンは防護服越しの地声で話した/ややくぐもっていて聞き取りづらい。

「ええ。負けるつもりがないからよ」

「いいじゃんいいじゃん。いい女じゃん。まさに神業」

「不敬ね。これでも神社の養子なんだから」

「知ってる。大分でしょ。でもどこだっけ、大分」

「ふん、ガキンチョにはわからないでしょうね」

 しかし/やっぱり=リンはけらけら笑っていた。

「ニシみたいに帰省はしないの?」

「正月にちょっとだけ。でも新年のお祭りだったり氏子さんに挨拶したり、大変だったわ」

 帰省したとき生物学的な実家にも顔は出したが──居心地が悪くなり翌日すぐ育ての実家へ出向いた。普通であることにこだわらない、私の個性を評価してくれた家族。血の繋がりはないけれど日が経つにつれて郷愁感が募っていく。秋の例大祭にはもう一度帰省して光の巫女らしい仕事をしてやろうか。

 隊員たちのハンドサイン=古い監視ポストを多目的輸送車(ハンヴィー)に積み込み、新しい方を起動、展開した。

「お仕事終了! 帰ったら何する?」

 リン=無邪気に。

「シャワーね。ちょっと汗かいちゃった」

「じゃ、そのあいだにニシに電話しようかな」

 抜け目ないな、この都会の肉食獣(クーガー)は。

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