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現代×魔導 第一章 第五話 呪詛魔導士事件  作者: マグネシウム・リン


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 ニシ/頬杖をついて目は半開き=パソコンから社内SNS(スカッシュ)を流し読み/浜松からはアクセスできなかったせいでここ5日分の出来事をざっくりと頭に入れておく。

 右耳付近=魔導でスマホが浮遊/LINEアプリ/音声のみの通話相手はカナ=深夜だというのにまだ元気。

『───っていうからさ、信じられる? 信じられないよね? あれ、ニシ、聞いてる?』

「聞いてる。うなずいてやったろ」

『うっそー。聞こえなかった』

 社内SNS(スカッシュ)の内容/日報=特にトラブルが起きなかった/めずらしくカナが潰瘍内部の作業をサポート&戦闘=本来はニシの仕事。

「新渡戸補佐官というばーさんが要注意、っていうのはわかった。寺社連合(レンゴー)(最高位)の魔導士ねぇ。岐阜や富山の潰瘍で怪異とやりあってたんなら俺は全然知らないな」

『あの目、絶対野望を企んでいるわよ』

「どんな目か知らないし。でも誰にだって目標やら野望はあるものだろ。考えすぎじゃないか」

『うぅ、それはそうかもしれないけど』

「カナにだってあるだろ、野望とか叶えたい目標とか」

別に(・・)。私は崇高な科学者ですから』

「隠し事、してる。そう顔に書いてある。おでこあたりに」

『なっ。あれ、ビデオ通話じゃ……ないよね。それなら嘘をつかない素直な人ってことでしょ』

「頑固でもある。頑固だから隠し事もできない。でも悪いことじゃない。俺だって頑固で素直な人は好きだ」

 電話口=無言に/寝落ちした可能性。

「もしもし?」

『えへん! 別に(・・)、まあとにかく私は大丈夫』

「そっか。なら良かった。明日は予定通り出勤できる。お土産も買っておいたから。ひつまぶし」

『あら、お気遣いどうも。私もニシのために新東京カスタードプリンを1つ残しておいてあげたから』

 妙な商品名/たしか新東京のお土産のひとつだったか。

「じゃあ、また明日」

『うん。絶対に遅刻しないでね。遅刻したら私がプリンを食べちゃうんだから!』

 通話終了/そんなにプリンが気になるなら食べてしまえばいいのに/不器用な気遣いに感謝。

 そろそろ寝よう=パソコンの電源を落とす&デスクライトのスイッチに手を伸ばした時、

「お兄さん。あの、入ってもいいですか」

 珍しい訪問=こんな時間に。

 ニシは短く返事をすると、魔導で部屋の電気をつけた/真っ白いLEDライトの光で瞳孔が細くなる。

「わたし、眠れないのでちょっとお話、いいですか」

 断る理由=なし。

 サナは丁寧な手付きで入り口の戸を閉めるとテクテクと歩いて、部屋の真ん中でちょこんと正座した/濡れたままの髪が緩い灰色のスウェットに垂れたままだった。

「またドライヤーが無かったのか?」

「えっ、ああ、そうですね。忘れてました」

「そのままじゃ寝られないだろう。ちょっとそのまま、じっとして。乾かすから」

 マナの奔流/サナの周囲で暖かな風が渦巻く=この程度の魔導なら詠唱は不要。

 サナも目を閉じたまま時折頭を振って髪を乾かす/風が舞う/髪が舞う/漂うシャンプーの香り=サナが使っているトリートメントの香り。

「ヘヘッ、お兄さん、ありがとうございます」

「できた。できたが、なんだかゴワゴワしている」

 召喚=更にマナを消費/ニシの右手に簡素な(くし)が現れる。

「はい、これ」

「お兄さん、()いてくれませんか」

 若干/思案=話をするため考え中、ということか。

 ニシはサナの背後に回って櫛を髪に通した/長い髪=櫛の歯の間に枝分かれして流れまたいっしょに流れていく。

「毎朝あの三つ編みをしてるんだろ。すごいな。子どもたちにたまにやってあげるんだけどなかなか形が整わないんだ」

「難しくないですよ。フフ、お兄さん、練習してみますか」

「だがもう寝るんだろ?」

「構いません。どうぞご自由にいじっちゃってください。でも痛くしないでくださいね」

「そう、じゃあ遠慮なく」

 3つの毛束を作る/順番にクロスさせていく/あまり引っ張りすぎないように注意。

 気づく=サナの話し方も雰囲気も少し変わった/子どもたちの前では今まで通りのお姉さん役/しかし今は違う。

「少し大人っぽくなったか」

「あら、女の子は成長が早いんですよ」

 気丈に受け流された=大人な余裕ある受け答え。

 3つに分けた毛束を崩れない程度に引っ張りながら結う/やっと毛先まで来た。ニシはサナからヘアゴムを受け取るとその先をひとつにまとめた。

「できた。痛くなかったか? ちょっと引っ張りすぎたかも」

「ほんの少し。でも大丈夫です。大切な人にこうして髪を結ってもらったときのことを思い出しました」

 物憂(ものう)げな言い方/後頭部しか見えないので表情まではわからない。

「浜松から帰るときも言ったが、何を思い出したか別に言う必要はない。それに帰るべき場所を思い出したのならそれもいい。もし厄介事に巻き込まれるというのなら、まあ大丈夫だ。できる限り護ってやる」

「今のわたしに、帰る場所は無いんです──」

 唐突に/しかしサナは勢いよく振り返った/遠心力で三つ編みが大きな円を描いた。

「──だからこのうちがわたしのうちなんです」

「そう、か。気に入ってもらえてよかったよ」

 家をなくした子たち/その子達のために帰る家を用意した=行くべき場所が見つかればそれでもいいし、ずっとここに住んでもいい=そういうスタンス。

「あの、お兄さん、“六つの子”というお話を知っていますか」

「いや、知らないな。昔話か?」

「むかしむかしあるところに貧しい村がありました。5つの悪魔に襲われて生きるのに必死な村です。その村では6番目に生まれた子供は勇者として悪魔に立ち向かう責務があるのです。その年の6番目に生まれた少女は悪魔に立ち向かうべく旅に出ます。1つめの悪魔を倒したとき、右腕を失いました。しかし彼女には魔導の素質があったのでそのまま旅を続けます。2つめの悪魔を倒したとき、今度は左足を失いました。魔導でまだ歩くことができるので旅を続けます。3つめの悪魔を倒したとき左腕を、4つ目の悪魔を倒したとき右足を失いました。しかし彼女は抜きん出た魔導の才能があったので問題ありません。5つ目の悪魔は強かったです。だから彼女はその生命と引き換えに悪魔を倒しました。めでたしめでたし」

 昔話にありがちな矛盾だらけのエピソード/とくに深みのない淡々とした物語。

「酷い話だ。めでたしじゃないし」

「そうですか? 有名な昔話ですよ」

「話の教訓は自己犠牲か、あるいは才能あるものの責任か。『善人たれ』まあわからない話でもない」

「もしお兄さんだったらどうしますか?」

「自分の四肢と命と引き換えに故郷の村を守る、か。ずいぶん大げさな話だがその村に命を賭してまで守る価値があるなら、そうするだろう。もっとも自分の命は全力で守ると思う」

「フフ、お兄さん、真面目ですね」

「現に魔導士してるし、子どもたちも組織の仲間も街も、全部守っているから。死ぬ覚悟は無いけど、戦う覚悟ならできてる。覚悟というよりなんとかなるだろうと楽観視しているだけともいえる」

「あの人も、そう言っていました──」

 不意に手がサナの両手で包まれた/組み合わさった手に涙が一滴 落ちてきて濡らした。

「──やっぱりお兄さんにはすべてをお話します。そうでないと、わたしを支えてほしいんです」

 サナから感じるマナの奔流/暖かく/柔らかく/優しい術式=少しだけ見覚えがあった。


挿絵(By みてみん)


「これは確か、ジジィがよく使っていた思念伝達」

 パチッ。

 花火が散った/停電&電灯が壊れた?=上も下も右も左も漆黒の闇に包まれた。

 平衡感覚が失われていく/体が落ちていく感覚と浮かび上がる感覚が同時に生じて気持ち悪い。

 しかし/くっきりとサナの姿は漆黒の闇の中でもはっきりと見えた。

「ほーら、お兄さん、リラックスして。わたしの見ている世界を共有しました。ジジィ師匠さんの魔導を見てちょっと真似してみました」

「確かに似ているが、似てるだけでぜんぜん違う。あれは記憶や考えを共有する魔導でこれはまるで……本当に浮いているみたいだ」

「へへっ、わたしなりの改良(モディファイ)です。ほら、あれを見てください。なんだかわかりますか」

「線、光の線か?」

 まるで夜空に光る星々がその線上に集められたかのよう/上も下もない空間でそれだけが唯一の目印/永遠に遠くまで光が伸びている。

「あれは世界線。無限に存在する無数の“今”が連なっているんです。あ、でもわたしの手、離さないでくださいね。時空の狭間で迷子になっちゃいますから」

「記憶を見ているだけじゃないのか」

「そうともいえるしそうじゃないとも……言葉にするのが難しいですね」

「サナ、この魔導の天賦はいったい?」

「思い出したんです。わたしの天賦。時間と空間を司る魔導士です。へへへっ、かっこいいでしょ」

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