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現代×魔導 第一章 第五話 呪詛魔導士事件  作者: マグネシウム・リン


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「いつもいつもひと押しが足らんに。それだからお前さんはいつまで経っても若造だに!」

 開かずの踏切で渋滞に巻き込まれている軽自動車/助手席がニシ/後席にトキノさんとサナが静かに座っていた=喚き散らしているのは運転席のジジィ/これで本日6度目のお説教。

「あの後すぐに常磐の対策チームが来たんだ。『現場保存のためにすぐに立ち去ってください』だと。俺みたいな(最高位)の魔導士がいたら検証できなくなるだと」

「だからそこで無理を言ってでも見るんだに! 神代の知識なんぞどの魔導士でものどから手が出るほど───」

「俺は、怪異と戦えて、魔導士の犯罪者を程度良く制圧できる今の能力で十分だと思っている。って何度も言ってますけど」

「口答えし───」

 しかし/運転席のヘッドレストを叩かれてジジィの首が残像を残して揺れた。

「あんたぁ、魔導のことになるといっつもおしゃべり(しゃんべー)でサナちゃんをみてごらんなさい、こんなにびっくりしちゃって(おどけちゃって)

 トキノさんの手刀/ジジィも黙ってハンドルを握り直した=いつもの夫婦の会話。

「サナちゃん、あっとゆーまだに。おばちゃん、さみしぃわ」

「はい、私もとても楽しかったです。でもトキノさん、これが今生の別れでは無いですからあまり悲しまないでください。きっとまた会いに来ますから」

 ちらり=窓ガラスに映ったサナを見た/こちらに気づきほほえみ返してくる=以前のサナだったらこんなことを言っただろうか/思案。

 ニシは一旦視線を遠く/静岡銀行の看板に移した後ジジィをみやった/さっきまであれだけうるさかったのに/無視された。

 記憶が戻った、ということでいいのだろうか。朝イチで会ったジジィはどことなく老けて見えた/その時の忘れられない一言=「お前がこの子、守ってやるんだぞ」

 何から? 誰を? ジジィは何を見たんだ?

 サナを守ることは、わかる。だが何から? ジジィはどんな記憶を掘り出したのだろうか。

「タカヒロさんとマキさんとはよく話せたに?」

 ジジィ/だいぶ落ちつたらしい穏やかな口調だった/両親の名前を言われるのに慣れないせいか誰のことか迷ってしまった。

「ええ、だいぶ。前に会ったのは5年前、少しだけモモを連れてきたときだけですから。あのときはなかば喧嘩別れだったのでだいぶ、お互いの理解が進んだ気がします」

 浜松での古代の魔導士騒動については両親に黙っておいた/話せばまたギクシャクしそうだった。

「川崎と浜松なんてそう遠くもないだろうに。もっと帰ってくればいいだろう」

「やっぱり、子どもたちのことを考えるとそうもいかなくて。みんな両親を失っているのに自分だけ親に会うなんて、許されない気がするんです。5年間帰省しなかったのは、仕事が忙しかったというのもあるんですが、一番は子どもたちへの配慮です」

「ふん、殊勝(しゅしょう)なことを言いおって」

杞憂(きゆう)ですよ、お兄さん」=ニシの後ろの座席/サナから言葉が投げかけられた。「子どもたちもお兄さんの家族なのです。ならばお兄さんのご両親にお(まみ)えるのもまた、ご縁というものです。他の子達だって会いたがっていましたよ」

 14歳だったはずのサナの大人びた意見/子どもたちの本音ならサナのほうが詳しいか。

「そうだな。考えておくよ。会えるとしたら年末の休暇ぐらいか。仕事が休めるように丹念に怪異を潰して回らないと」

 そしてもう一つの懸念=ジン/謎のパッシブ魔導を使う人の形をした化け物=一切情報が本社からもたらされていない。

「帰っておいで~、ニシちゃん」トキノさんの猫なで声「マキさんだってあなたのことをとぉぉっても大切に育てたんだから今さら6人子供が増えても問題ないわよ。なにせあなたが生まれたときは大変で大変で。私達も病院に駆けつけたんだから」

「おいっ! お前がわざわざいうことじゃないに」

 ジジィの激が飛ぶ/ふてくされて黙るトキノさん=裏表がない人柄。

「俺が生まれた時、ですか。その話ならなんとなく親から聞いたことがあります。臨月で心臓の音が聞こえなくなった、と。なんとか出産はできたけど心臓が動かず。でもぎりぎりのところで呼吸を始めた、と」

「そうよー。うちのぼんくら亭主ったら救急車が待てないっていって魔導でマキさんを浮かばせて病院へ連れて行こうとしたくらいなんだから」

「そんなことしてないに!」

 恥ずかしがり屋なジジィの否定=真意はその逆ということか。

 ニシでさえ知らない過去の出来事/横で聞きながらサナは神妙な面持ちだった。

「サナ、大丈夫だ。魔導士は死ににくいが病気だけは防げない。と言っても今の今までいたって健康だ。インフルエンザもノロウィルスもかかったことがない」

「そう───そうですよね。お兄さんは、お兄さんですから」

 サナの空元気=思い出した記憶が相当にショックだったのだろうか。



 新幹線のホーム/新横浜駅=東海道新幹線の終点駅へたった1駅=とはいえニシは心配事があった。

「ああ、お土産を買ってなかったな。あそこのキオスクでいいだろう。なあサナ、うなぎパイとうなぎまんじゅうとどちらがいいと思う? 俺はうなぎまんのほうが食べたいんだが、サナは何がほしい?」

 ことあるごとにお土産を催促する子どもたちの顔が順繰りに浮かんできた/子守はリンに任せた=なぜかカナも一緒に写った写真(セルフィー)が届いた/やっぱりモモは不機嫌なまま。

「リンとカナにもお礼を買っておかないとな。この冷蔵ひつまぶし、冷気を付術(エンチャント)すれば明日まで持ちそうだな」

 ニシは中盛の弁当箱を買い物かごに入れる/リンは大盛りでも平らげそう=普段の食堂の光景。

「おーい、サナ、どれにする───サナ?」

 背後/サナはニシの後ろに立ったまま/影が薄い/考え事をしているようで、

「すみません、お兄さん。ちゃんと聞いてませんでした。アハハ、だめですねわたし。うなぎパイなんてどうですか。なんだか絵がかわいいです。ウナギが何かよく知らないですけど、いいと思いますよ」

 ニシ=買い物かごに包装紙で包まれたお土産を入れながら、

「ジジィやトキノさんと別れるのが寂しいならまた来ればいい。何ならこっちの街に転校することもできる。あの二人なら養子縁組だって」

「いや、そうじゃなくて。あの、そうですね。また来たいです。でもでも、暮らすのはお兄さんと一緒がいいです」

 面映ゆい言葉たち/言った本人も恥ずかしそうにしていた。

 ICチップ入のクレジットカードで決済/溜まったマイルを計算/右手にお土産の入った袋/左手で熱々のうなぎまん入の袋をぶら下げた。

「うなぎ、食べたことがないんだったら、ほら。おいしいぞ。俺は猫舌だから食べるのは後でいい。気に入ったら全部食べてしまってもいいからさ」

 ニシは袋を差し出た/サナも手を伸ばす。

 しかし/ぎゅっと。サナはニシの右手を両手でつかんだ。

「わたし、今、ここにいますよね」

「あ、ああ」

「わたしのこと見えていますか。ちゃんと声も聞こえていますか」

「ちゃんと聞こえているけど、どうした?」

 サナの手が震えている/両手で包まれているせいで伝わってくる悪寒。

「わたし、怖いんです。目を閉じた瞬間に全部消えてしまうんじゃないかって。全部、夢とか幻想とかそういうのなんじゃないかって。わたし、(まばた)きするのも怖いんです」

 独白/蘇った記憶が彼女を煩わしている=判断。

 ニシは震えているサナの両手を、さらに上から右手で握ってやった/買い物袋は魔導で空中に漂っている。

「サナ、俺のことを信じることができるか?」

「は、はい。もちろんです。お兄さんはいい人です」

「いい人、っていうよりはいい魔導士だ。魔導はすばらしい。何でもはできないが大抵のことなら解決してみせる。サナのことはちゃんと見てるし話も聞く。どこかに置き去りにとか、そんなことはしない」

「───はい」

「ほら、行こう。早く新幹線に乗らなきゃ」

 サナ=目の前に浮いた涙を袖でゴシゴシとこすった/返事がまだ鼻声。

 過去がどうであれ/思い出した記憶がどうであれ=よりそうと約束したんだ/徹底的に寄り添ってみせるさ。

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