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現代×魔導 第一章 第五話 呪詛魔導士事件  作者: マグネシウム・リン


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 ニシは魔導で実家の玄関の鍵を外した/鍵も持たずに深夜に飛び出したせい=帰宅できたのはすっかり朝日が昇ってから。

 警察の堂々巡りな事情聴取=身元確認のために常磐興業の広報を通じて広瀬所長を夜中に起こしてしまった/遅れて到着した名古屋支部の魔導災害対策チームに再び同じ質問を聞かれ=解決したのはジジィの魔導のおかげなのでニシには詳細はわからず。

 アキの様態は安定しているものの常磐の系列病院へ移送された/帯同を許されなかった家族には(から)元気に事件解決を約束するしかなく/ストレスのせいで胃が痛い=胸焼けしたときのように吐きそうだった。

 軽くシャワーを浴びて動きやすい常磐のマウンテンパーカーに袖を通す/このほうが魔導を使うのにしっくりくる=服装にはむとんちゃくな性格。

 両親はまだ起きてこない=夕方シフトのせい。キッチンでひとり、パンにブルーベリージャムを付けてなんとか飲み込むと、そのまま森野邸へ向かった。

 今度は開いていた門から「おじゃまします」と言って入った。

「こっちだ」

 無愛想な声/ジーンズにポロシャツという年相応な落ち着いた服に着替えたジジィ=あれだけ先に帰ったのだから仮眠できたのだろう。

「遅刻じゃばかもん」

 ジジィの悪態=挨拶のようなもの/トキノさんからは“本音は逆"と教わった/ある意味でわかりやすい性格。

「で、アキの容態を回復する手段はあるんですか」

「あれは呪詛だ」

 ジジィ=単刀直入に/くるりと背を向けると土蔵へ向かう。

「呪詛、そういえばカグツチも同じことを言っていたような」

「お前さん、神の言葉を無視しとったんか」

「カグツチの言ってることは大概が支離滅裂だし、今回もその類かと。アキも、そういえば、学校で呪われた空き教室とかに行った後、左手を怪我していた」

「はぁ」ジジィの大きなため息「十分に前兆はあったわけじゃな。だが、呪詛をきちんとお前さんに教えなんだワシにも非がある」

 ニシ=目を丸くした。あのジジィが力なく(こうべ)を垂れている/歳のせいで丸くなったのか?

 土蔵の中は薄暗かった。黒ずんだ木製の棚に古書や美術品がぎっしりと並んでいる。土蔵の奥には注連縄(しめなわ)で囲われた書架(しょか)があり、子供時代のニシが興味を惹かれた禁書の書籍が並んでいる区画だった。それらを照らすのは現代的な照明ではなく大きな白熱灯で、黄色い光が頭上から降ってきている。

「火事になりません、あれ?」

「あれはワシが子供の頃から魔導で光っておる」

 ジジィが白熱灯に向かって手をヒラヒラと開閉するとそれに合わせて明かりも点滅した。

「でだ、お前さんに言葉で説明しても良いのだが、実演してやったほうが早く飲み込めるだろ」

 魔導で浮遊する灰色の毛玉=もぞもぞと見えない魔手から逃げようともがいている。

「ネズミ?」

「たまに家に出るもんで、魔導の実演のために獲っておいた。ほれ、さっさと()ってみろ」

「え、嫌ですよ」

「ふん、だからまだ若造なんだ」

 にわかに紫色に怪しく光る魔導陣が興り、ネズミは死んだ。

「残酷な」

 しかし、さほど時間が立たないうちに死体がもぞもぞと動き、小さい影が飛び出した。影は地面や壁に反射しながら飛び回り、棚の本や壺を揺らした。

「ポルターガイスト?」

 ニシはぼんやりと飛び回る影を目で追った。

「ばかもん、怪異じゃ。これは呪詛魔導のうち拘魂術(こうたんじゅつ)とよばれる魔導じゃ」

「初めて聞く。もしかして秘術はあの禁書架に?」

「お前さんが大人になったら教えようとしたんだが、なにせ卒業してすぐ東京に行きおって」

「木刀でしこたま殴られたら、そりゃだれだって遠くへ行きたくなりますよ」

「痛くはなかったろうに」

「たとえトラック(10t)を跳ね返せるような魔導障壁があったとしても子供心には十分、恐怖ですよ」

 少し言い過ぎただろうか/かつての自分だったらここまでジジィに本心を打ち明けることなんてできなかった/自分の人生を客観的に見れたおかげ=魔導の修練についてはどれだけ厳しくてもカナは興味津々だった。

「ふむ、そうか。それは悪かったな。ワシも子供がいない分、扱いがわからなかったのだろう」

 びっくり=丸くなったジジィ/魔導の師匠。

「でも、感謝しています、先生。おかげで魔導災害で生き残ることも、たくさんの命を助けることもできました」

「ふん、殊勝になりおって」

 ジジィは照れ隠しのためか、盛大な咳払いをした。

 ふたりの目の前で小さな怪異は縦横無尽に飛び回り、ガタガタと棚を揺らす/動きが止まったかと思ったら、鋭い矢じりのように変化してジジィに襲いかかった/難なく魔導障壁で防がれる。

「かつて、まだ魔導士と権力者が表裏一体だった時代。1500年ほど前か。当時はまだまだ科学と魔導の区別がない時代だったため、魔導は権力者のいいように使われておった。たとえば、政敵をじわじわと呪い殺す呪詛などじゃな。病気で死んだとなれば誰も文句は言わん。そういう時分に誕生したのが権力者と袂を分かった魔導士の集団、今の寺社連合(レンゴー)のはしりじゃな」

 怪異はしばらく滞空したあとで再び縦横無尽に飛び回った。

「じゃが呪詛は呪い殺すことができる反面、こうして怪異もしばしば生み出した。妖怪の伝説のたぐいは、だいたいこうした呪詛で発生した怪異のせいであり、法力でそれを封じ込めた昔話は寺社連合(レンゴー)の功績ということになる」

「じゃあ、アキはどこかで呪われた、と?」

「呪詛の手段はひとつではないし、世代や時代によって異なるからはっきりとはわからんが。学校に行ったとき怪我をした、のだったな」

「ええ。その学校では魔導災害以後、何人かの生徒が自殺したり原因不明の死を遂げています。俺の高校なんですけど、聞いたことがありますか?」

「ふむ、残念ながら知らなんだ。ここ最近は死が多い。誰にでも起こりうるしいつ起きるかもわからん。次第に人が、わしも含め、他人の死に無頓着になったのかも知らん。つまり危険な時世であるし自分の身を守るので精一杯、という意味でもあるな」

 世界11箇所の潰瘍の発生と魔導災害&30分で終わった第3次大戦(あのせんそう)=1億人以上が犠牲に/命とはもろく短いことを全人類が気づいたきっかけ。魔導士は死ににくい(・・・・・)せいか気づきにくい=その実、魔導士と言えど安泰という時代ではない。

「呪詛を解除する方法はあるんですか」

「さて。あるかもしれんし無いかもしれん。たいていの場合、施術者本人を殺せば術自体も解除される」

「殺さなきゃいけないのですね」

「嫌ならあの神にやらせらばいいだろう。神からしたら虫けらも人もどだい等しい存在じゃろう」

「それはそうですが」カグツチに面倒事を任せすぎ=本人は冗談とはいえ文句を言われたことに違いない。「俺がやりますよ」

 覚悟=たぶん/きっと始まりに過ぎない。秘術として秘匿されてきた魔導が世間に大っぴらになった/魔導で金儲けするなら悪事に使ってもいいだろう=そういう魔導士が出てくるはず/それに加え、ジン=謎のパッシブ魔導を駆使する生き物。

 死に至る魔導も、覚悟を決めて慣れておかなければならない/善人たれ=力あるものの責任として。

「善人になりますよ、俺は。先生の言葉通り」

 キンッと耳障りな音が轟いた/ジジィの魔導の発動キー:ネズミから生まれた怪異が空中で消失した。

「ん? 誰の言葉だって」

「誰って先生の」

「わしはそんなこと言っとらんに。何かの勘違いだろうて」

「えっ、いやそんなはずは」

 確かに聞いたはずだった=毎週末に繰り返された魔導の修練/木刀で殴られながら/ナタを召喚して応戦したら更に殴られた=力ある者は善人たれ。力なきものを善人たらしめよ。

「まぁ、ええじゃろう。魔導は世界をも変えうる術。それくらいの責任感を持っている方がちょうどいいじゃろうて。じゃがな、今回の件は死力を尽くさねばならんかも知らん。わしが扱える拘魂術は初歩の初歩にすぎん。自我を持たない虫や小動物のみに効く。人を何人も呪い殺せるとなると、よもや此度(こたび)の相手は(最高位)の魔導士ということもありうる」

「なんだか、他人事みたいに話してませんか」

「当たり前だに。お前さんがやるんだよ。わしは橙の魔導士だに。魔導士同士の対決はマナの量とマナへの感応力が勝敗を決する。この件が解決したら、まあ一人前と認めてやるのもやぶさかではない。さすれば禁書架も自由に見ても良い」

「じゃあパッシブ魔導も?」

 ジジィの太い眉が片方だけ動いた。

「どこぞの死霊術師がそんなふうに言っておったなそういえば」

「強面の大男の」

 ジジィはうんうんとうなずいた。

「世界は狭いということじゃ。まあ良い。わしの方でも死霊術について情報をまとめておこう。だが、よもや常磐のことじゃ?」

「まあ、そんな感じです。対策を決めかねている案件があって」

「ふむ、世界を救う、とかじゃな。殊勝な若造め。まあいい。ワシは朝飯を食ってくる。ネズミの死骸は適当にほっぽかしといてくれ。カラスが食べるだろうて」

 特別講座=終了。魔導でネズミの死骸を浮かべると、輝きを失った黒い瞳と目が合った/命に至る魔導=まだ習得できていない術/習得しなくてもいいと思った術=魔導は命を救う術。

 ジジィに反抗する気はないが、どうにか敵性魔導士を無力化して拘束する方法は無いだろうか=思い当たる節/カナ/同じ魔導士であり常磐の旧東京支部の技術主任/常磐なら敵性魔導士への対策があるはず。

 いつまでもネズミの死骸を浮かばせておくわけにも行かず/庭の隅の方へ投げてやった。すでに頭上では目ざといカラスがじろじろとこちらを見ていた。

 ポケットからスマホを取り出す/ネットショッピングの通知/SMSで届いたダイレクトメール/社内SNS(スカッシュ)からの通知=規定のエリア外からはアクセスできません。

 しょうがない=ため息交じりにLINEからカナのアカウントを探す/最後のメッセージは先月=“了解”/酔ったカナをおぶって家まで送って行った翌日届いた「記憶! 消して! 絶対に!」に対する返信/ニシは元々筆不精(ふでぶしょう)

 通話=応答なし/メッセージ「強い魔導士はどうやって殺せばいい?」=少々直接的な言い回しだったか/既読はつかない=まだ寝てる?

 蔵を出ると、庭でラジオ体操に勤しむサナとトキノさんがいた。遠目で見れば親子にも見える若々しさだった。

「あっ、お兄さん! おはようございます」

 ラジオ体操第二まできっちり終えた後、サナがテクテクと走り寄って来た。

「おはよう、サナ。いつも通り元気そうだ」

「でもお兄さんは、なんだか疲れています」

「まあ。あまり寝られなかったんだ。サナはどうだ? ジジィに嫌なことされてないか」

「うーん、嫌というか何もしてないというか。こう、半日座禅のまま動かないんです。ときどき質問に答えてまた座禅です」

「トランス状態、ということかな。何か思い出せたか?」

 ニコニコウキウキスマイルなサナ=嫌なことを思い出したわけではなさそう。

「はい、ぼんやりとですが好きな食べ物を思い出しました。ライナーの香辛料炒めです」

「それは、ええと、料理なのか?」

「はいもちろんです。ピリッと辛くて、ソウの実パンと一緒に食べるととても美味しんです───ということを思い出しました。お兄さん、何だかわかりますか」

「全くわからない。どこかの方言かもしれないが。google検索は?」

「全然ヒットなしです」

「ま、焦らずいこう。記憶は複雑なんだ。今日もジジィと修行?」

「ええそうです。お兄さんは?」

「今日は、ちょっとお化け退治に行ってくる」

 ニシは、自分も連れて行ってくれとせがむサナをなだめて自宅で仮眠をとることにした。

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