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おつかい魔法使い~お師匠さまなんてもの運ばせるんですか!~  作者: ダイニング
1章 お師匠さま、なんてもの運ばせるんですか!
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7 初めての護送車

前回までのあらすじ 警備隊の人たちが助けにきてくれた。

「ん、んふふ。よくここが分かったじゃないか」


「ぎゃりぎゃりぎゃり、『虚を衝かれる』たあこのことかあ」


「現状の捜査進捗状況を考慮に入れた私の計算ではここが見つかる確率は0%だったはず……」


「んぎゅひゅひゅひゅ、どうする? ブラザー。もしかしなくても、まずいぞこれ」


「うひょひょ、てめえら、なんでここが分かったんだあ?」


 誘拐犯たちは口々に驚きの声を上げました。私も声には出しませんが、すごくびっくりしています。声のかわりに、また涙が出てきました。


「はははははは、はははははは!」


 ずっと隊長さんのほうを見つめていた私と目が合ったとたんに、隊長さんは不気味な笑い声を上げました。


 でも、笑い声というのは少し違う気もします。は、という文字を繰り返し発音しているだけの単調な声でした。


「詰め所でみっちり教えてやるよ、クズども。よくもリンとアリスちゃんをさらってくれたなあ! お前ら! 全力でこいつらを」


 隊長さんは歯を食いしばりました。ぎりぎり、という歯ぎしりの音が少し離れた私のところまで聞こえてくるようでした。


「……生け捕りにしろ。あとで尋問しないといけないからな」




「一番後ろのやつ二人はリンとアリスちゃんを助けて、避難させろ。護送車を一台使ってもいい」


「んふふ、お前ら裏口から逃げ――」


 隊長さんと男が同時に指示を下します。そのとき、裏口のほうからも「動くな。無駄な抵抗はやめろ」という隊員さんの声がしました。


「んぎゅひゅひゅひゅ、こうなったら力ずくで突破するしかねえな」


「ぎゃりぎゃりぎゃり、『泣きっ面に蜂』たあこのことかあ……」


 男たちが思い思いのことをしゃべる中、私たちのもとへ隊員さんがやってきて言います。


「安心してくれ。君たちはもう安全だ。悪いけど、この場で縄をほどくのは難しそうだから縛られたままで運ばせてもらうよ」


「あ、あの、ほ、本当に魔法警備隊の人ですよね?」


 隊員さんは魔法警備隊の服を着ていましたが、私は不安になって尋ねました。もうだまされるのはごめんです。


「ここに顔写真があるだろ? 同じ人に見えないかい?」


 ポケットからケースに入った隊員証を取り出して隊員さんは答えてくれました。



「見えます……ね」


「そうだろう?」


 隊員さんの魔法で私の体がふわりと浮きました。


 隊長さんはそれを待っていたのか、初めて誘拐犯たちに向けて魔法を放ちました。男は触手の入った箱を飛ばして、魔法を受け止めます。


 箱とその中に入っていた植木鉢は粉々に砕け、触手も大部分が吹き飛びました。隊長さんの魔法はそれて、倉庫の壁に穴が開きました。


「なっ、触手……だと!?」


「んふふ、あっちのほうは触手が時間を稼いでくれる。僕たちは裏口の隊員どもを蹴散らしてしまえばオーケーだ。さっさとあれから離れよう。巻き込まれでもしたらたまったもんじゃない」


 逃げようとする誘拐犯たちへ向けて、警備隊の人たちの魔法が襲いかかります。ですが、大半があっという間に巨大化した触手に弾かれてしまいました。


 その成長は止まらず、腕をめちゃくちゃに振り回したかと思うと、しまいには倉庫の屋根を突き破ってしまいました。


「さっき、二人でリンたちを護送しろと言ったのはなしだ! 一人は魔女様に応援を仰いでこい! 残ったやつらでこれをできるだけ押さえこむぞ!」


 隊長さんが叫びます。私たちが倉庫にいるときに聞いた言葉はこれが最後でした。




「なんで隊員さんたちがここに来てくれたんですか? 捜査は思うように進んでないって聞いたんですけど」


 私は倉庫の外に運び出されたときに、隊員さんに尋ねました。隊員さんは簡単に答えてくれました。


「『捜査は順調に進んでます』とかさ、『もうちょっとで犯人が捕まえられそうです』とか言ったら相手に警戒されるだろ? 下手したら逃げられるかもしれない。だからなるべく警戒させないように、捜査がうまくいってないって見せかけてたんだよ」




 護送車の中に入れられて、隊員さんが鍵をかけました。もともと犯罪者の護送用に使われていたため、外から鍵がかかるようになっているようです。


 鉄格子から少し日が差し込むだけの暗い車内で、私は隣で縛られたままのリンに話しかけます。


「なんかさ、こうやって縛られて、護送車の中に入れられてさ。私たちが捕まっちゃったみたいだね」


「まあ、確かになあ。どっちにしろ、助けてもらえてよかった」


「それは間違いないね。ほんとによかった」


 隊員さんが馬を操って、護送車はゆっくりと進んでいきます。


 小石を踏んだのか、車内が揺れることもありましたが、それもしばらくすると収まってきました。石畳の道路に入ったようです。


 誰かにとんとん、と肩を叩かれました。私のほかにはリンしかいないのですが、リンは縛られています。おかしいです。


 どういうことなのか、と腕を組み、手をあごに当てて考えこみます。……ん?


「あれ、リン。私、動けるようになってるんだけど」


「あたしもだ。今、肩たたいて知らせようとしてたところだ」


 私たちが、よかった、あの男は倒されたんだ、と喜びながら起き上がったときのことでした。


 すさまじい音がして護送車が揺れ、私たちはいろいろなところに体をぶつけながら転がりました。


 気づいたときには、私は鉄格子の上に寝転がっていました。ふと見上げると、大きな穴が開いていました。そこからリンが手を伸ばしてきています。


「アリス、早く来い! 逃げるぞ! こんなところにいたらあたしたち死んじまう!」


「わ、分かった」


 私は差し伸べられた手を握ります。リンが引き上げてくれたおかげで、穴のへりをつかむことには、いちおう成功しました。


 ただ、そこから上に自分の体を持ち上げることがどうしてもできず、結局手を滑らせて護送車の底に尻もちをついてしまいました。


「ごめん、あたしにもっと力があればよかったんだけどな。でも、アリスのことは絶対助けるから、待っててくれよ」


「ありがとう、リン。待ってるからね」


 リンはどこかへと走り去っていきました。




 私が待っている間に、護送車の中はどんどん暑くなりました。リンが来る気配は全く感じられません。


 汗も止まらず、ずっとここにいたらきっと蒸し焼きになってしまいます。かといって出れるわけでもありません。


「な、なに!?」


 ものすごい光が飛び込んできて頭がくらくらします。今度は護送車の側面に私がなんとか出れそうなぐらいの穴が開いていました。


「よ、よかったあ……」


 ようやく護送車の中から出ることのできた私がほっと一息ついていると、後ろからがしっと肩をつかまれました。


 おそるおそる振り返ると、血まみれでふらふらの男の人が私をじっと見つめていました。


 「ひっ……」と小さな声が飛び出します。口は動いていましたが、もはやその人がなにを言っているのか、私にはわかりませんでした。


 絶対に逃げなくちゃいけません。それだけが、私にはわかりました。


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