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おつかい魔法使い~お師匠さまなんてもの運ばせるんですか!~  作者: ダイニング
1章 お師匠さま、なんてもの運ばせるんですか!
6/134

6 お師匠さま、今までありがとうございました(2)

前回のあらすじ 親切な男の人が触手をなんとかしてくれるらしい。

「僕のお家はこっちだ。んふふ、このあたり暗くて結構怖いよね、ごめんね」


「いえっ、全然そんなことは」


 というのは嘘です。リンと男の人が一緒だとしても、お昼でさえ薄暗いような路地裏はやっぱり不気味です。


「なあ。こんなところにアイス屋さんなんてあるのか?」


「んふふ、やっぱりそう思うだろ? あるんだなこれが」


 リンが私のちょうど聞きたかったことを聞いてくれました。男の人は特徴的な、鼻にかかった笑い声を上げて答えました。




「さあ、そうこうしているうちに着いたよ」


 男の人は、ある古ぼけた倉庫の前で立ち止まりました。どこから取り出したのか、杖を握っていました。


 それを見て、暑いときにかく汗とは全く違う、冷たいなにかが私の背中をつたっていきました。……おかしい。


「リン、逃げよう」


 私がささやくとリンは不満げな声で返してきます。


「でも、あたしまだアイス買ってもらってないし……」


「そんなこと言ってたら、もう一生アイス食べられなくなっちゃうってば!」


 私は小声で叫びました。


「あの男が誘拐犯なんだって!」


「は? うそだろ!?」


 リンの手を引いて逃げようとしたとき、はじめて私は手足が縛られていることに気づきました。


「んふふ、さすがにばれるか。まあいい、君たちのことは縛らせてもらったよ。その縄は僕が息をしている限り、君たちのことを縛りつづける」


 男はそう言うやいなや、触手の入った箱を置き私たちを倉庫の中に引き込みました。


 後ろで倉庫の頑丈そうな扉が閉まる音が重々しく聞こえました。男は満足げな声で言います。


「はい、女の子二人一丁あがり。片っぽは結構いい服着てるし、たぶん金持ちだね。そして片っぽはなんと、この街の警備隊の隊長の娘らしい。あとは戦利品の触手もある」


 男の仲間たち4人が上げたどよめきが、この空っぽの古い倉庫に広がります。


 男は私たちを持ち上げ、仲間たちのほうへ連れていきました。私たちを見た仲間は口々に好き勝手言ってきます。


「うひょひょひょひょ。二人ともとびっきりの上玉じゃねえか。たまげたなあ」


「ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり。『鴨がネギを背負ってくる』たあこのことかあ!」


「んぎゅひゅひゅひゅひゅ。こりゃたまりまへんなあ」


「ああ素晴らしい! 私がこの子たちと一生添い遂げる確率、100%!」


「0%に決まってるでしょ! ふざけないで!」


「うひょひょひょ、怒ってるのもかわいいなあ」


 こいつらなんかに褒められたところで、ちっともうれしくありません。


 そして、最後にふざけたことを言った眼鏡の男以外は、今まで聞いたこともない変な笑い方をしています。


「ん? なんだ騒がしいな……けっ、ババアかよ」


 裏口らしきところから入ってきた男がこいつらの中で一番ふざけたことを言いました。私たち、まだ十二歳だっていうのに。


「それはおめえがおかしいだけだ。この子たちはまだ子供じゃねえか。んぎゅひゅひゅひゅ」


「あなたの嗜好が歪んでいる確率、100%!」


「……うっせ。ていうか、女の子誘拐して、かわいいかわいい言うほうも大概だと思うけどな」


 あとから来た男はそれだけ言ってまたどこかへ去っていきました。あいつ、なんだったんでしょう。


「うひょひょひょ。んで、こいつらのことどうすんだ? 兄貴。計画になかっただろ?」


「んふふ、この二人についてはいつも通りで十分だよ。君たちがこれっっっぽっちも興味を示さなかった触手のほうはとっておくことにしよう。ほら穴は多いほうがいい」


「では、私が運びましょう。私ならばこの子たちを100%の確率で丁寧に扱うことができます」


「うひょひょ、ここは山分けと行こうぜブラザー。一人を二人がかりで運ぶんだ」


「ぎゃりぎゃりぎゃり『引く手あまた』たあ、このことかあ!」


「んぎゅひゅひゅひゅ、おめえらには運ばせねーよ」


 言い争う仲間たちを見て、男は困ったとでもいうかのようにこめかみへ手を当てました。


「はあ、まただ。けんかするんだったら僕が運ぶよ。誘拐するたびに誰が連れていくかでもめるのさ、いい加減やめにしようよ」


 私は男の仲間たちが言い争っているあいだじゅう、横倒しのままなんとか縄を抜けようともがいていたのですが、できませんでした。


 男が私に手を伸ばしてきました。私はどこか知らないところに連れていかれてしまうみたいです。


 そこはきっと暗い場所なんだと思います。そして私は縛られたままなにもできなくて、大しておいしくもないごはんを食べさせられることになるんだと思います。


 そうか……お師匠さまのごはん、もう食べられないんだ……。


 とたんに、涙があふれだしてきました。縛られているので自分ではどうすることもできずに、涙は地面へ流れていきます。


 さよなら、お師匠さま。あなたと過ごした十年間ほんとに楽しくて幸せでした。


 いろいろわがままも言ったけど、私のことをここまで育ててくれてありがとうございました。


「おい。汚ねえ手でアリスに触んなよ、このジジイ!」


 リンの怒鳴り声が隣から聞こえてきました。男は伸ばしていた手を止めて、リンのほうへ引きつった笑いを向けました。


「んふふ、今なんて言った?」


「汚ねえ手でアリスに触るなって言ったんだよ!」


 リンは縛られたまま男のほうをにらみつけました。


「……そのあとだ。君、僕のことをジジイと呼んだね?」


「だからなんだよ」


「んふふ、その言葉、覚えておくといいよ」


 男は相変わらずほおをぴくぴくさせたまま、言います。


「僕がこの子に触るのは嫌なんだろう? なら、べたべた触らせてもらうことにするよ。僕はジジイ呼ばわりされてすごく嫌な気分になったからね。君にも嫌な気分になってもらわないと釣り合いが取れない。はあ、あんまり人の嫌がることはしたくないんだけどね」


 男はやれやれといった様子でもう一度私のほうへ手を伸ばしてきました。


 人の運んでる植物を危険な植物だといって騙して誘拐するのは人の嫌がることには入らないんでしょうか、とききたくなりましたが、かわりに私の口から出てきたのは細くかすれた声でした。


「リン……ごめんね。気づけなかった」


 男は私のことを小脇にかかえて運ぼうとしているようで、私と地面の間に手を入れてきました。


 そのときです。大きな音がしたかと思うと、倉庫の扉が床を転がっていきました。男はすぐに手を引き抜いて杖を構えます。


「魔法警備隊だ。お前らを逮捕する」


 隊長さんのよく通る声が倉庫の中にこだましました。リンが「パパ……」と呼ぶ声が聞こえます。


 どうして……捜査はあまり思うように進んでないんじゃ?


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