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おつかい魔法使い~お師匠さまなんてもの運ばせるんですか!~  作者: ダイニング
1章 お師匠さま、なんてもの運ばせるんですか!
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5 無事未帰還

前回のあらすじ お届け先にいた担任の先生に受け取り拒否された。


 私たちはもう一度「商品」を箱に戻したあと、もらったお水を飲んで先生のお家を出ました。


 先生によると、ここ十日ほどの間、街に連続誘拐犯が出没しているらしいとのことです。


 お金持ちの娘さんたちがよく狙われているようです。


 警備隊の人たちが捜査にあたっているのですが、手がかりがほとんどないため、あまり進んでいないらしい、とも聞きました。


「まあ、あなたたちはたぶん狙われないと思うけど用心するに越したことはないわ。あまり怪しそうなところには行かないようにね」


 先生は最後にそう忠告してくれました。もちろん、私たちだってそんな変なところにわざわざ行くつもりはないです。


 帰り道はリンのお家を通るルートにします。リンが迷わないように家まで送ってあげることにしました。


 そのついでに帰りもリンにおつかいを手伝ってもらいます。


「お家に帰ってくるまでがおつかいだよ」というのはお師匠さまの言葉です。私はお家に着くまで気を抜きません。




 丘を下り、街の中心部へ私たちは歩いていきます。商店街は平日の昼間ということもあってか、人はそんなに多くありません。


 ですが、駄菓子屋さんでおもちゃを選んでいたり、公園で缶けりらしきものをしたりしている子たちもいます。私たちと同じで夏休み中なのでしょう。


「暑い……」


「だな……」


 私たちは息を切らしながら、荷物を運んでいます。さっきもらった水はすでに全部汗となって流れていってしまったのでは、そんな気がしてきました。


 本当は今ごろこの荷物とはおさらばしているはずなので、私たちは今運ばなくてもいいはずだった荷物を運ばされていることになります。


 もしかしたら、そんな気持ちがこの箱をもっと重くさせているのかもしれません。




「ん? ああ、あの本屋さんこんなとこにあったんだな」


「本屋さん?」


 魔導柱のほうを見ながら歩いていたリンが驚いたような声を上げました。


 リンの視線をたどっていくと、確かに書店の看板が出ているのが見えました。


「最近、ここに父さんと魔法の本を買いにきたんだ」


「そういえば、魔法教えてもらってるって言ってたね」


「まあな。でも、『空を飛びたいときに使う魔法』でちょっとつまずいてるんだ。ふわっと浮くのはできるんだけどな」


「そういう魔法も教えてくれるんだ、いいなあ。お師匠さまなんて、ほんとにどうでもいいような魔法しか教えてくれないのに」


「でも、魔女のお姉さんなら頼んだら教えてくれるんじゃねえの? 優しそうだし。じゃあ、ちょっとここ入ろうぜ」


 私たちは本屋さんの中へ入っていきます。


 入口にある会計のところで若い店員さんが、四十代半ばぐらいのおじさんと話していました。


 結婚がどうのというような話をしているみたいです。店員さんはずっと苦笑いで受け答えしています。


 なーんか、どこかで見たような……。


 リンはずっと奥のほうまで進み、辞書みたいな分厚い本がたくさん並べてあるところで立ち止まりました。


 漫画が置いてあるようなところでもないし、なんでこんなところに。勉強でもする気になったのかな?


 ぶーん、という虫の羽音みたいな音に気づき、なに気なくその音がしてきたほうを見上げると、そこには扇風機が置いてありました。


 細長い紙切れが風に吹かれています。


「あ、リン、最初っから扇風機目当てでしょ」


「ばれちまったか」


 リンは少し舌を出して笑いました。


「まあ、少し涼んでいこーぜ」


「そうだね、賛成」


 今の私にとっては間違いなく、本よりも扇風機のほうがありがたいものでした。



 

 私たちが涼みながら置いてある本をペラペラとめくっていると、後ろを男の人が通っていきました。


 棚の中から分厚い本を取り出して読んでいるようです。すごいなあ、私は今めくっている本、難しい言葉が多すぎてあんまりよく分からないです。


 連続誘拐犯って聞いて、ぼんやりと大人の男の人を思い浮かべていた私はその男の人を見て、失礼なことに連続誘拐犯の話を思い出してしまいました。


 いや、たぶん連続誘拐犯は大人の男の人たちで間違いないと思うんですけど。


「確か、リンのお父さんって警備隊の隊長さんだったよね。連続誘拐犯のこととか、なんか言ってなかったの?」


「言ってたぜ。『絶対に許せない。父さんが必ず捕まえてやるからな』って。パ……父ちゃん、そいつらのせいでずっと家に帰ってきてないんだけどな」


 リンはさみしそうな声で言いました。私はリンを励まそうとなるべく元気な声を出します。


「大丈夫だって! 今はまだあんまり捜査も進んでないみたいだけど、絶対捕まえてくれるよ!」


「だったらいいんだけどな、はあ。結構涼めたしそろそろ外に出るか」




「ちょっとお嬢ちゃんたち。君たちが持ってるもの、それどこで手に入れたんだ」


 お店の外へ歩きはじめた私たちに、さっきまで本を読んでいた男の人が青ざめた顔をして声をかけてきました。


 細身で背の高い人です。


「え……。これですか?」


 おつかいでお師匠さまに渡されたんですけど荷物が間違ってたらしくてお家に持って帰る途中なんです、と答える前に男の人はさらに続けました。


「いや……そんなことはどうでもいいんだ。とにかくそれは危ない。君たちが絶対に持ってちゃいけないやつだ。下手したら君たちの命にも危険が及ぶ」


「でもこれ『ハジャノキ』って聞きましたよ。すごく縁起のいい木だって。それが危ないなんて」


「違う、これは『ハジャノキ』なんかじゃない。これは触手っていうんだ」


 それを聞いたリンが口を挟みました。


「その、触手ってやつ? それってどう危ないんだ」


「触手はね、少しでも危害が加えられると大きくなって暴れだすんだ。この大きさだと、あれぐらいにはなるだろうね」


 深刻な表情でそう言って、男の人は魔導柱のほうを見ました。私たちは震えあがります。


 そんなに大きなものが暴れたら、このあたりのお店は想像するだけでも恐ろしいことになってしまうでしょう。


「もし君たちがこのまま運んでいって、つまづいたりして踏むようなことがあれば大変なことになっていたよ」


「あ、あの、私たちどうしたら……」


 運んでいた荷物がそんなに危ないものだったなんて知りませんでした。私はわらにもすがる思いで、男の人に尋ねます。


 すると、男の人はさっきまでの表情とはうってかわって優しそうな笑みを浮かべて言いました。


「大丈夫、全部お兄さんがなんとかするよ。君たちは運がいい」


 男の人は私たちが二人がかりで運んでいた荷物を軽々と持ち上げました。私は安心感で涙が出そうになりました。


「よ、よかったあ……ありがとうございます」


「アリス、ハンカチ使うか?」


「泣いてないし!」


 小声で尋ねてきたリンに、私も小声で答えました。


「僕も君たちを助けられてよかったよ。さあ、ついてきてくれ。アイスでも買ってあげよう」


「はい!」


「やったぜ!」


 私たちは同時にそう言って、親切にも声をかけてくれた男の人についていきます。


 アイスも買ってくれるなんて、優しい人ですね!


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