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おつかい魔法使い~お師匠さまなんてもの運ばせるんですか!~  作者: ダイニング
2章 まともなおつかいじゃないですか!
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31 孤児院(6)

前回までのあらすじ ジャックも元気になったようだが、アリスにはそれが空元気のように見えた。

 ジャックがみんなのことを呼ぶと、みんなは遊びをやめてぞろぞろと集まってきました。そして、みんなはうれしそうに言いました。


 心なしか、みんなさっき遊んでいたときよりも元気になっているような感じがします。


「お兄ちゃん、元気出た?」


「兄ちゃん、大丈夫?」


「ジャック。元気になったんだ。よかった」


「お兄ちゃんのこと助けてくれてありがとう!」


「ジャック兄ちゃんが元気になってほんとよかった。アリスやるじゃん」


「そうだね。ありがと、アリス」


 なんかよく分かんないけど、感謝されました。でも、うーん、私じゃないよね……これ。ジャックに関しては、ラリーのおかげじゃないかな。


「庭で鬼ごっこやるぞ! 鬼は三人! アリスとリンと、もう一人はじゃんけんで決めるぞ」


 私はびっくりして、リンに「え? じゃんけんじゃないの?」とききました。


 リンは「まあ、いいだろ。みんなちっちゃい子ばっかだしな」と返してきます。確かに、ちっちゃい子は鬼やりたがらないでしょうね。実際私がそうでした。


 結局、鬼は私とリンと、もう一人は……


「オレ、鬼になっちゃった」


追いかけっこをしていて、馬車にひかれそうになったばかりの男の子に決まりました。男の子はしょんぼりしています。触手よりも、鬼になることのほうがいやなのかもしれません。


「しょーがねえなあ。俺が代わってやるよ」


「いいの!?」


「ああ。そのかわり、早く逃げないと捕まえちゃうぞー?」


「やだ!」


 ジャックが言うと、男の子はドアを開けて、かけ足で外に出ていきました。


「よし! じゃあ、行くぞお前ら!」


 みんなと男の子が出ていったあと、ジャックは張り切った様子でドアを開けました。もわっとした熱気がおそってきて、頭がぐわんぐわんするような感覚になります。


「あっつ! なんだこれ!」


 外に飛び出すやいなや手の甲を目の上にかざし、ジャックは太陽のほうをにらみました。その動作からも、張り切っている様子が伝わってきます。


「まあいい! とりあえず十数えるぞ!」


 ですが、私にはジャックが、どうも無理をしているように見えました。




 リンは、私とジャックに「それじゃ、あたしは先に行ってるからな」と言い、走り去ってしまいました。


 建物の外をまわって、私も孤児院の裏庭に出ました。思っていたよりも広いです。校庭ほどではないですが、ローズの家の庭とどっちが広いかと聞かれると、迷います。


 私とリンを含めて二十人近くという大人数で鬼ごっこを始めましたが、捕まえられるかどうか不安になってきます。


 庭といってもたんに広い原っぱというわけではなく、茂みやちょっとした林など、隠れるのにちょうどいい場所がいっぱいあります。


 びっくりするほど鬼ごっこに向いている庭です。子供たちはほとんど見当たらないので、みんな隠れているんでしょう。


 手近な茂みから地道に、隠れている子を探していきます。でもまあ、いないですよね。三か所ほど探しましたが、誰もいません。


 ですが、そのとき男の子が「ちょっと速いってば! 大きいんだからもっと手加減してよ!」と叫ぶ声が林の方から聞こえてきました。もしかしたら、誰かに捕まってしまったのかもしれません。


 その声に反応してぱっと顔を上げ、周りを確認すると、茂みのかげから黒い頭がぴょこんと飛び出しているのが見えました。


 誰かが隠れているのかもしれません。途中で逃げられないように、足音を抑えてゆっくり近づいていきます。


 手が届きそうな距離まで近づきましたが、その子が逃げる様子は一向にありません。


「よし! 捕まえた!」


 ばっと手を伸ばし、さっとその子の両肩をつかみました。そのとき私は、ふと違和感を覚えました。肩がやけに柔らかいのです。それこそ、綿が入っているかのような……。


「あはははは! お前、それ人形だぞ」


 振り返ると、ジャックが私のほうを指さして大笑いしていました。


「昔、おとりに使ってたんだよ、それ。誰も引っかからなかったけどな。引っかかったの、お前が初めてだよ。おめでとう」


「ふーん、全部知ってたけど? 知ってて乗っかってあげたんだよ」


「『よし! 捕まえた!』って自分で言ってたのに、か?」


「そうだよ? そうしたら誰かが面白がって出てくるんじゃないかと思ってさ」


 最初は言い訳のつもりでしたが、これは使えるような気がしてきました。なんだか今日はさえています。朝ご飯をおかわりしたおかげでしょうか。


 ジャックと話しながら、私はできるかぎり自然にジャックの方へ近づいていきます。ジャックは声こそ上げていませんが、まだにやにやしています。なんかやな顔です。


「まさか、ジャックが真っ先に出てくるなんてね。……はい、捕まえた」


「は?」


 私が、ジャックの肩に触れるとジャックはあっけにとられた顔をしました。今度は私がにやにやする番です。さっきの声は、ジャックに捕まった子の声でしょう。ジャックは大きいですし、間違いありません。


「俺、まだ鬼なんだけど」


「え? でも、さっきの声は……」


「リンが捕まえたんだろ。ちらっと見たけど、あいつほんと足速いな。そして、ほんと容赦ないな」


 私は、クラスのみんなでけいどろをやったときのことを思い出しました。確かにリンは、足が遅い子を追いかけたり、一人の子をえんえんと追いかけまわしたりしてました。


 それは、私も例外ではありません。見かねた先生に「リンちゃんは足が速いんだから、もっと速い子を狙いなさい」と注意されてました。


 リンは、「先生、これは遊びじゃねーんだ」と真面目な様子でしたが、先生は「いや、遊びよ」と言っていました。先生の言う通りです。


「へえ、まあリンならありえなくもないか」


 私は、あごに手を添えて考えこみます。あのリンなら、ちっちゃい子のことでも本気で追いかけそうです。


「あはははは! お前ほんと面白いな!」


 ジャックは、また私を見て笑っています。ジャックは一息ついた後、目尻を手でぬぐいました。


「泣くほど面白かったんだ?」


 私はいやみたっぷりに言ってやりました。お師匠さまみたいに、ジャックが笑ってくれてよかった、とはなりません。


 でも、ジャックはそんなもの全然気にしていないようで、「ああ。なんかもうお前の顔見るだけで笑えてくる」と言うと、また笑いはじめました。


「ばか!」


 私は、ジャックの背中を思いっきりたたき、次のターゲットを探します。しょうもないことに時間を使ってしまいました。ただ、ジャックはすっかり元気になっているようです。


 無理をしているのかもしれない、という私の心配も外れたみたいです。けど、ああいう感じでジャックが元気になるというのは、ちょっと不本意です。


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