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おつかい魔法使い~お師匠さまなんてもの運ばせるんですか!~  作者: ダイニング
1章 お師匠さま、なんてもの運ばせるんですか!
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4 無事到着です!

前回のあらすじ 駄菓子屋で親友のリンとばったり会った。

 片手で箱、もう片手で地図を持ち、前と地図の間で視線を行き来させながら歩いていきます。


 こうやってお届け先を探すのも、最初は難しかったけどもう慣れました。何回も頼まれてますしね。


 でも、ここから先はしばらくまっすぐ歩けばいいみたいです。


 私たちが歩いている道に沿って、だいたい10メートルぐらいごとに柱が建てられていて、魔導線がずっと張り渡されています。


 銀色の魔導線は今日みたいに日差しが強い日には、ちかちか光ってまぶしいです。


 この魔導線のおかげで、掃除機や扇風機、冷蔵庫などの大型の魔道具が使えるようになっているらしいです。


「なあ、この道をさ、ずーっとまっすぐ行ったらどこまで行けるんだろうな」


 リンが遠くのほうをぼんやりと見つめて言いました。


「えー、どこらへんだろ」と言いながら、私はもう一度地図を見ました。


 リンの言うまっすぐとは北のほう、地図で言うところの上のほうです。


「たぶん、牧場とかじゃないかな。あそこの丘を越えるとあるみたいだよ」


「ふーん、牧場ね。言っとくけど、あたし、あのときのことまだ忘れてないからな」


「なんのこと?」


「お前、あたしが男子と追いかけっこして馬の頭に横からぶつかったとき、大笑いしてただろ」


「いや、あれは心配で……ふふ。ていうかあのときも『大丈夫?』ってきいたじゃん」


「ほら、今笑っただろ。ごまかしても無駄なんだからな。あれは絶対あたしのこと馬鹿にしてた」


 確かあれは、五月にあった遠足のときのことですね。


 男子にちょっかいかけられたリンが走り出したとたんに、すぐ近くにいた馬の顔のところにぶつかって、「いってー」とか言いながら少し涙目になってました。


 でもあれは、笑うなっていうほうが難しいと思います。




 私たちはそれからすぐに、丘のなだらかな坂道まで来ました。


 ここを登りきればお届け先も近づくのですが、ここが一番きついです。疲れるし、暑いし。


 リンはどうなのかと隣をちらっと見てみると、やっぱり汗を拭きながら無言で歩いていました。


 短距離走でも長距離走でもいつも一位を取るほどの、運動が大の得意なリンでさえこうなんですから、私はもうなおさらです。


 リンは道のはじのほうをちらちらと見ていました。


 そうでした、こういうときは、まず次の魔導線の柱――魔導柱を目指せばいいんでした。


 そして、そこに着いたらまた次、そのまた次……というように繰り返していけばいつの間にか目的地についているはずです。


 とりあえず、丘の上まではあと十本ちょっとぐらいですね。頑張りましょう。




 その後、私たちはやっとのことで坂を上りきりました。


 丘の上には、大きな庭のある大きなお家がぽつぽつと建てられています。


 地図を見る限りだと確か、お届け先はこのあたりなんですけど……。


 えーっと、写真に写っていたオレンジ色の屋根で、外壁が白の大きなお家っていうのはどこでしょう。


 周りをきょろきょろして探していると、リンが私のほうをのぞきこんで、


「アリス、どうした? もしかして、迷ったのか? やっぱり心細いよな。まあ、あたしもその気持ちは分かる。さっき駄菓子屋に行く途中でもちょっと迷ったしな」と語りかけてきます。


「ま、迷ってないし! 近くにあるはずだし」


「近くにあるんだったら、ここから見えるんじゃねーの? どんな家なんだ?」


「オレンジ色の屋根で、外壁が白の大きなお家なんだけど……」


「ふーん、じゃああれか? 木のかげに隠れちゃってるけど、オレンジの屋根が見えるだろ」


「え……?」


 私はリンが指さすほうをじっと見つめます。すると、確かにオレンジ色がちょっとだけ見えます。


 慌てて地図を確認すると、あの家はたぶんここよりも三本ほど道を横切ったところにあるようです。


 あのとき、あくびをしていたせいで印が大きくなっちゃったんだと思います。




「こんにちはー! お届け物でーす!」


 ドアをノックしてできる限り元気な声で呼びます。


「ちょっと待っててくださーい」という声が聞こえたあと、一分ほどしてからドアがガチャリ、と音を立てて開きました。


「はい……あら、アリスちゃん。てっきり魔女様が来たのかと思ったわ」


「お師匠さまは、仕事が忙しいみたいで」


 意外なことに、出てきたのは私たちの学校の先生でした。


 若い女の先生で、大学校を卒業して今は先生二年目です。去年から担任をしてくれています。


「あ、先生じゃん。あたしたち疲れたから牛乳飲みたい」


「私は水でいいです」


「飲み物を出すなんて一言も言ってないんだけど……まあいいわ、入りなさい」


 茶色がかった黒髪を後ろで束ねた、眼鏡に上下ジャージ姿の先生はドアを大きく開けて言いました。


 寝起き……なのかな?


「やったぜ!」


 よっぽど嬉しかったのでしょう、汗だくのリンは両手を握りしめて小躍りしました。


 私は両手を握りしめただけで、小躍りはしませんでした。




 それにしても、大きな家ですね。リビングだけで私のお家ぐらいの大きさがあります。


 この上、二階もあるというんですからびっくりです。


 私たちは先生に案内されてソファーに座りました。このソファーもふかふかしています。


 中にわたあめでも入ってるのかもしれません。正面にはガラスでできたテーブルがあり、その向こうには本棚が置いてあります。


 難しそうな本ばっかりです。先生はすごいなあ。


「ぷはー! たまんねーな! 生き返った気分だぜ!」


「あはは、リン、口元がひげみたいになってるよ。あ、先生、お水のおかわりください」


「はいはい。じゃあ、アリスちゃんたちが運んできてくれたのは、箱から出してカーテンの横のあたりに置いといてくれる?」


「はーい、分かりました」


 リンにも手伝ってもらって、観葉植物をカーテンのところまで運びます。


 それを目の当たりにしたリンはなんとも言えない表情を浮かべています。


「すごいな……これが観葉植物って、先生とがったセンスしてるよな」


「やっぱりリンもそう思うよね」


「アリスちゃん、お水持ってきたけど……あれ? ん? それ、変ね」


 先生は私の分のコップをテーブルに置くとこっちに歩いてきて、「ハジャノキ」をいろいろな角度から観察しはじめました。




 そして、先生は言いました。


「やっぱり、これ私が頼んだやつじゃないわ。悪いけど、持って帰ってちょうだい」


「え……はい、分かりました」


 私は複雑な気持ちになりました。


 先生のセンスが私たち寄りだったことに安心する気持ちと、帰り道もこれを運ばないといけないということにがっかりする気持ちがごっちゃになっています。


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