24 暴走馬車(3)
前回までのあらすじ ぎりぎりのところでアリスを助けにきてくれた人が。
「もしかして、団員さんですか?」
「ええ、団員です。仕事をしてたら『こっちの馬車にも子供が乗ってる』という叫び声が聞こえたので、助けにきましたよ。それにしても、まさかこんなすぐに再会するとは思いませんでした」
団員さんは、私の手をとり起こしてくれました。私は、鼻をすすりながら言います。
「わ、私、ほ、本当にもう、だ、だめかと思いました……そ、その、助けてくれて、ありがとうございます」
「当たり前のことをしただけですよ。さあ行きましょう、荷物の用意はできましたか?」
リュックと杖はあるので、私は散らばっている荷物をかばんに入れながら確認します。地図、水筒、魔導書……。召使いさんにもらった水がありません。そういえば、水筒の中に移して瓶だけ返してましたね。忘れてました。
あれ? なにか足りません。急いで周りを見わたすと、ごみと荷車の壁の間に挟まっているお弁当箱を見つけました。さっき馬車が揺れて、荷物が散らばったときに、落ちてしまったのかもしれません。
思いっきり手を伸ばしてつかもうとしましたが、かえって押しこんでしまいました。私は、どうしたらいいのか分からなくなって、大あわてで団員さんに言います。
「ちょっと待ってください。お弁当箱が取れなくて」
「え? どこですか? かわりに僕が取りましょうか。たぶん、僕のほうが奥まで手が届くと思いますから」
「お願いします!」
焦った様子で団員さんがお弁当箱のほうへ手を伸ばしたとき、馬車が石を踏んだのか、また少し揺れました。団員さんは苦い表情になりました。
「まずい。今の揺れで、もっと奥にいっちゃいました」
「どうにかならないですか? 昔、お師匠さまに買ってもらった大事なお弁当箱なんです!」
半泣きで訴える私に、団員さんは言います。
「お母様に買ってもらったものなんですね。じゃあ、いったん馬車を止めましょうか」
確かブレーキがついてたはず、と団員さんが荷車から身を乗り出して車輪を見下ろします。どうやらこの馬車にもちゃんとブレーキはついているようです。
団員さんは杖を握ってぶつぶつと呪文を唱えると、荷車から身を投げ出しました。驚きのあまり、私は思わず変な声が出そうになりました。荷車のへりをつかみ、団員さんの様子をのぞきこんで確認します。
彼の体は馬車にぴったりと固定されていました。そして、ブレーキを両手でにぎり、後ろに倒そうとしています。
「まずいな……レバーが固くて動かないぞ」
団員さんの声からは、気がはやっているのがはっきりと感じられます。
はたして、お弁当箱を取り戻せるのでしょうか。遠足のときやお師匠さまとのハイキングのときには必ずあのお弁当箱を使っていました。空箱の中にも、思い出がいっぱい詰まっているんです。
「だ、大丈夫ですか」
居ても立ってもいられず、私が尋ねると団員さんは言います。
「任せてください。なんとかして見せますから」
レバーを握る腕にさらに力がこもったようで、筋肉が盛り上がるのがはっきりと分かりました。
いつの間にか、次の交差点が近づいてきています。でも、きっと大丈夫です。馬車はちゃんと止まって、お弁当箱も無事に家へ持ち帰れるはずです。……ですよね?