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おつかい魔法使い~お師匠さまなんてもの運ばせるんですか!~  作者: ダイニング
2章 まともなおつかいじゃないですか!
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23 暴走馬車(2)

前回までのあらすじ 追いかけられた不良がアリスの乗っている馬車にぶつかったせいで、馬車が暴走しだした。

今まで、私は暴走する馬車の上でずっとうずくまっていました。


 この荷車に積まれているごみには、生ごみがなく、かわりに家具や魔導柱とかの残骸が多く積まれているので、においはあまりしないです。まあ、木のにおいはしますけど、それは仕方ありません。


 護送車から逃げ出したときのことを思い出します。血まみれの男に追いかけられたときは、本当に怖かったです。


 あの人は隊員さんだったので、私は逃げなくてもよかったんですけど、焦るあまり勘違いしてました。


 とにかく、うずくまっていてもどうにもならないし、まずは起き上がなくちゃ。


 意を決して体を起こしたそのとき、荷車が石でも踏んだのか、足もとが大きく揺れてかばんの中身がこぼれました。散らばった荷物の中から魔導書をとり、震える手で開きます。


 下手したら、今の揺れで私は地面に落ちてしまっていたかもしれません。


「暴走した馬車を止めたいときに使う魔法」……きっとあるはずです。あってほしいです。というか、ないと困ります。


 でも、手が震えるあまり上手くページをめくることができません。


 馬車は今、どのあたりを走っているのか気になって前を見ると、ちょうど交差点にさしかかるところでした。


 減速することなく、そのままのスピードで交差点に突っ込もうとする馬車の前に、追いかけっこをしている小さな男の子が二人、飛び出してきました。


 私は、とっさに目を閉じ、耳をふさぎます。ですが、その場にのり付けされたように固まった男の子たちの表情は、私が目を閉じても浮かんできました。


 おそるおそる目を開け、耳から手を離して前を見ると、すでに馬車は交差点を通り過ぎていました。ただ、誰かがぶつかってきたような感覚はありません。


 もしかしたら、あの二人は助かったのかもしれません。まあ、私は助かってないんですけどね。


 確認のために後ろを振り返ると、野次馬らしきおじさんと目が合いました。私が大声で助けを求めると、おじさんはすぐに叫びます。


「大変だ! あの馬車にも子供が乗ってるぞ!」




 馬車は相変わらず狂ったように走りつづけています。吹き付けてくる向かい風で、馬車がどれだけ速く走っているのかが分かります。こんなのから振り落とされたら……。


 余計なことを考えてしまったせいで、またはじまった手の震えをなんとか抑えながら、「暴走した馬車を止めたいときに使う魔法」を探します。


 そんなことをしているうちに、暴走馬車は次の交差点にさしかかろうとしていました。私にはさっきのように、小さい子が飛び出してこないように祈ることしかできません。


 私の祈りが通じたのかどうかは分かりませんが、小さい子が馬車の前に飛び出してくることはありませんでした。


 かわりに別の馬車が左側から飛び出してきました。暴走しているのかと思うぐらい飛ばしていましたが、人がちゃんと乗っています。


 その人に向かって「助けて!」と叫ぼうとしたとき、私の体がふわりと浮きました。


 隊員さんに体を浮かせられたときのような感覚です。なにかにしがみつこうとしましたが、私の手がそのなにかに届くことはありません。


 時間の流れが何百倍にも何千倍にも引きのばされているような気がしてきました。


 暴走馬車は横から突っ込んできた馬車をよけて、いきなり右に曲がったようです。そして、ごみの上で魔導書を見ていた私はなすすべもなく吹き飛ばされた、と。そういうわけです。


 ゆっくりと遠ざかっていく暴走馬車を見ていると、ふと、お師匠さまの言葉が頭をよぎりました。


 あれは確かお師匠さまと街へ買い物に行った帰りのことだったと思います。


 野生の熊に襲われそうになりましたが、熊はお師匠さまの姿を見ると逃げ出しました。お師匠さまは熊の後ろ姿を見送りながら言いました。


「動物は、相手が自分より強いか弱いかに、とても敏感なんだよ。弱い相手とは戦うけど、強い相手からは逃げるの」


 続きがあった気がするんですけど、忘れちゃいました。でも、今の状況に当てはまりそうな気がします。


 子供達には突っ込んでいき、同じ馬車は避ける。これってお師匠さまが言ってた通りのことなんじゃないかな。


 完全に馬車からつまみ出された私は、地面にたたきつけられて、無様に転がるのを待つだけになりました。


 緑髪の女の人ほど私は頑丈ではないので、もうだめな気がします。ああ、お師匠さまの冷製スープ、もう一回でいいから飲みたかったなあ。


 そして私は、背中から叩きつけられました。リュックの上に。


 思わずせき込んだ私を、誰かが上から見下ろして言いました。


「ごめんなさい。ちょっと乱暴でしたね。杖とか荷物とか持って、さっさとこんな危ない馬車からはおさらばしましょう」


 私を助けてくれた人だと思いますが、逆光で顔がよく見えません。ですが、声でおおよその見当はつきました。


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