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おつかい魔法使い~お師匠さまなんてもの運ばせるんですか!~  作者: ダイニング
1章 お師匠さま、なんてもの運ばせるんですか!
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3 持つべきものは……

前回のあらすじ 狼に食べられそうになった。

杖もないのにもう一回狼なんかに襲われたらひとたまりもないので、全速力で山を下りてきたのですが、さっきから息切れがおさまりません。


 まあ、けもの道をずっと走ってきたわけだし、しょうがないですよね。早くこれを押しつけ……いや無事に届けなくちゃ。


 あ、お届け先ってどこらへんだっけ? 確かお師匠さまが印をつけてくれたはずです。


 ちょっとかばんの中に入っている地図を開いて見てみます。結構遠い、どうしよう。……暑いし、しかも走ったらのど渇いてきたし。


 しょうがないですね! なにか途中で飲み物買っちゃいましょう! これはやむを得ないことです。




 確か、この先に駄菓子屋さんがあったはず。私の行きつけの駄菓子屋さんです。


 おつかいの行き帰りには、だいたいそこに寄っちゃうんですよね。もう、道の先には建物が見えています。


 ちょっとペンキがはがれてるベンチ、ちょっと立てつけの悪いガラス戸に、ちょっと低めの天井、そしてちょっと暗めの店内……。


 私、駄菓子屋さんのこういう雰囲気、落ち着くので結構好きなんです。


「おじさん。これください」


 商品棚からラムネを取って、机の向こうでうたた寝をしているおじさんに話しかけます。


 おじさんはぱちりと目を開けると、言いました。


「はいよー、じゃあ80ゴールドね。ところでアリスちゃん、その背中の荷物どうしたの?」


「これですか? お師匠さまにおつかいを頼まれて、運ぶことになったんです」


「ふーん、そうかいそうかい。アリスちゃんはえらいねえ。そうだ、その木はね『ハジャノキ』って言われててね。とっても縁起がいいんだ」


 私の話を聞いたおじさんは、微笑んで言いました。もともと細い目がもっと細くなって、糸みたいになっています。


「それ、お師匠さまも言ってました。初代剣聖がこの木の枝で敵を倒したとかいう話ですよね?」


「そうそう。おじさんもねえ、若い頃にはこの木によく助けられたもんだよ……」


 まずい。私としたことが、「おじさんの若い頃スイッチ」を押してしまいました。つまらないわけではないんですが、長いしなん回も聞いてるとさすがに飽きます。


「あ、それじゃおつかいがあるのでもう行きますね」


 私は80ゴールドを小銭入れから取り出して机に置きます。


「ああ、ちょっと待ってくれ。おまけしてあげるよ」


 おじさんは、机の向こう側から私のいるほうへ回ってきました。そして商品棚からラムネを一本取って私に手渡してくれました


「おじさんありがとう!」


 おじさんは優しそうな顔をした、優しいおじちゃんです。


「いいってことよ」


「お金はここに置いときましたよ」


「はい、たしかに。アリスちゃん、気をつけておつかい行ってきてね」


「もちろんです!」


 私はお店を出ましたが、実は今かなりのどがかわいてしまっているのです。だから、早速飲んじゃいます!


 暑い日にはキンキンに冷えたラムネに限りますよ、本当に。


 ラムネがのどを流れていき、私のお腹に入っていくところを想像します。あーっ、こののどごしも、シュワシュワ感もたまりません! 


楽しみだなあ。早く飲もうっと。


「えへへ……あっ!」


 お店のすぐ前の軒下に置かれているベンチに腰かけ、私がラムネのビー玉を押しこんだそのときでした。


私の背中からひょいっと出てきた枝にラムネは奪われてしまいました。最悪です。縁起がいい木っていうのはなんだったんですか!


 ……まあ、おまけしてもらったやつがあるので、特別に許してあげることにします。


こっちを残しておいても、どうせ帰りにはぬるくなってるだろうし、今飲んじゃいましょう。


「あっ! ひどいよ……なんてことするの?」


 また、取られてしまいました。怒りを通り越して、視界がぼやけてきました。もう絶対に許しません! 


私がごしごしと目をこすって顔を上げると、こっちのほうへハンカチを差し出す人影が見えました。


「ふっ。アリス、君に涙は似合わないよ。これで拭くといい」


 聞き覚えのある声でした。私の友達です。


「なっ、泣いてないし!」


 根も葉もない決めつけに、私は真っ向から反論します。誰が泣いてるっていうんですか! 誰が!


「ていうかリンがなんでこんなところにいるの!?」


「ちょっとアンナのこと怒らせちゃってな。あいつ駄菓子好きだからさ、ご機嫌とりに買いにきたんだ」


「えっ、あの優しい妹ちゃんを怒らせるって、リン、なにしたの?」


「『魔女様の絵をかいたの』ってあたしに見せてきたから、『ほうきに乗ってる魔女様か。上手だな』ってほめたら、『違うもん! ほうきじゃなくて竜だもん!』って泣かれたんだ。ところで、アリスはどうしたんだ? その背中の荷物」


「これ? お師匠さまにおつかいを頼まれたんだ。依頼主さんのところに運んでほしいんだって。実はちょっとこれ重くて大変なんだよね」


 私がそう言うと、リンは簡単に言いました。


「じゃあ、手伝うか? 父さんがよく言ってるんだ。『困ってる人がいたら、助けてやるんだぞ』って」


「本当に? いいの? リン、ありがとう!」


「おつかい、すぐ終わるだろ? あんまり遅いとマ……母ちゃんが心配するんだ」


「うん。リンが手伝ってくれるならなおさらね」


「分かった。あたしはお菓子選んでくるからちょっと待ってろよ」


 運がいいことに、リンが私のおつかいを手伝ってくれることになりました。


 さすが縁起のいい木ってだけありますね。さっきのことは水に流してあげることにしましょう。


 リンが駄菓子屋さんから出てきました。私たちは箱を背負うためのベルトを一つずつ持って歩いていきます。


 だいぶ楽になりました。やっぱり、持つべきものは友達ですね!


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