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おつかい魔法使い~お師匠さまなんてもの運ばせるんですか!~  作者: ダイニング
2章 まともなおつかいじゃないですか!
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12 人助け(1)

前回までのあらすじ ローズの水の飲み方が汚い。

 川を越えてから、突然周りが騒がしくなりました。私はこっちのほうが好きかな。なんか生き生きしてる感じがしますから。「帰ってきた」そういう感覚です。


 ローズはすでに走りだしていて、そのままのスピードで人々の間をぬい器用に進んでいきます。リンが、「おい、ちょっと速くないか?」と言うぐらいです。私なんかはもう、やっとのことでついていけてる状態です。何かを話す余裕もありません。


 彼女と私たちの距離はすでに五メートルほど離れています。この人ごみの中では少しでも目を離すと、彼女のことを見失ってしまうでしょう。ローズには前、いや、タイムのことしか見えていません。


 そうでもなければ普通、交差点に飛び出したりはしませんから。


「おい!」


「ちょっと!」


 ローズの横から馬車がかなりの速さで近づいてきているのがちらっと見えました。ローズはそれを見つめたまま固まっています。助けるかどうか考える前に、私の体が勝手に動いていました。


 杖を投げ捨てて、私はかけだしました。


 とにかく彼女が馬車にひかれないようにしないと。馬車の動きを見ながら私も交差点へ飛び出し、ローズの手を取りました。


 このまま走って向こう側に行こう。私はそう思ったのですが、突然馬のおなかが視界に飛び込んできました。馬が後ろ足で立ち上がっているではありませんか。


 なんと、馬はそのまま方向を変えて、今来た方向と反対側へ走っていってしまいました。御者の人が「おい! そっちじゃねーだろ! 言うことを聞け!」と怒鳴る声も、だんだんと遠ざかっていきました。


 私たちの様子を見ていたであろう人たちが、口々に声をかけてきました。


「君たち、危なかったねえ。無事でよかった」


「もしかして、魔法使いのお嬢ちゃんが魔法を使ったのかい?」


 私は、黒いロングスカートをはき、ワイシャツの上にこれまた黒いベストを着ていました。八月の半ばとあって、すごく暑いんですけど、お師匠さまが「これが商品をお届けするときの正装だよ」と言うので、仕方なく着ています。ベストの代わりにエプロンをつけていただけで、あとはほとんど私と同じような服装をしていた召使いさんも、私と似たようなこと考えてるかもしれません。


「いや、違くて。なんか馬が勝手に……」


 動物よけの魔法の効果は切れてるはずなんだけどな……と思いながら、質問に答えます。集まってくる人たちを押しのけて出てきた、太った大柄のおばさんがそれをさえぎって言いました。


「まあ、あんたけがしてるじゃないの! ちょっと待ってなさい。今、絆創膏と消毒薬持ってくるから」


「わ、分かったわ」


 おばさんの言葉や、それ以外の勢いに押されたようで、ローズは何度もうなずきました。




 ローズは一度、「つっ……」とうめき声を上げただけで、それ以外はずっと静かにおばさんにされるがままになっていました。歯を食いしばりながら、自分の傷口が手当てされるのを見ています。やっぱりしみるんでしょうね。


「はい、終わったよ」


 慣れた手つきで傷口に絆創膏を貼って、おばさんは言いました。


「思ってたより早いのね」


「まあね、こう見えてあたし看護師だから!」


 ローズが言うと、おばさんは大きく口を開けて豪快に笑いました。


「ありがとう」


 少し語尾を上げて、尋ねるような言い方です。私たちは驚いて顔を見合わせました。言い方に、ではありません。彼女が自分から「ありがとう」と言ったことに、です。しかも相手だって、普通のおばさんです。ローズが見下していた庶民です。ローズなら「わたくしの手当てをできたことを光栄に思いなさい」ぐらい言ってもおかしくありません。


「いいってことよ。でも、飛び出さないようにだけは気をつけてね」


 おばさんは、笑って言いました。


「分かったわ。じゃあ、行くわよ」


 ローズは言いました。


「あと、アリスはいつまで私の手、握ってるのよ」


「あ、ごめん」


 さらに十分ぐらい歩けば、タイムがいるところにたどり着くはずです。あの倉庫にはいい思い出がないですが、行きましょう。ここまで来たらもう、それは仕方ないことです。リンから杖を受け取り、私は再び歩きはじめます。


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