90.魔神竜も舎弟化
船旅の途中、魔神竜ヴィーヴルというわけわかんないドラゴンにからまれた。
面倒だったので無限爆裂ポーションで痛めつけた結果……。
「さーせんした!」
私の前には、紫色の髪をした、女が正座している。
長くつややかな髪に、真っ赤な瞳。
側頭部からは角が生えていて、垂れ目。
「だれ?」
「ヴィーヴルっす……はい……」
爆裂を食らわせていた、この魔神竜が根を上げたのでやめてあげた。
爆煙が収まると、こうして人間姿になったヴィーヴルがいて、土下座していたってわけ。
「なんで人間の姿になれるわけ?」
「……高位のドラゴンは人になれると、文献に書かれておりました」
さすがエルフのゼニスちゃん、物知り。
「じゃあこの気弱そうな姉ちゃんが、あのゴツいドラゴンと同じ存在って訳ね」
「そーっす……」
しかし人間の姿だと可愛いわねこの子。あのくそでかドラゴンと同じとはどうにも思えん。
「ん? てゆーか、あんた魔神なの?」
「そーっす。原始の七竜神が一人、紫のヴィーヴルっす!」
「ぴゅあからーず……」
「白のロウリィ、黒のカルマアビスについで、有名っすかもね」
「誰も知らん」
「が、がーん! しょんにゃあ~……」
ヴィーヴルのやつが三角座りして、めそめそ泣いてる。
「いちおう、世界を一度救ったことあるんすよぉ……」
「へーすごぉーい」
「まるで信じてないっすね!?」
当たり前だ。あったばかりの人の言うことなんて誰が信じられる?
人じゃあないけど。
「うう……ひでーっす……人間ってどいつもこいつも酷い奴らばっかっすぅ……」
「え、滅ぼす? じゃあ滅ぼすけど?」
「勘弁してくださいお願いしますっす!」
私の前で土下座するヴィーヴル。
「ち、まあやろうと思えばいつでもやれるし、生かしておいてやるか」
「マスター、完全にチンピラの台詞です」
さて、こいつをどうしよう。
「できれば見逃して欲しいんすけど」
「でも魔神なんでしょ? ほっといてあとで人間の里とか襲ってきたら、寝覚め悪いんだけど」
「しねーっすよ! 自分、正義の味方なんで、世界救った英竜なんでっ」
「ほーん」
「やっぱり信じてない!?」
「うん、信じてない。つーか、私程度にやられてる分際で、なにが世界を救った英竜よ」
「あんたが強すぎるんすよ……!」
強い?
「へい、奴隷ちゃんズ。あむ、あい、すとろんぐ??」
「「「いえーす!」」」「なぜ英語なのでしょう……?」
ううむ、まあ奴隷ちゃんズがそう言うのだったら、そうなのかもしれない。
「でも私自身はか弱い乙女だからなぁ」
「魔神竜ぶっ飛ばしておいて、か弱いはギャグにしか聞こえないっすわ……ぎゃんっ!」
ヴィーヴルのケツを蹴り回す私。
「マスター」
「なによ?」
「ケツを蹴り回すのはおやめください」
「あら意外と常識人な発言」
「蹴り回すのでしたらワタシのおしりを是非」
「前言撤回非常識ロボな発言ね」
まあでも子供である奴隷ちゃんズが見てる前で、あんまりはしたないことしちゃね。
教育に悪い。
しかし……どうしたものか。
このドラゴン。ほっとくのもなぁ。
「殺すか」
「ひぃいいい! 命だけはご勘弁をぉおおおおお! 何でもしますのでどうか!」
「ん? 今何でもするって言った?」
「はいっすぅ~……」
「よし……じゃあ、あなた、今日から私の舎弟になれ」
「うぇ!? しゃっ、舎弟っすか!?」
驚くヴィーヴルに私が説明する。
「私はあんたをまだ信用したわけじゃないわ。今すぐここで爆破するべきだと思ってる」
「ひぃ……! 命だけはご勘弁!」
「しかし生かしておいて、私の目の届かないとこで暴れられても困る」
こいつを殺す力を持っていながら、ほっといて、あとでこいつが暴れたとき、責任追及されたくないものね。
「そこで、しばらく私の下で働きなさい。安全だと思ったら解放してあげる」
「そ、それって……パシリしろってことっすか?」
「端的に言えばそうね。どうする? パシられる? それとも、今ここで木っ端みじんになる?」
にっこり。
「ひぃい! パシリになりますぅう!」
こうしてパシリ2号をゲットしたのだった。




