表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/215

09.煙のように消えた【黒髪の聖女】



 セイがヒドラを倒してから、数日後の出来事だ。


 冒険者フィライト。この世界で数えるほどしか居ない、Sランク冒険者の一人だ。


 フィライトは先日、【謎の聖女】の手によって、ヒドラの毒を解毒してもらい、一命を取り留めた人物である。


 フィライト、そして恋人のボルス(セイをサンジョーの町までつれてきたリーダー)は、冒険者ギルドのギルドマスターのもとへ呼び出されていた。


「来たか、フィライト、ボルス」

「遅くなってすみませんわ、ギルマス」


 フィライトとボルスは、ギルドマスター、ギルマスにうながされてソファに座る。


「それで、見つかったか? 謎の聖女さまは」


「それが……方々探し回ったんだけどよ、どこにもあの嬢ちゃんが見つからなくって……いたたたっ!」


 ボルスの耳を、フィライトが強めにひっぱる。


「不敬ですわよ、ボルス。聖女様、でしょう?」


「いやまあ……いいじゃあねえか。本人がここにいないんだし」


 聖女、すなわちセイのことだ。

 フィライトたちはセイを探しているのである。


天導教会てんどうきょうかいに探りを入れてみたんだが、やはり黒髪をした聖女はいないそうだ……」


「黒髪の聖女様……」


 もちろんセイのことである。


 セイ・ファートはこの世界では珍しく、黒くつややかな髪を持っていた。


 彼女の名前はわからないが、黒い髪をした人間で、あれほどまでの治癒の力を持つものは、二人といないだろう。


 だがどこを探しても、黒髪の聖女は見つからないのだ。


「もーいないんじゃねえかな。こないだフィライトを治療したとき、煙のように消えちまったじゃねえかよ」


「かもしれないな……ううむ、惜しい。実に惜しいことをした」


 ボルス、そしてギルマスがハァ……とため息をつく。


「ボルスたちも知っての通りだが、天導教会てんどうきょうかいのクソどものせいで、今この世界では気軽に治癒、解毒ができなくなっちまってる。やつらは大金をおれらからふんだくって、簡単な治療しかしてくんねえ。しかも、やつらは自分たちの抱える聖女さまのお力を際立たせるため、ポーションの販売を規制してやがる」


 セイがいた世界と、今の世界は、情勢が異なる。


 この世界の【治癒】【治療】行為はすべて、天導教会という新しい組織が独占しているのだ。


「ギルマス。おれぁ……よぉ、天導の聖女ってやつに会ったことがある。あいつらは自分が神に選ばれた特別な存在だと思ってやがる。実に高慢なやつらさ。けど……あの黒髪の嬢ちゃんは違う」


 ボルスは述懐する。


 恋人が死に瀕してるとき、セイは嫌がるそぶりを全く見せず、患者の元へと足を運んだ。


 そして、恐ろしいまでの治癒の力をもって、恋人の命を救った。そのうえで……。


「無償で人を助け、しかもお礼も受け取らず、煙のように去って行く……すばらしいですわ……」


 ほぅ……とフィライトが熱っぽく息をつく。


 確かにセイの行動は、端から見るとまるで、ピンチに天より舞い降りた女神に見えなくもない。


 実際には、単に人からの追及が面倒くさかったから、さっさと逃げただけという、非常に残念な物だが……。


「黒髪の聖女さま……ああ、会いたいですわ。一言、お礼を言うだけでいいのに……」


「フィライトよぉ、おめえすっかりあの嬢ちゃんの信者……」


「嬢ちゃんじゃなくて、聖女さま……でしょ? ボルス?」


 いつの間にか、フィライトは剣を抜いていた。


 恋人のボルスの首元に剣をそわせて、険しい表情をしている。

 

 ボルスがハンズアップすると、恋人は剣を下ろした。


「ま、あの黒髪の聖女さま探しは引き続きやってくさ。あの方が天導教会てんどうきょうかいに属さない聖女さまだとしたら、是が非でも彼女といい関係を作りたい」


 天導教会てんどうきょうかいの聖女は、高い金をふんだくる悪者、という共通意識が冒険者達にはあるのだ。


 と、そのときだった。


「し、失礼します!」


 一人の冒険者が、慌ててギルマスの部屋に入ってきた。


「どうした?」

「ほ、報告します! ヒドラが討伐されました!」


「「「「なっ!? なんだって!?」」」


    ★


 フィライト、そしてボルスは、ヒドラ討伐の報告を聞いて、現地へと急行した。


 現地では森呪術師ドルイド職業ジョブを持った冒険者が立っている。

 森呪術師ドルイド。植物と意識をリンクさせ、会話できるという、特別な力を持つ。


「それで、本当にヒドラは倒されたのか?」


「……はい。この子達が見ていたそうです」


 森呪術師ドルイドが持っていた杖で、近くの樹を指す。


「毒の蛇を倒す、黒髪の女性の姿を」


「! そ、それは……黒髪の聖女さまですの!?」


 フィライトが森呪術師ドルイドにくってかかる。


「……さ、さあ……ただ、3人の奴隷を連れていたそうです」


「あの嬢ちゃんもたしか、サンジョーの町で奴隷を買ってたな。数は三」


 ボルスは内心動揺していた。

 ヒドラ討伐の任務は、Sランクである恋人のフィライトが請け負っていた。


 だが彼女は仲間と協力して討伐任務に当たったものの、完敗した。


 フィライトの強さはよく知っている。竜を単独で討伐できるほどの超実力者だ。

 ……そんな彼女が勝てなかったヒドラを、あのひ弱そうな女性が倒した?


 にわかには信じられない。だが……。


「ああ! 黒髪の聖女さま! 慈悲深いだけでなく、お強いだなんて! きっと聖なる力で悪を討ったのですわ! はぁ~……素敵♡ 素晴らしいですわぁん♡」


 どうやらフィライトは、完全にセイがヒドラを倒したと思っているらしい。


 しかも、自分が勝てなかった相手を、小娘が倒したとしっても、まるでへこんでる様子もない。


森呪術師ドルイドさん! 黒髪の聖女さまはどちらに向かわれたのですの!?」


 フィライトが森呪術師ドルイドの襟首をつかんで、鬼気迫る表情で詰問する。


 ボルスは彼女の襟首を摘まんでひきはがす。


「……そ、その人は森を抜けて、南へ向かったそうです」


「となるとこっから近い町といや、ミツケの町かな」


 なるほど! とフィライトがうなずく。

「では行きますわよ、ボルス! 聖女さまを探し出すのですわ!」


 だっ……! と走り出したフィライトのあとにボルスが続く。


 歩きながら、ごくり……とボルスは息をのむ。


 ヒドラは猛毒を発している。空気を、そして大地を汚す力を持つ。


 だがこの森はとても静かで、そして穏やかだ。


 毒による被害なんてまるで感じさせない。


「……Sランクでも手を焼くヒドラを倒し、その毒を中和して森を再生するなんて……マジで本物の聖女さまかもな。いや……ひょっとして、天導教会てんどうきょうかいのボス、【大聖女】と同じ力を……」


「ボルス! いきますわよ!」


 ……想像で物を語っていてもしょうがない。


 今は、あの黒髪の聖女を探して会うことが先決だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ざまぁ系とかでも多いけど冒険者のSランクとかの敷居低すぎでは?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ