83.神を舎弟にゲットだぜ!
私、セイ・ファートは師匠の依頼で、海中にいる悪神トリトンとかいうクジラをこらしめにきた。
無限に再生するクジラに対して、私は永遠に爆発し続けるよう、爆裂ポーション無限コンボを使った。
その結果どうなったかというと……。
『さーせんでした!!!!!! もう許してくださいっす!!!!!!』
海中の私たち。
目の前にはでっかいクジラ……悪神トリトン。
「なーにもう根を上げたの?」
『はいっす、もう勘弁っす……』
たった1時間くらいでギブなんて、神のくせに軟弱ものね。
トリトンは私の前で、まるで生まれたての子鹿のように震えている。
「ちょっとそんな怖がらなくて良いじゃない」
「さすがマスター。無限爆裂コンボを決めておいてその台詞、なかなか言えたもんじゃありません」
私の隣にいるロボメイド(※防水加工バージョン)が半笑いで言う。
「馬鹿にしてるでしょ?」
「さぁ~? どうでしょう。身体に聞いてみます? 夜戦しちゃいます? きゃっ♡ も~♡ ワタシの身体は安くないんですよ~」
「で、これからだけど」
「スルーですかそうですか撃って良いですか?」
いいわけねーだろ。
「師匠の依頼は悪神の暴走を止めろってことだったんだけど……どーすっかしらね」
手っ取り早いのはぶっ殺すことだけど、このクジラは無限に再生し続けるんだよなぁ。
『絶対に暴れ無いっす! 約束するっす!』
「却下。信じられませんな」
『そんなぁ……!』
「人間、そう簡単に変われないものよ。一度の過ちを犯して、もうしません! って言ってるやつほど、再犯するもんなんだから」
『しないっす! まじっす! もう一生海の底でおとなしくしてるっす!』
「信じられまっせーん」
『そんなぁ~……』
絶望しきった顔で、情けなくべそかいてる悪神。
神の威厳ゼロねこりゃ。
「あのぉ~……」
ダフネちゃんが近づいてきて言う。
「なんだか、クジラさん……かわいそうなのです~……」
シェルジュがあきれたようにため息をつく。
「かわいそう? 何を言ってるのですかダフネ様。この悪神は人界に被害を及ぼした罪人です。生かしておく理由なんてまったくないですし、マスターの理解者であるワタシはマスターがこいつを許さないのはわかって……」
「うん、じゃあ生かしておこう!」
「生かしておくんかーい」
ぺん、とシェルジュが私の胸をはたく。
「いやだって、ダフネちゃんが可愛そうっていうから」
「やったー♡」
ぐぬぬぬ……とシェルジュが悔しそうに歯がみする。
「……ワタシのことはないがしろにして、そんなに奴隷ちゃんズがいいんですか? 長年の相棒より可愛くて従順な奴隷の方が良いんですか?」
「うん」
「がーん……しょぼんです。このまま自殺しちゃおっかなー? ちらちら」
「さて、これからの方針なんだけど……」
シェルジュが頬をくらませて、私の胸を何度もぺんぺん叩いてくる。
「なによ?」
「自殺しちゃおうっカナー?」
「どうやって?」
「額に銃を突きつけてパーン!」
「はいはい、ロボがそんなので死にません」
「マスターが……ワタシを、ないがしろに……する……しゅん……ちら?」
うざメイドはほっときます。
「てことで、トリトン。あんたは生かしておいてやるわ。ダフネちゃんに感謝なさい」
『うぉおおお! あざっすダフネの姉御ぉおおおおおおお!』
うっとうしいクジラね。
焼き魚にしてやろうかしら。ん? クジラって魚類……? ま、魚類でしょう(適当)。
「マスター、クジラは哺乳類です」
「あら、自殺しちゃうんじゃなかったの?」
「マスターがかまってくれないのでやめておきました」
このかまってロボメイドめ。
「……でもセイ様。この悪神を殺さないでおくとして、どうするんです? 管理下から離れたら、また暴れるかも知れないですよ?」
頭よしこちゃんのゼニスちゃんの、大変ごもっともな意見。
「もちろん。だから、こいつは持っていきます」
「「「『も、もってく……?』」」」
私はシェルジュのストレージから、ポーションを取り出す。
「ゆけ! 怪物ポーション!」
海中で投げたポーション瓶は……。
海の抵抗で、前に飛んでいかなかった。
「「「「…………」」」」
「い、今のなし! シェルジュ! これあいつにぶっ放して!」
「かしこま☆ やはりマスターにはこの頼れるメイドが必要ですね☆」
ああもう! はずかしかった!
私の作ったポーションを、シェルジュがランチャーに装填し、発射する。
ポーション瓶がクジラにぶつかると……。
『か、身体が小さくなってくぅうううううううううううううううううぅぅぅぅう!』
みるみるうちにクジラが小さくなり、ポーション瓶の中に、入った。
「さながらボトルシップね」
クジラ入り瓶を手に取って言う。
「主殿、今のはなんでござるか?」
トーカちゃんがしげしげと、瓶入りクジラを眺めて訊ねてくる。
「これは怪物ポーション。ぶつけた生物を小さくして、この中に閉じ込めて持ち運べるの」
「おお! 便利でござるなぁ!」
「ポーションであってボールではありませんよ?」
シェルジュが意味不明なことを言う。
「はいじゃ、ダフネちゃん。このクジラ入り瓶をあなたにプレゼントふぉーゆー」
「わぁ! ありがとうおねえちゃん!」
これに入れておけば、いざというときに、瓶から取り出して戦わせることができる。
魔法が使えるゼニスちゃん、武術の心得のあるトーカちゃん、銃が使えるロボ。精霊の力を使えるスィちゃん。
みんな自衛手段があるなかで、ダフネちゃんはなかったからね、力。
だから任せることにしたの。
「さ、一件落着ね。帰りましょうか」
「「「おー!」」」