82.無限爆発
海中にて、悪神トリトンとか言う馬鹿でかいクジラを撃破した……はずだったんだけど。
「マスター。敵の生命反応が消えていません」
ロボメイドのシェルジュが前を油断なくにらみつけながら言う。
こういう局面で冗談言うやつじゃないので、まだ生きてるってことかしら、敵は。
「……! セイ様! 木っ端みじんになった肉塊が! 動き出しました!」
内部から破壊したはずの組織片が、徐々にくっついていく。
やがてまた大きなクジラへと変貌を遂げた。
「再生持ち、ね。ボスにふさわしいじゃん?」
『ふはは! 小さきサルが! この我を殺せるとでも思ったか! つけ上がるなよ下等生物がぁあああああああああ!』
こぉおお! とトリトンの口に魔力が集まっていく。
こりゃいかん。
「みんな集合……!」
私の号令で奴隷ちゃんズが集合する。ナイスだぜ!
私は海中でポーションを作る。
『死にさらせぇえええええええええええええええええええ!』
クジラのやつが口から、高圧縮した水のレーザーを吐き出す。
水圧で鉱物は切れる。その原理を応用しての攻撃だろう。
私は上級ポーションの一つ、【結界ポーション】を作成。
攻撃を無力化する、特殊なバリアを張る。
水流はバリアとぶつかる。バリアにはひびが入ってく。
私は二つ目のポーションを作る。
「【氷獄ポーション】!」
一瞬で水を凍結させるポーションだ。
水と反応して、トリトンの水流を凍らせる。
やつの身体ががきいぃん! と氷結するも……。
『ふははは! きかぁあああああああああああああん!』
氷が内側から破裂して見せた。
あらら、元気ねあいつ……。
「マスター。極低温によって死滅した細胞が、再生されています」
ロボが敵の体をスキャンした結果を伝えてくる。
弱点を探っているのを、やつは悟ったのだ。
こういう細かい気遣いができるんだから、普段のウザい言動をやめて、メイドに徹すればいいのにって思っちゃうわよね。
「なるほどね、なかなかの再生力のようね」
「お、おねえちゃーん……どうしよ~……」
ダフネちゃんとスィちゃんが、おびえたような表情を私に向けてくる。
にっ、と笑って私は二人の頭をなでた。
「だいじょーぶ。もう【底】は見えた。それに……段取りもついたし」
『ほざくな小娘ぇえええええええええ!』
ごぉおお! とでかいクジラがこちらに向かって泳いでくる。
「拙者が止めます……!」
「ううん、大丈夫。……もう、終わったから」
「いったいなにを……?」
そのときだ。
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
トリトンの身体が、木っ端みじんに破裂したのである。
ゼニスちゃんが目を丸くする。
「……これは、爆裂ポーション? しかし、いつの間に敵の体の中に……?」
「ううん、身体の中にはいれてないわ。ただ……やつの周りの海水を、ポーションに変えたのよ」
結界、氷獄、そしてクジラの持つ消化酵素。
三種をまぜあわせることで、さらなる爆発を生む薬液を生成したのだ。
「昔から言うでしょ? 混ぜるな危険って。闇雲に私がポーション作ってたわけじゃないから」
クジラは魚類。海水を体内に取り込む。
液体爆薬となった海水をやつは取り込み、その結果体内で爆発を起こす。
再生しようが、関係ない。
周りに水がある限り、爆発は連鎖し続ける。
『ぎ、ぐぐぐ! だ、だが……我は死なぬ!』
「死なないけど、けれど痛みはあるんでしょ?」
にっこり、と私は笑う。
「あんたが根を上げるまで、身体の内側からぼっかんぼっかんやってやるわよ」
「マスター、鬼です」
「いいえ私は錬金術師よ」
「お、久しぶりですねそのセリフ」
さてさて、あと何回死ねばギブしてくれるかしら……?




