66.大賢者ニコラス・フラメル
セイを追いかけるフィライトたち、聖女追跡し隊のメンバー。
宝物殿で閉じ込められ、砂金によって窒息させられそうになったそのとき。
七色の髪を持つ美女が現れ、彼らを救うと、自らをニコラス・フラメルと名乗ったのだった。
「……ニコラス・フラメルって。セイ様の、お師匠様ですか?」
エルフ奴隷ゼニスがそう訊ねる。
フラメルはニコッと笑うと、しゃがみ込んでこういった。
「麗しいお嬢さん。わしのハーレムメンバーにならぬかの?」
「……………………………………………………は?」
突然のことに戸惑うゼニス。
それはこの場に集まった全員がそう思ってるようだ。
セイの師匠、フラメルは微笑みながら言う。
「わしはおぬしのような美しく、儚い少女が好きでのぉう♡」
「……は? え、は……?」
訳もわからず混乱するゼニス。
「あのあの、えと……おししょーさま?」
「おお! これまたドストライクなきゃわいい女子が!」
ダフネの手を握って、フラメルが言う。
「わしの元へこないか? ん? 何不自由ない暮らしを保障するぞ♡」
「だ、ダフネ……! やばい人でござる!」
火竜人奴隷のトーカが、ダフネをかばうようにして前に立つ。
「なんじゃ、ぬしもなかなか美人じゃが……ちと大きすぎるな。やはり、女は小さい方が良い。特に12歳未満の女子がストライクじゃな」
「「「へ、変態だ……! 大変な変態だ……!」」」
まさかの人物像に戸惑うしかない面々。
「……まさか天下のニコラス・フラメル様が、女好きの変態ロリコンだなんて」
「何を言うお嬢さん! わしは変態ではない! 変態という名の紳士じゃ!」
「……理解不能です」
距離を置く奴隷たち。大人組もいきなり現れた変人に対して警戒心を強めていた。
ボルスはフィライトに目配せをする。
気を引いてる間に、脱出させようという作戦らしい。
行きずりの関係とは言え、自分たちは大人で、子供を守る義務があると彼らは考えるのだ。
「おねえさんよぉ、助けてくれたのはありがてえんだが……あんた、何もんなんだ?」
ボルスは懐に手を突っ込み、銃を握る。
だが……。
「ふむ……む! これは……セイ! 我が愛しの弟子の魔力!」
「!?」
ボルスは驚愕する。
今の今まで、ボルスの目の前にフラメルが居たはず。
だが、気づけば彼女は目の前から消えていた。
部屋からこっそり脱出しようとした奴隷たちの前にいつの間にか現れ、顔を近づける。
「わしにはわかる、これはセイの作ったポーションの魔力! その残滓! つまりおぬしらはセイの関係者ということか! わはは! 懐かしいのぉ! 今やつはどこにおるのじゃ?」
「おい姉ちゃん、いい加減にしねえと……」
ボルスは懐の拳銃を抜こうとして驚愕する。
「!? ねえ……! おれの拳銃が……」
「これのことか?」
いつの間にかフラメルの手の中に、ボルスの拳銃が握られていた。
みなに緊張が走る。
誰も、彼女が何をしたのか理解できなかった。
「ふむ、わしが作った銃ではないか。なぜこんなチンピラがもっておるんだ? ああ、マリクのやつが量産したのか。なるほど……あの子も手先が器用じゃったからな」
「……マリク?」
ゼニスがそう問いかける。
みなが困惑している。少しでも会話して時間を延ばし、体制を整えようとしていた。
「使徒……ああ、わしの弟子の一人じゃ。第二使徒とか言っておったの」
使徒。つまりセイと同じ、フラメルの弟子が銃の原型を作ったというのか。
「じゃが、まだまだじゃな」
ちゃき、とフラメルが銃を構える。
その銃口はボルスに向けられていた。
彼は臨戦態勢を取ろうとする。
だが……動けなかった。恐怖から来るものではない。
脳からの命令が体に向かわない。
体、言うことを聞いてくれないのだ。
「ボルス……!」
ぱぁん……!!!!
銃弾が発射される。
それはボルスの顔面……ではなく、その真横。
突如として出現した、ゴーレムの頭を打ち抜いていた。
「宝物殿を守護するゴーレムのようじゃな」
砂金が固まって人型になったようなゴーレムが、無数にわいて出てきたのだ。
フィライトが撃ち殺したはずのゴーレムも、一度砂金へと変わるも、しかしまた復活したのである。
「……この砂金を原料にしてるのなら、まずいです。原料が大量にあるこの部屋にいたら、一生敵がわき続けます!」
「ふむ、そこのエルフの麗しいお嬢さんの言うとおりじゃ……が」
ぱちん、とフラメルが指を鳴らす。
次の瞬間……無数にいたゴーレムたちが、消えた。
ゴーレムだけじゃない。
その場にあった金銀財宝も含めて、全てが消失していたのである。
「なんだぁ……何が起きてんだ……?」
「! ボルス殿! 皆さんが……いません!」
「なっ!?」
その場に残っていたのは、ボルス、ブロッケス、そしてウフコックの三人だけだ。
「て、てめえ……! フィライトたちどこやった!」
殴りかかろうとするボルスだったが、次の瞬間無様に転んでいた。
彼を冷ややかに見下ろしながら、フラメルが言う。
「彼女たちは、わしが安全に地上へ送り届ける。ここは危険じゃからな」
どうやらこの女が、フィライトたちをどこか別の場所へと送ったらしい。
だが、その言葉を真に受けることができるほど、ボルスはフラメルに対して信用を置いていない。
「てめえふざけるなよ! 誰が信じるかそんなこと!」
「ふむ、しかし外へ出る前にセイに一言挨拶をしていきたいのぉ」
「聞けよ! 話を……!」
だがボルスが立ち上がって殴りかかろうとしたときには、すでにフラメルは部屋から居なくなっていた。
ブロッケス、ウフコックらも困惑している。
「ぼ、ボルス殿……どうしましょう?」
「決まってんだろ! あの女を助ける……!」
「し、しかし……どうやって……」
ボルスは少し考えて、ウフコックに言う。
「おいおめえ、聖女様の気配なら追跡できんだよなぁ?」
「……ああ、問題ない」
「なら、あの奴隷嬢ちゃんたちの気配も追えるな!? あのババアが言っていた、聖女様の魔力が奴隷ちゃんたちに残ってるって!」
「……そうか! 魔力の残滓をたどっていけば!」
ウフコックがうなずくと、フラメルが開けた穴を指さす。
彼らは急いで、フィライトたちを連れ去った、フラメルの後を追うのだった。




