63.知恵比べ(物理)
フォティヤトゥヤァのダンジョンを攻略している私、とお供のシェルジュ。
落とし穴を抜けていくと、そこは今までとは一風変わった場所があった。
「なんか火山の中っぽくないわね」
「地下墳墓のような構造ですね、以上」
砂を固めたレンガがいくつも積み重なって、この部屋を構成している。
そして……出口を妙な置物が塞いでいた。
やたらとでかいそのオブジェは……。
「なにあれ? 猫?」
「人の顔をしているので、人面猫かと」
『痴れ者どもがあああああああああ!』
「「しゃ、しゃべったぁあああああ」」
人面猫の置物が私たちに向かって声を荒らげる。
「え、なにこれしゃべるの? きしょ……」
「マスター、ストレートすぎます。生理的に無理と表現した方がいいです。以上」
『どっちも同じだわこの愚者どもが!』
猫はじろりと私たちをにらみつけてくる。
『我はスフィンクス! この偉大なる迷宮を守護する、知恵の門番!』
「ほー、スフィンクス。門番ってことは、そこの奥にお宝が眠ってるのね!」
『貴様の言うとおり……だがここをただで通すわけにはいかない。我の出す試練を……』
「てーい」
私は爆裂ポーションを放り投げる。
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
「やったか!」
「なにそれ?」
「お約束です。以上」
「わけわからん……」
もわもわ……と爆煙が晴れると、そこには無傷のスフィンクスがいた。
「あれま、爆裂ポーションでも効かないなんて」
「どうやら魔法無効障壁が展開してる様です」
「ふーん、だから魔法ポーションが効かなかったのね」
めんどっち~。
『貴様! 我の話してる途中ではないか!』
「え、バトルの流れじゃないの?」
『違う! 我は知恵の門番だと言ったであろう? ならば競う手段はただひとつ! そう……』
「シェルジュ、狙撃」
「了解、以上」
ストレージから魔法機関銃を取り出して、シェルジュがスフィンクスにぶっ放す。
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!
「マスター、お約束を。以上」
「え、なんだっけ……ああ、やったか?」
『貴様らぁああああああああああああああああああああああああああああ!』
銃弾の雨あられを受けても、スフィンクスは無事だった。
あらまあ……。
「どうやら物理無効障壁も展開できるようです。以上」
「魔法に物理も無効化だなんて、なかなか厄介な敵ねー」
突破するのに時間がかかりそうだわ。はーやだやだ。
面倒なのは嫌いなのよね。
『貴様ら一旦、我の話を聞け!!!』
「えー。しょうがないなぁ。聞いてあげるから話してごらんなさい」
『なんとえらそう……まあよい。この知恵の門番を超えていきたければ、我と知恵比べをして勝たねばならぬ!』
「知恵比べ~?」
なんだそりゃ?
計算バトルでもするのかしら?
「こっちにはハイスペックな演算機能搭載のロボメイドがいるから、知恵比べじゃ負ける気しないわよ」
「マスター。やめてください」
「あら、気に障った?」
「そうじゃなくて、照れます。以上」
「またそれ? 感情表現機能なんて搭載してなかったでしょ?」
シェルジュが無言で私に銃弾を撃ってきた。
なんでや。
まあ当たっても強化ポーションで無敵モードな私には効かないんだけども。
『知恵比べというのは、我の出す【なぞなぞ】に答えるというものだ』
「なぞなぞって……子供とかがやるやつ? パンはパンでも食べられないパンは的な?」
『その通り! もっとも、我の出すなぞなぞは、児戯とは違って本格的ななぞなぞだ! 答えを間違えたら死が待っているだろう!』
「ふーん、ま、いいや。さっさと出してよ」
今は一刻も早く軟らかい石をゲットしたくてしょうがない気分なんだから。
『では問題! 【朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足の生き物はなーんだ!】』
「ふーん。シェルジュ、答えは?」
ハイスペック演算器を出番だ。
シェルジュが目を閉じて、やがて目を開ける。
「現世界のあらゆる書物を検索完了。当該設問に対する答えは……存在しません」
「ねー! いるわけないわよね、そんなきもい生き物!」
「少なくともこの世には存在する生物ではありません。以上」
『ふっ……不正解!!!!!』
ぬぁにぃ~?
不正解だとぉ~?
『これはなぞなぞだ。実際の生物の話ではなく、設問に適する……』
「うるせー! いねえっつってんだろ! 食らえ!」
私はポーション瓶を放り投げる。
スフィンクスの頭にぶつかり、ぱりんと割れて中身がこぼれる。
『ふっ……無駄なあがきを。我の障壁は絶対に壊れ……』
「シェルジュ、撃て」
「YES、マム」
魔法機関銃で、スフィンクスの身体を撃ち抜く。
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!
『ふげえええええええええええええ!』
銃弾は何にも阻まれることなく、敵の体を穴だらけにする。
『ば、ばかな!? 物理障壁が発動しない!? どうして!?』
「簡単よ。あんたの障壁が、どっちか一方しか作用しないからよ」
やつは魔法無効障壁と、物理無効障壁を使える。
が、使えるだけであって、ダブルで使用できるわけじゃない。
「つまり魔法を無効化してる時は、物理無効にできない。私がぶん投げたのは溶解液。ポーションを作るときに使う魔法薬の元。これにも物を溶かすという魔法が付与されている。され続けている。となると?」
「マスターの魔法を無効にしてる間は、ワタシの物理攻撃が無効化できない」
「というわけよ」
「なるほど、さすがマスター。ずる賢いです。以上」
「余計な物つけんな。賢いでしょ?」
穴だらけで倒れ伏すスフィンクスを見下ろす私たち。
物理障壁も魔法障壁も展開できないみたいね。
これだけ体中穴だらけになっちゃ。
『知恵比べだと言ったのに! ルールを守らない蛮族どもがぁ!』
「ま、失礼しちゃうわね。あ、そうだ。じゃあ知恵比べってことで、私もなぞなぞ出してやるわ。答えたら修復してあげる」
『ふん! バカが。知恵比べで我が負けるわけないだろう!』
「あ、そ。じゃ問題ね」
私はスフィンクスになぞなぞを出す。
「問題。【斬っても殺しても、罪には問われないもの、なーんだ】」
『ふははは! そんなの簡単だ! 答えは【息】!』
「ぶー。不正解でーす。正解は……シェルジュ」
ロボメイドがストレージから、魔法電鋸を取り出す。
ヴイィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!
「正解は、【マスターの行く道を阻む邪魔者】以上」
『なぞなぞじゃねええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!』
シェルジュが魔法電鋸で、スフィンクスを滅多斬りにする。
「とどめじゃ!」
私は爆裂ポーションをぶん投げる。
ちゅどおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!
「「大勝利!」」
さ、邪魔者は木っ端みじんにしたので、さっさと先へ進むわよ!




