62.どうやら私の体は最強(ドーピング)
私ことセイ・ファートは南国の島国、フォティヤトゥヤァへとやってきている。
王都に出現した大迷宮の踏破が私の目的……ではない。
「柔らかい石、柔らかい石~」
探し求める物の名前を呼びながら、私はダンジョンを歩いて行く。
火山のなかみたいにくそ暑いけど、冷却ポーションがあるから問題なーい。
「マスター。そもそも柔らかい石とはなんなのですか、以上」
「超神水って特別な水を作るために必須のアイテムよ」
「ちょうしんすい……? なんですか、以上」
あら? この子知らないのね。
まあ錬金術で作られた存在であっても錬金術について深く知ってるわけじゃないのか。
しかし素直に教えを請うてるシェルジュが地味に珍しいわ。
ちょっとからかいたくなる。
「教えて欲しい? お願いしますご主人様って言いなさい」
「あ、では結構です。以上」
「ど、どらい~……わかった教えるからついてらっしゃい」
ぼがん!
「超神水っていうのは、魔力水のワンランク上の溶媒よ。特級と呼ばれるポーションを作る元となるわ」
「特級ポーション? 以上」
「上級ポーションを上回る効果を持つ魔法薬ね」
「なるほど、ものすげーいいポーションを作るために、必要なアイテムが超神水で、それを作るために柔らかい石が必要、と」
どがん!
「そうそう。柔らかい石を魔力水に長時間付けておくの。それだけで超神水完成」
「特級とは具体的にどのような効果が発揮するのですか? 以上」
「たとえば、永続的な浄化が一番有名かしらね。それと不老不死、これは一番難しいわね。あとは清らかな水を永久的に生み出すポーションとか」
「まさに神の奇跡を体現するようなポーションなのですね。以上」
どーん! ぼがーん! ぐっしゃーーーーーーーーーーん!
……さて。
さっきから何が起きてるのか?
答えは単純。迷宮の壁を壊しているのだ。
といっても、パンチやキックなどをしてるわけじゃない。
私はただ、シェルジュが示した方角に向かって進んでいるだけだ。
そう、歩いているだけ。それだけ。
「次どっち?」
シェルジュが指さしたのは、完全に壁。
私はそのまま進んでいくと……。
どがぁん! と壁がぶっ壊れる。
「いつ見ても、マスターの強化ポーションは異常ですね。以上」
飲めば一時的に力を向上させる、強化ポーション。
誰でも作れる下級ポーションのひとつだ。
「迷宮の壁すら破壊するなんて、すさまじいですね。以上」
「そう? 師匠なら強化しなくても素手でぶっ壊せるわよ」
「比較対象がぶっ壊れてます。以上」
美味いこと言うじゃないのよ。
「次は?」
「そこに落とし穴があります」
「ふんふん」
「落ちた先に針山があります」
「なるほどなるほど」
「落ちてください。以上」
「死ねと?」
「死なないでしょう? 以上」
そりゃそっか。
シェルジュが指さす先に、私はひょいっとジャンプ。
かちりという音とともに、穴が開く。
「わー」
トラップ情報をシェルジュが全部教えてくれるのでそんなに怖くない。
てゆーか、結構落ちるな……。
やがて針山が見えてくる。
先端が私の体に突き刺さろうとして……。
ばきぃ!
針が砕けちる。私はそのまま問題ないなく落下。
「あー……よいしょっと」
結構な高さから落ちたけど、私の体はノーダメージ!
さすが強化ポーション。
「さすがマスターですね。以上」
ぼぼぼ……と足からジェットを噴射しながら、シェルジュがゆっくりと降下してくる……のだけど。
「シェルジュさんや」
「なんですかマスター?」
「それができるなら私をお姫様抱っこして、ホバリングして降りてこれたのでは?」
「可能でした」
「じゃなんでそうしないのよ?」
するとシェルジュがそっぽを向いて小さくつぶやく。
「照れてしまいます。以上」
全くの無表情でそんなことを言う。
これが奴隷ちゃんズだったら、まーかーわいーってなるけど。
無機質ロボメイドだとね。
「はいはい。馬鹿言ってないで先進むわよー」
「……マスターのいけず。以上」
んあ? なんか言ったかしらロボメイド。
ま、気のせいね。