51.報酬と新しい仲間
屍竜を元に戻したあと。
水精霊の里を慈雨のポーションを使って範囲浄化した。
その結果、元の美しい精霊の里に戻った次第。
話は浄化が終わった後。
【誠に感謝いたします、人の子よ】
私の前には水精霊達の主、大精霊ウンディーネがたたずんでいる。
私、奴隷ちゃんズ、ロボメイド、そして水精霊のスィちゃんがその前に立っている感じ。
「別にいいわ。雨止めてもらったし。それに金剛竜からはたくさんお礼の品をもらったからね」
金剛石で出来た竜鱗をいくつかもらった。
これも魔法ポーションの素材になるので助かるぅ。
【未曾有の危機を救っていただいた、貴女様にお礼の品をご用意しております】
「お礼? 別にいいのに」
【なんと謙虚なおかたでしょうか。やはり聖女さまというのは、清らかな心の持ち主なのですね】
あー……ここでも完全に聖女扱いされてるわー。
私は錬金術師だっていっても、だーれも信じてくれないのよね。
何でかしら?
「マスターの起こす奇跡がどうみても神の御業だからと推察します。以上」
そんなもんかね……。
ウンディーネはうなずくと、まず私に自分のつけてるネックレスを渡してくる。
銀の液体の入ったペンダントに、チェーンが着いてる感じのデザイン。
【これは【流体水晶】と呼ばれる特別な水晶が入っております。頭の中でイメージした形に水晶を変形できます】
「ほーん……ん? あれ、ってことはまさか……」
私はペンダントをつけて念じる。
するとペンダントからぷくぅ……と液体が風船のように膨らむ。
それが私の手の中で、ポーション瓶に変わった。
【ペンダントをなくさぬ限り、無限に流体水晶を生み出せます】
「わぁお。これがあればポーション瓶作り放題じゃん。たすかるぅ」
すぐ瓶って無くなるのよね。
よくぶん投げるし。
その都度道具屋で補充するのめんどうだったから、とっても助かるわ。
「せんきゅー」
【それとお供の皆様にも】
「え、奴隷ちゃんズにも? いいの?」
【ええ。とてもお世話になりましたので】
そういや特効薬を精霊ちゃんたちに打つときに、奴隷ちゃんズの力も借りたっけ。
律儀な精霊だな。
【火竜人さんには、わらわのこの三つ叉の矛を差し上げます】
ウンディーネの持っていた矛を、トーカちゃんが受け取る。
「おお! 軽いのでござるー!」
【それにも流体水晶を用いて作られております。念じれば自在に武器の長さや形が変わります】
「おー! 槍にも剣にもなるってことでござるなー! すごいのでござるー!」
トーカちゃん多芸で、いろんな武器を扱えるから、これは助かるわね。
【エルフさんにはこの《賢者の図書館》を】
「……けんじゃのとしょかん?」
ウンディーネが魔法で召喚したのは、1つの片眼鏡だ。
ゼニスちゃんが右目につけると、一瞬で消える。
【念じればすぐに片眼鏡が出現します。その中にはいにしえの賢者が所有していた書物が入っており、いつでもどこでも閲覧が可能となります】
「え? 師匠の書物が? なんでそんな魔道具があるの?」
【ししょう……もしかしてフラメル様の弟子様でしょうか?】
「うん。そうよ。ニコラス・フラメルは私のお師匠」
【なるほど、道理で……】
道理でってなによ?
失礼しちゃうわね。
【フラメル様はこの里の入り口にあった、まじないを作ってくださったおかたです】
この里は外界から容易には入ってこれないようになっている。
なるほど。誰がこんな高度な魔法使ったのか気になってたのだけど、師匠の仕業ならうなずける。
「……ありがとうございます。これでより、セイ様のお役に立てます」
次にラビ族のダフネちゃんを見やる。
【あなたにはこのイヤリングを】
「わっ! ありがとなのです……なんなのです?」
【水精の耳飾り。水の精霊と会話が可能となる代物です】
あらま、結構なお宝じゃないの。
今、精霊の言葉がわかるのちーちゃんだけで、スィちゃんと会話するときは、ちーちゃん経由じゃないとだめだった。
けどこれがあれば、ダフネちゃんスィちゃんと会話できるじゃん。
「私らにはないわけ?」
【残念ながら水精の耳飾りは、獣人にしかつけられないのです】
「あらあら残念」
ダフネちゃんが耳飾りをつける。
元々ダフネちゃん空色の髪の毛してるから、青い耳飾りがとてもよく似合う。
ダフネちゃんがスィちゃんに話しかける。
「聞こえるのです?」
「…………」こくん。
「わっ……! すごいすごい! すぃちゃんとおしゃべりできるのです!」
「…………」にっこり。
二人仲よさそうねえ……。
まぁ、でもここでお別れなのよね。悲しいことに。
「スィちゃん何歳なのです?」
「…………」
「生まれたばかり! じゃ-、だふねがお姉ちゃんなのです!」
「…………」だきぃ!
こうして仲いいとこ見ると、別れが余計に辛くなるわよねえ。
かといって、あんま仲良くするなとも言えないし……。
【メイドさんには《氷水の腕輪》を。これは大気中の水分温度を自在に操れる腕輪になります】
「ふむ。これを使って銃弾を作れそうです。移動阻害用の。以上」
当てると凍る弾丸って感じかしら。
確かにそれがあれば、殺さず敵を無力化するのに使えそうね。
「だいぶ色々もらっちゃったわね。ありがと」
【いえ、これくらいでもまだまだ、我らの受けた恩には足りないくらいです】
「もーじゅーぶん。さ、みんな、そろそろおいとまするわよ」
こくんとうなずく奴隷ちゃんズ。
ダフネちゃんがきょとんとした顔をしていた。
「おいとまって?」
「精霊達にさよならバイバイってこと」
「そんな……」
ダフネちゃんがスィちゃんを見て、悲しそうに耳をペちょんと垂らす。
スィちゃんは事情がよくわかってないのか、きょとんとしていた。
「スィちゃんとせっかく仲良くなったのに……お別れは、いやなのですぅ~……」
「…………」しゅん。
スィちゃんも状況を察したのか、沈んだ表情になる。
うーん……。
「…………」くいくい。
「え、なに?」
「…………」じっ。
スィちゃんが私をじっと見つめてくる。
「えと、【わたくしも連れてって欲しく存じます】なのです!!」
あらら、付いてきたいとな。
「おねえちゃんっ! だふねも、スィちゃんと旅したいのですっ!」
「え? うーん……ウンディーネの意見は?」
【わらわは賛成です。この子にはいずれ王位を継いでもらう身として、見識を広めて欲しいと思っておりましたので】
「うーん……じゃあ、ついてくる?」
スィちゃんがうんうん! と強くうなずく。
「やったー! スィちゃんと一緒なのですー!」
「…………」ぴょんぴょん!
ふたりがぴょんぴょんと飛び跳ねる。
人数が多くなると旅が大変そうかなって思ったけど、これを見ちゃうとね。
【我が子が聖女さまにどれだけお役に立てるかはわかりませぬが、この子は《魔力水》を作り出せます】
「ふぁ……!? ま、魔力水!? 作れるって……マジ!?」
こくこく、とスィちゃんがうなずく。
まじか!
「……セイ様。魔力水とは?」
「魔法ポーションを作るときに絶対必要になる、魔力と水が完全に溶け合った水のこと!」
魔法ポーションを作る上で、何が一番めんどいかって、この魔力水を作ることだ。
てゆーか、師匠の工房に立ち寄った理由の8割は、この魔力水を作るためだ。
これを作るには大規模な実験施設と、長い時間が必要になる。
……え、うそ。じゃあ、魔力水を作る手間がカットできるってことー!
「スィちゃん、ウェルカムわがパーティへ! 私は歓迎するぜ!」
「手間がカットできると知った途端、この手のひら返しである。以上」
うっさいロボメイドは無視無視。
「じゃ、お宅のお嬢さん大切に預からせてもらうわね」
【よろしくお願いします】
ちーちゃんの荷台に載る、私、奴隷ちゃんズ、ロボメイド、そして……スィちゃん。
「よっし、じゃあ出発よ!」
こうして新しい旅の仲間が増えて、私たちは里をあとにしたのだった。