05.町へ行き奴隷を買います
錬金術師の私、セイ・ファートは、ひょんなことから元いた時代から500年後にきてしまった。
だが、まあまあ。そんなに悲観はしてないわ。だってあのパワハラ上司は500年後の現在にはいないわけだし、私を縛るものはなにもない!
自由に、気楽に、旅をするぞー、っと思ったわけ。
そんで、現在私は馬車に乗っていた。
森で襲われていた冒険者さんたちをたすけ、近くの町まで送ってもらうことになったんだけど……。
「どうしたんだい、【嬢ちゃん】?」
「あ! いやいや、なんでもないよー」
リーダーさんがはて、と首をかしげる。
「ん、嬢ちゃん、いつの間に手に瓶をもってたんだい?」
「いやぁ、私マジックが得意でさー。なはは……はぁ……」
さて、状況を説明しましょうかね。
500年後に目覚めた私。当然、するべきことがある。それは、情報収集だ。
だってここは私の知ってる世界から500年後の未来。地理、歴史、常識、そのすべてが異なる。
知らないことがあるのなら、情報を集めたくなるのが人情。だけど……。
こっから、さっき実際に起きた会話ね。
『ねえリーダーさん、ポーションが珍しいってどういうこと?』
『ああ……? まあ、いいや。天導教会のやつらが、ポーションを売るのをゆるしてねえからなぁ』
『てんどう? なにそれ』
『……嬢ちゃん、さすがに天導教会知らないって、おかしいぞ。だって世界最大規模の宗教じゃ……』
『必殺! 【忘れろポーション】!』
……以上。
「はぁ……そうよねぇ。あやしいわよねえ」
私は一人考える。
この500年後の世界の常識を知らないのは、私だけだ。
知りたいことを聞き出そうとしても、さっきのリーダーさんみたいに、怪しまれてしまう。
さっき使ったのは、私の開発した【忘れろポーション】。このにおいをかいだ人間は、直近の出来事を忘れてしまうのだ!
とまあ、ポーションのおかげで何とかなったけど……さすがにね。
同じようにピンチは回避できるだろうけど、何度もできる手じゃない。
ま、よーするに、だ。
この世界の常識をまず私は集めたい。でもこの世界の人に、この世界の情報を聞くのはさすがにリスクが高すぎる。
リーダーさんはいい人だったからいいものの、これが悪人だったらと思うとぞっとする。
師匠は言っていた。【情報は武器。知ってることで相手より上に行ける。裏を返せば、知らないってことは、知らないぶんだけ相手より下になる。よく勉強せよ、他人に使われる立場になりたくなければ】と。
いつの時代も、周りがみんな善人なんてことはありえない。
弱みを見せたら、つけこまれる。だから……情報を得るのは、慎重に。かつ、信頼できる相手から。
……っていってもなぁ。
周りに知り合いもいない500年後の未来に、信頼できる相手なんているわけがない。
「となると、やることは一つっきゃないね」
「ん? どうしたんだい、嬢ちゃん?」
「いーや、なんでも。それより町はまだかしら?」
「そろそろ見えてくるぞ。ほら、あそこだ」
なかなかにご立派な外壁を持った町に到着した。
入り口では門番がいて、出入りをチェックしてる。この辺は500年前とあんま変わらない感じかな。
……って、思ってたんだけど。
「なんか入り口で変なの触らされた……」
白いマントを着けた門番が、水晶玉みたいのを差し出してきた。
触った瞬間、ぞくりと悪寒が走り、水晶玉の中に青い煙が発生していた。
「リーダーさん。さっきのは?」
「? あれは天導のやつらの【犯罪鑑定水晶】だろ。おい嬢ちゃん……なんでそんなことも」
「くらえ! 【忘れろポーション!】」
懐から取り出したるは、紫色の小瓶。その中身をびゃっ、とリーダーさんにぶっかける。
するとあら不思議!
「嬢ちゃん、サンジョーの町は初めてかい?」
「う、うん! へえ、サンジョーっていうのねここ!」
とまあ、こんなふうに直近の記憶が消える。
便利だけど何度も使えないのは、こうしてぶっかけないとだめなところね。
周りから見たら完全にやばいでしょ、急にみずぶっかけるとか……。
しかし、ふぅむ。
「また天導か……。なんかさっきからやたら聞くわねその単語」
早いとこ情報を集めないといけないわ。
馬車は冒険者ギルドの前にとまる。
リーダーさんたちとはここで別れる。
「さて、嬢ちゃん。これからどーするんだい?」
「とりあえず、奴隷。奴隷を買おうかなって」
町に入ったときに気づいたのだ。
馬車から降りてくる、首輪をした人たちのことを。
あれは奴隷だ。罪を犯した人たち、貧しい人たちが、奴隷商に買われて、ああして商品として売られている。
500年経っても変わらないのねえ。まあ都合がいい。
そう、奴隷だ。彼らは購入時に、主人と契約を結ぶ。
奴隷達は主人に絶対逆らえない。嘘をつけない。
この世界の情報を引き出すには、とても都合のいい相手だ。
「奴隷か。つってもこのサンジョーの町には、それほどでっけえ奴隷商館はねえぞ。売ってるのも年老いた奴ら、病気や怪我、欠損持ちといった、価値の低い奴隷しか売ってないだろうけど」
ありがとう、リーダーさん。忘れろポーションはぶっかけないでおこう。
「大丈夫。その辺なんとかなるからね。それと……ポーション買い取ってくれてありがとう」
「なに、安いもんさ」
リーダーさんからポーションを売って得た金がある。
正直、これがどれくらいの貨幣価値なのかもさっぱり。
このさっぱり状態がずぅっと続くと、そのうち大ぽかやりそう。
だから、この町でささっと、奴隷を買うの。
「それじゃ、リーダーさん。ありがとう」
「ああ、嬢ちゃんも気ぃつけてなぁ!」
さて私はリーダーさんから教えてもらった、奴隷商館の場所へと向かう。
なかなか立派な館に到着。
出てきたデブな支配人に話をつけて、私は館の中に入る。
「どんな商品をお探しで~?」
商品、ねえ……。私あんま奴隷を商品って思いたくないのよね。
理由?
ふっ……私が奴隷のように、こき使われてたからよ! あの所長のBBAぁ~!
だから奴隷をもののように扱いたくないのよね。
「セイ様?」
「ああ、ええっと……若いほうがいいわ」
「若い奴隷ですと、それなりにお値段しますけど?」
「うん。だから、怪我とか病気とかしてていいから、若くて安い子ちょうだい」
怪我病気の奴隷なら、安く売ってるだろう。そこで私のポーションの出番ですよ。
安く買ってあとで治療すればあらふしぎ、健康で若くて使える奴隷を安く手に入るって寸法!
いやぁ、錬金術師やっててよかったわー。