49.水の精霊の里へ
私、セイ・ファートはエルフ国アネモスギーヴから出国しようとしたけど、大雨の影響で船に乗れずにいた。
水精霊の仕業と言うことでとっちめ……ごほん、説得に向かったところ、どうやら精霊達は病気で苦しんでいることが判明。
交渉の末、彼らの病気を治してあげる代わりに、雨を止ませてもらうことにしたのだった。
私は水精霊ちゃんの血液から、特効薬を作成した。
その後、竜車に乗って水精霊ちゃんの後ろをついて、彼女たちの里へと向かう。
「ぐわぐわ、がー!」
荷台を引いてる地竜のちーちゃんが、水精霊ちゃんの言葉を代弁。
それをダフネちゃんが翻訳。
「【精霊の里の入り口は、特別なまじないによって隠されているのです。こちらがその入り口です】なのです!」
やってきたのは大きな大樹の根元。
どう見てもただの樹にしか見えない。
「拙者が先へ行って様子を見てくるでござる!」
「いや、大事なトーカちゃんをそんな危ないところへ行かせられないわ」
「主殿……!」
「ということで、行け、ロボメイド」
シェルジュがハァ……とため息をつく。
「ワタシは死んでもいいと? 以上」
「あんた魔導人形だし死なないでしょ。大丈夫、壊れたらまた治してやるから」
「仕方ありませんね。以上」
シェルジュが木の根元に手を置くと、ずぶ……とそのまま中に入っていく。
ひょこっと顔を出してくる。
「精霊でなくとも問題なく通れるみたいね。よっしゃ、いくわよ!」
「「「おー!」」」
ちーちゃんごと、竜車が根元のゲートをくぐり抜ける。
一瞬のめまいがしたあと、そこには別空間が広がっていた。
森の中のようだが、あちこちに湖があった。
だが水は濁っており、どう見ても不衛生な水といえた。
水の精霊ってこんな汚い場所に住んでるの……?
「くさいのですぅ~……」
「……耐えがたい悪臭ですね」
私も思わず顔をしかめたくなるようにおいだ。
目が痛くなるレベルって言えばいいんだろうか。
「瘴気による水質汚染とは、また別ねこれは」
「えとえと……【屍竜のせい】だそうなのです」
「ふむ……屍竜……?」
なんだそれは?
博識なエルフのゼニスちゃんが言う。
「……モンスターの一種です。ドラゴンを討伐し、その死体を放置すると、ごくまれに死体が動き出して徘徊し出す。それが屍竜」
「ふぅん……ドラゴンなんて素材の宝庫じゃない。死体を放置なんてもったいないことするの?」
ドラゴンなんてうろこは防具に、爪や骨は武器になる。
さらに牙は錬金術の道具にもなる。
余すところなく使えるやーつじゃないの。
「えとえと、【最近、金剛竜ってドラゴンが人間の手によって乱獲されたらしいのです】」
「……金剛竜とは外皮が金剛石でできた珍しいドラゴンです」
「あ、なるほどねえ。外皮だけかっぱらって、あとの死体は放置してた訳か。で、それがゾンビになったと」
だんだんと水精霊達が怒ってる理由が見えてきたわね。
「水精霊ちゃん、もしかして怒ってるのって……人間達がドラゴンの死体を放置したから?」
「えとえと……【その通りです。やつらの身勝手な振る舞いのせいで我らは病に苦しんでいるのです】なのです」
そら怒って当然か。
「わかった。じゃとりあえずお仲間のとこに連れてって。病気を治してから、その感染源をなんとかする感じで」
そう方針立てたあと、私は水精霊ちゃんのお仲間さんの元へ向かう。
湖をいくつか通り過ぎたあと、滝の前へと到着した。
水精霊ちゃんが呪文を唱えると、滝が割れて、中から洞窟の入り口が出現する。
「【この中に我らの仲間達が眠っている】なのです」
水精霊ちゃん曰く、普段は湖が彼女たちの住処らしい。
けれど屍竜による汚染によって住めなくなったので、この滝の中の洞窟で暮らしてるとのこと。
「おお、中はさっきよりも匂いがきつくないでござるな」
「大気中の臭気濃度分布を解析したところ、あの滝のカーテンが外の臭気をシャットアウトする役割を持ってるようです。以上」
ロボメイドの発言がほんとなら、ここが最後の砦ってことね。
周りを見ると、たしかに具合悪そうな精霊たちがたくさん居た。
みんなぐったりしてる。
「かわいそうなのです~……」
共感力の高いダフネちゃんは、これを見て不憫に思ってるようね。
私はどうだろう。あんまり関係ないっていうか、ここには雨を止めてもらうためにきたってだけだからなぁ。
ほどなくすると、トンネルの奥へと到着し、そこには服を着た精霊がいた。
【よくぞ参られました。人の子よ】
「おお、声が脳内に直接……あなたがここのボス?」
【その通りです。大精霊ウンディーネ。水の民をまとめる女王です】
長い青い髪をした、普通のお姉さんってビジュアルね。
ただ手には三つ叉の矛を持っていて、目を閉じている。
「私はセイ・ファート。旅の錬金術師よ。そこの水精霊ちゃんに助けを求められて、あんたらを治療しに来たわ」
【感謝いたします、人の子よ】
「そーゆーのいいんで。さっさと治したら、とっとと雨止めてね。シェルジュ」
ストレージの中から、どっさりと注射器を取り出す。
【それはなんですか?】
「私の作った特効薬。これをあんたらに注射すれば、たちまち元気になるわ。そこの水精霊ちゃんにも使ったのよ」
ここまで案内してくれた水精霊ちゃんがこくんこくんとうなずく。
【……なるほど。スィはこのものの力を信用すると】
「スィ?」
【わらわの娘です】
ってことは、水精霊ちゃんことスィちゃんは、大精霊の娘……水精霊の王女ってこと?
へー(無関心)。
「わぁ! あなたスィちゃんっていうです? だふねは、ダフネなのですー!」
ダフネちゃんがスィちゃんの手を握ってにぱーっと笑う。
スィちゃんもまたにぱーっと笑っていた。あら癒やされる。
そういえば竜車の中でも二人は仲良しだったわね。
気が合うのかしら。
【スィを治したというその腕を信用しましょう】
「ん。じゃ、腕出して。まずはあなたからお注射するから」
ウンディーネがうなずいて、私に腕を出してくる。
ロボメイドに血管の場所を調べさせ、そこにチクッとな。
【おお! 体に活力が……! すばらしい薬ですね、人の子よ】
「そりゃどうも。さ、奴隷ちゃんズ聞いてー。みんなで手分けして、お注射うちますよー」
「「「はーい!」」」
奴隷ちゃんズ+ロボメイド+スィちゃんで手分けして、この場にいた水精霊たちに特効薬を投与する。
効果はすぐに現れて、みんな元気になった。
「スィちゃんのお友達、みんな元気になったのです-! 治してくれて、ありがとー! おねえちゃんっ!」
ダフネちゃんとスィちゃんが私の腰にしがみついてくる。
【我ら水の民のため、力を尽くしてくれたこと、誠に感謝いたします。人の子よ】
うんうん、まあ別に精霊のためにやったんじゃないんだけどね。
「じゃ、約束通り外の雨を……」
と、そのときだった。
どがぁああん! という破壊音が外から聞こえてきたのだ。
「え、なによ」
「マスター。敵です。レーダーがあの滝で遮断されてるみたいでした。以上」
むわ……と刺激臭が鼻をつく。
ずずぅうん……と大きな足を音を立てながら、そいつが姿を現した。
「あー……こいつか。屍竜って」
やれやれ、一難去ってまた一難ね。




