44.海を渡ろう
私たちはアネモスギーヴ北端、【ヒダ・カーヤ】という港町にやってきていた。
ここヒダ・カーヤは貿易の街で、ここからはたくさんの船が出ている。
「マスター、これからどうするんですか? 以上」
「船を調達するわ。そして海に進出するのよ!」
びしいっ、と私は海を指さす。
びしゃぁ~……と雨が私たちの体を打つ。
「あめなのです~」「大雨でございますなぁ」「……これでは船が出航しませんね」
なんてこったい。
雨がやむまで待つしかないかぁ。
とか思って3日が経過。
「長過ぎぃ……!」
ヒダ・カーヤの街の宿屋にて。
雨が上がるのをずぅっと待ってたのに、まったく上がる気配がないわ!
「こうなったら天候操作のポーションを……」
「マスター。慈雨のポーションをはじめ、ポーションを使った天候操作は、後の生態系を狂わせることになりかねません。以上」
「わ、わかってるわい……はぁ。雨上がらないなぁ。なんでこんな長雨ふってるの? 梅雨?」
買い物行ってくれてたゼニスちゃんが首をふるって言う。
「……どうやら精霊の影響のようです」
「精霊?」
「……はい。水の大精霊ウンディーネの影響で、この雨が続いてるそうです」
あ、なんだ。
なーんだ。そうだったのね。
「よっしゃ、じゃあ行くわよみんな! 【あれ】を着て!」
「はーいなのです!」
私の作った魔道具を、ダフネちゃんが手に取る。
それは一見すると単なる外套。しかしてその実態は、雨をはじく不思議な外套。
名付けて【雨外套】!
ゼニスちゃん雨に濡れてかわいそうだったから、ちゃちゃーっと作ってみました!
「……セイ様。改めてですけど、これ……ほんとにすごい魔道具ですよ」
魔道具とは、魔法の効果を発揮する不思議な道具のこと。
魔力を込めればあかりが着く【魔力灯】とかのことね。
「え、そう?」
「……はい。これなら雨の中でも、気にせず長時間の活動ができます。しかも傘と違って両手がふさがらない」
この世界で雨の日の外出に必須なのは傘。
傘以外使ってる人を見たことない。
そこでこんなのあればいいかなーって思ってちゃちゃーっと適当につくったら、できただけだ。
「……流通に乗せたらかなりの利益を得られると思いますが」
「え、しないよそんなこと」
「……ど、どうして?」
「だって別に、お金なんてどーでもいいし」
この世界ではポーションが非常に高値で売られている。
理由は不明だけど、ま、ほぼタダで作れるポーションを、めちゃくちゃ高値で売ってもらえるのはありがたい。
旅の資金に困らないからね。
「お金は関係ないの。私はねゼニスちゃん、あなたが濡れて、嫌な思いして欲しくないなーって、ただそれだけで開発したの」
「……セイ様」
潤んだ瞳をゼニスちゃんが向けてくる
心なしか頬が赤いわ。あらやだ風邪?
「お薬、飲む?」
「……い、いえ。これは別に」
エルフ国での一件があってから、妙にゼニスちゃん、挙動不審なのよねぇ。
目が合うとそそくさとそらされたり、こっちから抱きつくと、すごい照れるようになって。
「思春期かしら」
「草。以上」
「草? 薬草のこと」
「マスターの錬金術以外の知識が、のきなみ低レベルということです。以上」
「おほほ、このロボスクラップにして海に沈めてやろうかしら」
「防水加工済みです。施したのはマスターです。以上」
ああそうだったわね、ちくしょう。余計なことを。
「そんなわけで、じゃ、ウンディーネのとこに行くわよ! で、どこに居るの?」
「……リィクラ岳です」
シェルジュが地面にマップを表示させる。
このロボ色々便利機能がついてるの。
その一つに、マップ情報を記憶・記録させ、こうして光の魔法で地面や空中に投射するというもの。
目からビームのように光が出てるから、ちょっと怖い。
リィクラ岳はここから東に行ったところにあった。
「……途中、山岳地帯を通り抜けます。そこは野盗たちがねぐらにしてるとか」
「へー。ま、大丈夫でしょ。みんな強いし、ね!」
トーカちゃんは槍の名手、シェルジュは一通りの格闘術と銃が使える。
ゼニスちゃんは魔法が使えるし。
ダフネちゃんは……。
ダフネちゃんは……。
「わくわく」
「かわいい!」
「わーい!」
ま、冗談はさておき、ダフネちゃんは耳がいいので、盗賊に奇襲をかけられるなんてことはない。
奴隷ちゃんズとロボメイドがいれば、ま、大抵何とかなるでしょう。
「大丈夫なのです! お姉ちゃんがいるから!」
あれ?
ダフネちゃん?
「そうでございますな! 主殿がいれば、ま、大抵なんとかなるでござる!」
ちょっと、トーカちゃん?
「……セイ様はお強いですから」
「マスターがいれば魔王も邪神も無問題です。以上」
「あ、あれぇ……? おかしな、私はか弱い錬金術師なのに」
するとみんなきょとんとした表情になった。
シェルジュだけが「何言ってるんですかね、この無自覚ポーション無双女は。以上」となぜかあきれていた。
あとでこのロボは海に沈めておこう。
まあなにはともあれ、私は海を渡るため、この大雨をとめるべく、原因であるウンディーネのもとへと向かうのだった。




