43.身を隠そう
私の名前はセイ・ファート。どこにでもいる普通の女錬金術師だ。
元は宮廷で働いていたのだが、ある日王都にモンスターの大群が押し寄せてきた。
身の危険を感じた私は仮死状態となってやり過ごすも、気づけば500年も時間が経過していた。
まいっか! と開き直った私は気ままな旅に出る。
奴隷ちゃんズとロボメイドとともに、今日も私は旅を続けるのだったが……。
「し、しつこい……」
私たちは森の中で野宿している。
たき火をつつきながら、はぁ……とため息をついた。
私の隣にはラビ族の奴隷ちゃん、ダフネちゃんがいる。
うつらうつらと船をこいでいた。
「ダフネちゃん、寝てもいいわよ」
「はっ! おきてる……れ……ふ……」
「いいのよ。さ、荷台で寝ましょ」
「やぁー……いっしょ……」
あらやだこの子、私のそばにいたいのね。
くっついてきていやいやと首を振る。かわいいわー。
「主殿ー見回りしてきたでござるー!」
背の高い赤髪の女性。
トーカちゃん。元々は蜥蜴人だったけど、今は進化して火竜人となった。
竜っぽい角が生えてるのと、お尻から尻尾が生えてること以外人間に見える。
背やおっぱいがおっきいのが特徴。
「で、どうだった?」
「まだ、追ってきてるでござるな」
「しっつこーい……はぁ……」
エルフ奴隷のゼニスちゃんに、家族に会わせることができて、旅は順調かなーって思った矢先。
私たちは一つの問題に直面していた。
「すみません、そこの旅のおかた」
うげ、きたー……。
まあ【準備】はできてるので、くるっと振り返る。
「はい、なんでしょう?」
そこに居たのは銀の鎧に白いマントの騎士だった。
聖騎士、というワードがぴったりくるみため。
さもありなん、この人達は聖騎士という職業についてる、らしい。
「このあたりで、【黒髪の若い女性】をみかけなかったでしょうか。特徴としては、ポーションを使って様々な奇跡を起こしているという」
奇跡はどうかは知らないけど、ポーションを使っている、黒髪の若い女なら知っている。
私だ。
けれど、私はこう答える。
「いいえ、存じ上げませんねえ」
黒髪に若い女の私がそう答える。
普通だったら、んなばかなこと言うなって反論されただろう。
てゆーか、問答無用で捕まっていたと思う。
「そうですか。見かけた際は、近くの街の【教会】までご一報ください」
「ええ、ええ、わかりました」
聖騎士は私たちのあとを去って行く。
やれやれだわ。
さて、彼が黒髪の乙女(※自称)をほっといて、去って行くのはなぜか?
彼の目が節穴であるわけではない。
「いやぁ、認識阻害ポーション、便利ねぇ」
私の作った新作ポーションである。
最近つきまとわれるようになったので、新しいポーションを開発したのだ。
私は錬金術師である。最も得意なのはポーションの作成。
回復だけでなく、飲めばすごいパワーをえられたり、魔法みたいな効果をはっきするポーションも作れる。
私が服用している認識阻害ポーションは、文字通り【他者から正しく認識されなくなる】ポーション。
知り合いじゃない人から見ると、私はしわくちゃおじいちゃんに見えるのだ。
奴隷ちゃんにも飲ませており、それぞれ異なった見た目になるように調整してある。
「はーもー! うっざいわーー!」
端から見たらおじいちゃんが、女みたいなしゃべりかたで、バタバタと手足を動かしてることだろう。
「……セイ様。買い物いってまいりました」
「ゼニスちゃーん! おかーえりっ! おいでおいで」
やせっぽちなエルフのゼニスちゃん。
実は元王女なのだが、今はこうして私と一緒に旅を続けている。
手には紙袋を持っている。
この先にある街に行って、偵察と買い物をしてきてもらったのだ。
まあ認識阻害ポーション飲んでるから大丈夫だろうけど、万一あの聖騎士の前でポーションきれたら、大目玉だものね。
ということでゼニスちゃん、ロボメイドのシェルジュ、そして地竜のちーちゃんで買い物行ってもらってたわけ。
ゼニスちゃんはちょっとためらったあと、ダフネちゃんが座ってるのと、逆側に腰を下ろす。
控えめに、けれどぴったりよりそってくるゼニスちゃん。きゃわですね。
「街の様子はどう?」
「……だめですね。近隣の町や村には、あの白装束の騎士達が相当数、徘徊してます」
「まじかー」
そう……問題とはこれだ。
最近やたらと、あの聖騎士たちにからまれるのである。
「私、何かやっちゃったかなぁ?」
すると前髪で片目を隠しているロボが、はぁ……とため息をつく。
「今まで何もしてなかった方のほうが、少なかったとメモリに記録されてます。以上」
「えー……ただ私気ままに旅してるだけじゃん?」
「城の破壊、悪政を敷く悪者の成敗、エトセトラ。以上」
「あーあー、きこえなーい」
まあ多少はね?
ちょーっと暴れたり説得(物理)したりしましたよ?
でも聖騎士に狙われるような、犯罪はしてないと思うんだけどねえ……。
「認識阻害ポーションがあれば旅は続けられるけど、こうもつきまとわれたらうざいことこの上ないわ。はーあ、また仮死状態にでもなろうかしら」
「……え」
ゼニスちゃんが、ショックを受けたような顔になる。
なんで……? ああ! そうか。
「だ、大丈夫大丈夫! 大事なあなたたちをほうって、一人で仮死状態になんてならないから! 死ぬならみんな一緒よ!」
「マスター、完全に自殺者の発言です。以上」
うっさいなこのロボは!
まあそうよね、私一人が仮死状態になって、目ざめたら奴隷ちゃんズみんな死んでる、なんてこと嫌だもの。
ゼニスちゃんはエルフで長命だし、シェルジュはロボだから年を取らないけど、ダフネちゃんとトーカちゃん、それにちーちゃんは死んじゃうわ。
そんなのはいやよ。
私、みんな大好きだもの。
「ってなると……やることは一つね!」
「あうう……やぁ……うるしゃい……」
「あ、ごめんごめん……ダフネちゃん……」
「んにゅー……」
ダフネちゃんを起こさないように、小声で私が言う。
「……みんな聞いて。次の方針が決まったわ」
びしっ、と私は明後日の方向を指さして言う。
「海、よ!」