04.新たなる門出
馬車を襲っていた犬人たちを、私は魔除けのポーションで追い払った。
怪我人たちに下級ポーションを恵んであげると、なぜかめちゃくちゃ感謝されたのだった。
「聖女様は巡礼の旅をなさっておられるのですか?」
私は狙い通り、近くの人の居る町まで乗せてもらえることになった。
リーダーが私に向かって、そんな異な事を言う。
「いえ、違いますけど」
聖女? なんだそれは。聞いたことないぞ。少なくとも私が王都にいたころには、聖女なんて単語は聞いたことがなかったけど。
「ああ、なるほど、お忍びでございましたか」
「いやお忍びとかじゃないですし……私、錬金術師ですよ」
だがリーダーは笑顔で「またまたご冗談を」と言って応える。
「錬金術師のポーションで、腕が生えてくるわけがありませぬ。やはり聖女様なのでしょう?」
「いやだから聖女じゃなくて、錬金術師なんですってば」
「ありえませんよ。だって錬金術師の作るポーションといえば、出血が収まるくらいの効能しかありませんよ?」
嘘……。そんな屑同然のポーションが出回ってるの!?
どうなってるの……? 私が仮死状態だったときから、世の中おかしくなっちゃったのかしら。
てゆーか、そうだった。私は情報収集のために、町へ向かってるんだった。
この人達から情報を引き出せないだろうか。
「あなたたちはどこから来たんですか。あの辺って廃墟しかないですよね?」
私の問いかけにリーダーさんが応える。
「マデューカス帝国からやってきました」
「マデューカス……北の帝国ですか。そりゃあまた長旅で。私は東から来たのですが、途中で廃墟を見かけたんですが、あれはなんですか?」
とまあちょっと探りを入れてみる。果たして……。
「王都ですね。もっとも、500年前に滅びてしまったようですが」
「ご、ごひゃくねん……!?」
う、うそぉ! そんなに経過してたの!?
仮死のポーションってそんな長い期間、生き物の細胞を保ってられてるんだすご……じゃなくて。
500年……経ってるんだ。そりゃ……王都も廃墟になるよね。私を知ってる人も居ないだろうし……。
あ、師匠は生きてるかもだけど。
「何を驚いてらっしゃるんですか、聖女さま?」
「あ、いや……」
まずい……私が500年前の人間ってことは隠しておかないと。
馬鹿正直に言って、こいつ頭おかしいって思われて、治療院になんてぶち込まれたくない。
「……500年、かぁ」
ここで恋人や家族がいたなら、もう私を知ってる愛する人たちはいないんだ、と時間の流れの無情さに嘆き悲しむところだろう。
けれど私は独身女。家族も疾うに他界しちゃってる。
師匠は知らん。どっかで生きてるでしょ、あの人のことだから。
つまり……この世界で私を知る人は、いないってことだ。
「ふ……ふふ……ふっはは!」
別に悲しむ必要は全くない。むしろ、妙なしがらみがなくなった分、気が楽になったじゃないか。
仕事やめたいって思ってたところだったしね。ちょうどいい。
このまま未来の世界を見て回るのもいいかもしれない。
「聖女様? どうしたのですか」
「なんでもありませんよ。それと私は聖女ではありません。錬金術師です」
こうして宮廷錬金術師だった私は、転生して未来の世界で、気ままに旅することにしたのだった。