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31.従業員達の教育



 魔道具師ギルド【蠱毒の美食家】をのっと……んん! 責任者交代した私。

 テリー君以外の従業員たちが、眠りから覚めて、ぞろぞろと作業場へとやってきた。


「はいはい、こんにちは。私はセイ・ファート。今日から現場責任者になりました!」


 ざわざわ……と従業員たちが困惑してる。それは仕方ない。急に責任者が交代したんだからね。

 テリー君が、私が付与を施した剣をテーブルの上に置く。


「みんなこれを見てくれ! セイさんが作った魔道具だ」


 従業員達が剣を見て歓声を上げる。


「なんと見事な付与!」「こんな美しく加工され魔核を見たことがない!」「こ、これをあの女性が一人で……?」


 みんなが私を見てくる。


「まぁね。あ、今日の納品分は全部作ってあるから安心してちょうだい。シェルジュ」


 剣の入った木箱を荷車に乗っけて、メイドロボのシェルジュがみんなの前にやってくる。

 従業員達は蓋を開けてまたも驚愕していた。


「す、すごい……! 絶対に終わらないってあきらめてたのに!」

「我らが寝てる3時間の間に、全部魔道具を完成させるなんて……!」


 私は手を上げて言う。


「あ、三時間もかかってないわよ。残りの時間はSOPの作成してたわ」

「「「え、えすおーぴー?」」」


 ううーん、やっぱり手順書の存在を知らなかったようだわ。何をやってるのかしらね、上の人たちは。

 テキトーな指示だけ出してあとは現場に丸投げとかなめてるのかしら? できるようになるまで育てるのも、サラリーの一部ではないのですかね……(びきびき)。


「ようするに、誰でもこれを見れば魔道具を作れるよう、手順の書かれたテキストのことよ」


 みんなが不安そうな顔をしている。


「いや、さすがにそれは……」「セイさんじゃないと、ここまでの物は作れませんよ……」「あなたがすごいだけでは……?」

「そんなことないわ。そうね……テリー君。これを使ってちょっと魔道具、作ってみてくれない?」


 彼を指名したのは、ここに来て初めて知り合った作業員だからだ。

 テリー君はあっさりとうなずいて、私からSOPを受け取る。


 ぺら……とテキストを開くと、彼は目を見開いた。


「す、すごい……! なんて読みやすくわかりやすいんだ! 魔法の映像がついてて作業しやすいし……これなら!」


 テリー君が作業テーブルの前に座る。

 魔力結晶を手に取って、手順書の通りハンマーで割って、ヤスリがけする。


 何も難しいことはない。手順書の内容通りに作業するだけなのだ。

 ほどなくして魔核が完成。


「す、すごい!」「セイさんが作られた魔核と同じだ!」「まさかこんな短時間で作れるなんて!」


 おお……と作業員たちが歓声を上げている。


「10分か。うん、まあ最初にしては上出来ね」

「ありがとうございます! ちなみにセイさんはどれくらいでできるんですか?」

「そうねぇ……」


 私は魔力結晶を手に取る。一瞬で形が球形へと変わる。


「こんなもんかしら。シェルジュ、今何秒かかった?」

「0.5秒です。以上」

「「「…………」」」


 あれ? みんなが驚いてる……というか、若干引いてる!?


「マスターがあまりに異次元の加工をしたので、みな戸惑っていると思われます。以上」

「あ、そうね! ごめんね! でもみんなも頑張れば、ハンマーで割るとかヤスリがけするとか、そんな作業しなくてもできるようになるわ!」

 

 さっきやったのは錬金の技術の初歩だからね。


「あのぉ……セイさん。それはセイさんが特別に優秀だからではないのですか? 我々のような凡人が、セイさんと同じ領域に立てるとは、どうにも思えないのですが……」


 あらら、作業員さんたちみんな、同じような顔をしちゃってるわ。これはいけない。


「安心して。錬金術は神の奇跡なんかじゃなく技術なの。必要なのは技術を習得するという気概、正しい練習方法、そして練習時間。そうすれば、誰だってこれくらいはできるようになるわ」


 これは別に気休めでも何でもない。

 錬金術に限らず、技術は誰でも習得できる、再現性のあるものだからね。


「セイさん……いや、セイ様」

「な、なにテリー君……急に様付けなんて……」

「感動いたしました! セイ様のお言葉に、すごく……すごく! 勇気づけられました!」


 テリー君ほか、作業員たちがみんな笑顔になった。さっきまでの落ち込んでいた彼らはもういない。

 その瞳にはやる気の炎が宿っているわ。

「セイ様……どうか無知なる我らに、あなた様の素晴らしい技術をお教え願えないでしょうか!」

「「「お願いします、セイ様……!」」」


 正直、SOPだけ作ってさっさと出て行くつもりだった。手順書の中に、瘴気を発生させない魔道具の作り方を盛り込んだしね。

 でも……あのやる気のある目。在りし日の私と……同じ目をしていた。


 ちょっとうれしくなっちゃうじゃないの。


「いいわ。技術指導してあげる」

「「「おお……! ありがとうございます……!」」」


 ちょっと遠回りになっちゃうかしら?

 けど公害問題を解決するためには抜本的な解決策が必要だもの。


 彼らに正しい知識と技術を授けた方が、公害の発生はとまると思うのよね。ちょっと時間と手間はかかるけれど。


 こうして私はギルド作業員達向けて、技術セミナーを開くのだった。

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