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03.人助けで聖女さま?(※錬金術師です)

 宮廷錬金術師の私は、仮死のポーションを使ってスタンピードを乗り切った。


 まずは状況を把握するため、人里を目指すことにする。


「よし、回復ポーションの備蓄はばっちし。魔除けのポーションもほどほどに完成。よっし、移動しますかね」


 大量のポーションは錬金工房のなかに収納する。


 この魔法空間で作ったポーションは、こんなかに入れて持ち運び可能。


 ただ気をつけないといけないのは、工房の中と外じゃ時間の流れが異なることだ。


 錬金工房のなかは時間の流れが速い。だから、ほっとくとすーぐ劣化しちゃうんだよね。


 仮死状態になる前に作ったポーションは軒並み腐ってたし。


「さ、出発出発」


 私は廃墟となった王都を後にする。


 魔除けのポーションはぶっかけておいたので、しばらくはモンスターとの遭遇はないだろう。


 私は歩き出す。


 王都周辺の地図は頭の中に入ってる。近くの村を目指してみる。


 まあ、王都が死んでるのに、その村が無事かはわからないけども。


「無事であって欲しいものだわ」


 私は自分の命を最優先にした。その結果死んだり傷ついたりした人もいることだろう。


 自分の判断が間違っていたとは決して思わない。誰だって自分の身が一番かわいいのだ。


 ほどなくして、王都に一番近い村へとやってきた。


「あらまあ……」


 ここも廃村となっていた。その次も、そのまた次も。


「これはもうちょい大きめの都市にいかんとだめっぽいか?」


 えっちらおっちらと歩いて行く私。ちょうど、森にさしかかったそのときだ。


 キン! ガキンッ! キンッ!


「金属の音……? なにかしらっと」


 私は音のする方へと向かって歩く。


 茂みに隠れて様子をうかがった。そこにいたのは、人と、そしてモンスター。


「馬車をモンスターに襲われてるってとこかしらね」


 馬車を護衛しているのは冒険者。

 4人組のパーティで、相手は犬人コボルトね。


 数は10。ちょっと冒険者の方が不利かしら。


 冒険者達は手負いのようだし、犬人コボルトたちはまだまだやれそう。


「さて、どうしようかしら。身を潜めてやり過ごす?」


 いやいや、そんなことよりも、あの人達を助けるほうがメリットが大きいでしょ。


 助けたら馬車に乗っけてもらえるだろうし。


「よし助けましょう。魔除けのポーションを……てりゃ!」


 私は思いっきり女投げでポーションをぶん投げる。


 瓶は地面とぶつかり、ぱりんと乾いた音を立てた。


 その瞬間、魔物が嫌がる匂いが周囲に広がる。


 犬人コボルトたちは尻尾巻いて逃げていった。よしよし。


「大丈夫ですか~?」


 私は冒険者さん達のもとへと向かう。

 彼らはいなくなった犬人コボルトたちに驚いているようだ。


「あ、あんたは……?」

「旅人です。見たところおけがしてるようですが、大丈夫です? ポーションありますけど、入り用ですか?」


 ぎょっ、と男冒険者さんが目をむく。


「ポ、ポーション? あんた、ポーションなんてもってるのか?」


「ええ」


 この人何を驚いてるんだろう? 冒険者さんならポーションくらい持っててもおかしくないのに。


 それとも切らしちゃってるのかな、ちょうど。


「た、頼む! 売ってくれないか!」


 別に売ってもいいけど、ここは信用を勝ち取っておきたいところだ。


 別にポーションなんてその辺に生えてる薬草からちょろっと作れるわけだし。


「お金なんて要りませんよ」

「なっ!? い、要らない!?」


「ええ。ストックはありますし。人命には代えられませんからね」


 というのは建前で、本音を言うなら彼らを治して、近くの町まで護衛してもらいたいなーって気持ちがある。


 私はこの通り非力な女子ですからね。魔除けのポーションがあるとは言え、これもある程度の強さのモンスターには作用しない。


 荒事になったときに、彼らには戦って、守ってもらいたい。だからここはノーギャラでもいいのでポーションを渡しておくのがいいだろう。こっちの懐は痛まないしね。


 私は錬金工房で作ったポーションを、どさっと両腕の中に取り出す。


「こ、こんなにたくさん!? しかも……赤いポーション? 見たことねえぞこんなの……」


 男冒険者さんが目をむいてる。

 ? ポーションって言えば赤い色をしてるはずだけど。


「いいからほら、使ってください」

「いやでも……こんなにはさすがに……」


「いいからほら、さっさと怪我人、治しましょ。私も手伝いますから」


 早く町へ行きたいんだよね。情報収集と、あと何よりお風呂! 


 結構な距離歩いたから汗搔いてるんだよね。インドア派にウォーキングはきっついっすわ。


 私はさっきの彼(リーダーだって言っていた)と手分けして、怪我人の治療にあたる。


「おお!」「すげえ!」「こんな深い傷も一瞬で治るなんて!」「なんてすげえんだ!」


 何を驚いてるのだろう。下級ポーションごときで。


「じょ、嬢ちゃん! 仲間の一人の腕が! 腕が生えてきてるんだが!?」


「? はい。それがどうかしました?」


「いやいやいや! 腕が生えてくるなんておかしいだろ!」


「? いえ、別におかしくありませんけど」


 師匠直伝のポーションは、たとえ部位が欠損していても、細胞分裂を促進して新たに腕や足を生やすことなんて可能だが。


 ……そういえば。


 私って研究室にこもって、ポーションひたすら量産してたから、私の作った回復ポーションを飲んでるひとの、生のリアクションって初めて見たかも。


 私は、師匠のポーションを知ってるし、効果をよく知ってるので、特に驚かないけど。


 リーダーさんは私を見て、小さくつぶやく。


「聖女様だ……」


「? いえ、ただの錬金術師ですけど?」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 500年仮死状態でよく未発見のまま無事だったなと思いました。 廃墟になったとはいえ王都なんて宝の山でしょうに。 もしモンスターが残っているというのなら冒険者の狩り場、お宝発掘場になっ…
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