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21.聖女街道



 セイたちがパワーアップして、エルフ国アネモスギーヴへ出発した、一方その頃。


 聖女を追いかけるSランク冒険者フィライト、およびその恋人のボルスはというと……。


「ぜえ……! はあ……!」

「な、なんて過酷な道程なんだ……!」


 フィライトたちは大汗を搔きながら、少しずつ荒野を進んでいく。


 冒険者数名と臨時パーティを組んで、この人外魔境スタンピードの地を進んでいる最中だ。


 セイたちの通った後には、魔除けの効果で、モンスター達が寄りつかない。


 とはいえ、それはあくまでランクの低いモンスターに限った話(とはいってもBランク以下なのだが)。


 Aランク以上のモンスターが、ここいらではうじゃうじゃと出現する。


 敵とエンカウントするたび戦闘になる。また、太陽を遮るもののないこの荒野では、殺人的な日差しが彼らから水分と体力を奪っていく。


 定期的な休憩を挟まないと、とてもじゃないが、進んでいけない。


 聖女に追いつきたいという、強い気持ちのあるフィライトですら、1時間もしないうちにダウンしてしまうほどだ。


「な、なめてたぜぇ……こんなにも、きちぃとはよぉ~……」


 聖女の通った道の上に、馬車を停止させて、彼らは休息を取る。


「とはいえ、以前よりは格段に楽になりましたよ。やはり聖女さまの、聖なる魔除けのおかげでございますな」


 セイに助けられたことのある、パーティのリーダーがそういう。


 彼女が偶然渡した魔除けのポーションの効果は、彼ら、そして聖女が歩いたあとに、魔除けの力を付与する。


 そうして聖女が歩いた後には魔物が一切よりつかない、聖なる道となった。


「この……ぜえぜえ……道を、【聖女街道】と名付けるのは……どうですの?」


 疲れ切ってるというのに、フィライトはしたり顔でそんなことを言う。


 リーダー達はみな笑顔で賛同していた。

 完全に信者だ……とボルスは若干引いていた。



「まあこの魔除けのおかげでよぉ、行き先ははっきりしてるがよ。しかしなっかなか進まねえなぁ」


 魔物が避ける道を進んでいけば、いずれセイたちの居る場所にたどり着けるはず。


 とはいえ、道中の魔物との戦い、そして灼熱の太陽が、彼らの進みを鈍くしてる。


「もどかしいですわ……」

 

 と、そのときだった。


「や、やべえ! 大変だ! 魔物の群れだ! 【黒犬ブラック・ハウンド】の!」


「「「なっ……!?」」」


 彼らの顔から血の気が引く。


 黒犬。それはAランクの凶悪なモンスターだ。


 ベテラン冒険者パーティでも、一体倒すので精一杯。


 そんなやつらが群れをなしているだなんて……。


 普段の彼らが、いつも通りの力を発揮できれば倒せる相手。


 だが今は全員が疲弊している。このタイミングでの黒犬。しかも、大群。勝てるはずがなかった。


「戦いますわよ、みなさん……」


 絶望に沈むなか、フィライトだけが武器を手に取って立ち上がる。


「何もしなければ、モンスターの餌になります。我らが食われれば、他の力なきものたちの命も失われてしまいます。立ちましょう!」


「ああ!」「そうだな!」「やるぜ……やったるぜえ!」


 フィライトの言葉には力がある。彼女が持つカリスマ性ゆえにだろう。


 その美貌に、凜としたたたずまいは、彼らに力と勇気を与える。


 今は聖女の信者みたいになってるが、フィライトは世界最高峰の冒険者の一人なのだ。


 しかし……。


 黒犬たちは、彼らの間を抜けていった。

「おれたちを……避けた?」

「そんな、ありえませんわ。モンスターが人間を避けるなんて。魔除けの力……? いや、そんな感じじゃない……どうして……」


 と、そのときだった。


 ずもぉお……! と荒野の地面が盛り上がり、そこには……。


「「「…………」」」


 おぞましい化け物が出現した。


 見上げるほどの巨大なミミズだ。


 頭部には鋭い牙がびっしりと生えており、そのよだれは地面をじゅうじゅうと焼いている。


 体表は固そうな瓦のような鎧につつまれていた。


 その巨体、そしてその異形な姿に……彼らはすっかり戦意を喪失していた。


 フィライトですら、武器を落として、幼子のように震えている。


 もうおしまいだ。誰もがそう思った。


 そのモンスター……砂蟲サンドワームは、彼らを丸呑みにしようとした……。


 そのときだ。


 ばちゅんっ……!


 砂蟲サンドワームの頭部が、一瞬にして消し飛んだのだ。


「な、なんだぁ……?」

「見ろ! 魔除けの力だ! あいつは聖女さまが付与なさった聖なる力によるダメージを受けたんだ!」


 確かに、自分たちを襲おうとした瞬間、砂蟲サンドワームはなにかにはじかれたようにのけぞった。


 きらきら……と今のフィライト達の周りには聖なる光が展開してる。


 砂蟲サンドワームはその光に怯えるように、地面の中に消えていった。


「おお! すげえ!」「聖女さまのお力は、あんな化け物すら退けてしまうなんて!」「Bランク以下を近づけず、さらにあんな化け物から守ってくれるだなんて!」


「「「聖女さま……まじすげええ!」」」


 ボルスは戦慄していた。先ほどの砂蟲サンドワームは、完全にSランクのフィライトの技量では倒せないほどの、化け物だった。


 ということは、Sランクを超えるモンスター……SSランクとも言える怪異。


 その攻撃を軽々とはねのけるほどの、聖なる力を付与した。


「やばいな……あの嬢ちゃん……すごすぎだろ……」


 一方でフィライトは静かに涙を流していた。


 ボルスは慌てて恋人の元へ向かう。


「お、おい大丈夫か!? どこか怪我したのか!?」


 ふるふる! とフィライトが強く首を振る。


「聖女さまの御業に……感動の涙を流してるのですわ……」


「ああ、そうかよ……」


 心配して損した……とボルスは脱力する。


 彼氏の心配など全く意に介した様子もなく、フィライトが叫ぶ。


「聖女街道には、あのような化け物ですら我ら無辜の民を守る力があります! 広めましょう、人々に! 聖女さまが我らの安全のために作った、この神の道を!」


「「「おー!」」」


 しかし残念ながら、セイは別にこの道を作ったわけではない。


 単に、無自覚に聖なる力を振りまきながら歩いた結果、そこが道になっただけである。


 真実を知らぬ彼らの手によって、セイの偉業をますます広めていくことになる。

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― 新着の感想 ―
魔除けは風呂入るまで有効だっけか。 ということは、歩いた後に効果が残るのは成分が散って残ってるからか。 …聖女街道とか有名になると、雨で効果が流れた後に大惨事なんじゃ…
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