202.愛の証
天空城にて。
私はバカ師匠を正面からハグした。
ぴたっ、と英雄の人工生命体たちの動きが止まる。
「人工生命体たち、どうしたのでござるか?」
「師匠の動揺が、配下の人工生命体たちの動きをとめたのでしょう」
トーカちゃんたちが驚いてる。
そんな中で、私はぎゅっ、と師匠を強くはぐした。
……なんつーか、言葉にするのははずいからいいたくないが。
バカ師匠に、少しでも、私の気持ちが伝われば良いなと思いながら、強くぎゅっと抱きしめる。
「セイ……ちゃん……」
「なに?」
「これ……どういうこと?」
「だから、愛だよ、愛。これ以上言わせないでよ、はずいなもう……」
師匠が体を震わせてる。
「うそだ……」
ぽつり、と師匠がつぶやく。
「だって……だってまだセイちゃんは、この世界の神になったわけじゃないんだ」
まーだ言ってるのかこいつ……。
「まだ神にしてあげてない。まだ、君に何もあげてない。だから、愛されるわけがないのに……!」
このバカ師匠は、自覚がなかったようだ。
自分がしてきたことが、どれだけ、私に影響を及ぼしていたかってことを。
ならば、どうする?
簡単だ。
……相手が納得するまで、こっちの思いを伝えれば良い。
「もらってるよ、たっくさん」
「何もあげてない!」
「アホか。まずあんたには、命を救われたじゃないか」
私は孤児だった。
親が死んで、村から追放されそうになっていた。
子供一人でこの世界を生きることは、不可能だった。
私は死ぬ運命にあった。それを、師匠が救ってくれたのだ。
「それから、あんたは私に生きる術を授けてくれたじゃない」
フラメル式錬金術。
これがあったから、私は食いっぱぐれることはなかった。それに、この五百年後の世界でも、生き残ることができた。
「私の命。生きる術……。そして」
そして、なにより。
「あんたは、私に一番欲しいものくれたじゃんか」
「欲しいもの……」
「うん。そう。家族、だよ」
家族を失った私に、師匠は母となってくれた。
リーンフォースやシェルジュといった、娘をくれた。
ダフネちゃんやスイちゃんといった、可愛い妹たちと出会うきっかけをくれた。
「マスター。娘は嫌です。恋人がいいです」
「あーはいはい。じゃうっさいポンコツメイドをくれたよ」
「ひどい……けど、マスターがぞんざいに扱う女がワタシ一人なので、それでよしとします」
なんだこいつ……きしょいな。
まあいいや。
「とにかく! バカ師匠。あんたは何もなかった私に、いっぱいの贈り物をくれた。それに……愛情を持って、接してくれた」
そう、愛情だ。
で、なければ……。
「私がここに居るのはね、あんたが心配だったからだよ」
災禍の波にバカ師匠がいて、一人で止めているっていうから、私はここにきた。
師匠が、どうでも良い他人なら、こんな危険な場所に乗り込んではこないだろう。
「ここに私がいて、あんたがいる。それが、愛情の証だって、わっかんないかな?」




