17.ボスとのバトル
私たちは師匠の工房へと訪れていた。
荒野にそびえ立つ巨大な塔。
その一階には転移ポータルがおいてある。
魔法陣がかすれていて正常に作動していなかった。私は白墨を使って魔法陣を直す。
「これでよし。さっ、みんな乗って乗って~」
奴隷ちゃん達を魔法陣内に入れる。地面に手を置いて私は魔力を流す。
かっ……! と赤い光が私たちを包み込むと、周囲の景色が一瞬で変わる。
さっきまで塔の中だったのに、今は塔の屋上にいる。
びょおお……! と突風が吹いて髪の毛が流れていく。
ゆっくり眼を開けると、そこには花畑が広がっていた。
「わぁ……! きれいなのですー!」
「……すごい。こんな高所に庭園があるなんて」
ゼニスちゃんが言うように、そこは色とりどりの花が咲き乱れる、見事な庭園が広がっていた。
それを見て、わー美しいー……とは思えなかった。
「あんにゃろ……サボりよって」
「……? セイ様?」
「なんでもないわ、ゼニスちゃん。さ、工房にいきましょ。あそこの小さな小屋が、師匠の工房よ」
庭園の奥にレンガ造りの小屋がある。
私たちが歩み寄っていこうとすると……。
庭の中央に魔法陣が出現し、1人の……メイドさんが現れた。
桃色のショートカット。前髪は左目だけを隠してる。
小柄な女だ。
「む? なんでござるかあれは?」
「魔導人形よ。それも、師匠が自ら作った、超高性能メイド魔導人形」
ほんと、見た目は人間なのよねぇ。
ただ側頭部から、竜の角みたいなアンテナが伸びている。
また、人間的な動作がない。呼吸とか、瞬きとか。
「シェルジュ……ひさし……」
メイド……シェルジュがスカートから、2丁の銃を取り出す。機関銃だ。うげ。
「トーカちゃん、私たち守って!」
「む! 心得たっ!」
トーカちゃんは一瞬で私たちの前にやってくる。
「【竜円閃】!」
トーカちゃんが槍を高速回転させる。
一方シェルジュは2丁の機関銃を構えて、私たちめがけて連射してきた。
どががががっ! とすさまじい早さで銃弾が撃ち込まれる。
「うひー!」
「……セイ様。あれは、お師匠さまの魔導人形なのですよね? どうして、弟子であるセイ様に攻撃を?」
ゼニスちゃんからの問いかけに対して、答えは一つ。
「師匠のお世話の係だからよ。あの女……師匠以外はどーでもいいって感じなの。たとえ弟子だろうと、侵入者は排除ってね」
しっかしどうするかね……。
まあやるしかないんだろうけど。
「ぐっ! あ、主殿……! やつの攻撃を、防ぐだけで精一杯でござる!」
「……あの銃。帝国式の銃よりも連射力に優れています。ただ銃である以上、弾丸には限りがあるはず。なのにつきる様子がない……」
ゼニスちゃんはよく勉強してるな。
てか、銃弾って私が居た頃じゃまだマイナーだったのに、500年後の今じゃ主流なのかしら。
「あの女は【構築魔法】を使ってくるわ」
「……構築魔法?」
「簡単に言えば、魔力で物質を構築……創る能力ね。魔力がつきない限り銃弾は創られ続ける。そして、あの女の魔力は無尽蔵なの」
「……そんなことって」
「あるのよ。ニコラス・フラメルがつくりし、最高級の魔道具。特級魔導人形。人型で、人間以上の力をやばい代物よ」
第一あんな細い腕で機関銃2本を操るなんてありえないのだ。
作られた人形だからこそ発揮できる芸当。
「ぐぅ……! 押される……!」
トーカちゃんはよく持ってる。あのメイドロボはかなりやる。普通に古竜とか討伐するしなぁ。
「しゃーないか。トーカちゃん! ゼニスちゃん達守ってて。私がやる」
「し、しかし……」
「だいじょーぶ! マスターを信じなさい」
トーカちゃんは何度も躊躇していた。私を守らなきゃって意識があるのだろう。
けれど、私を信じる気になったのか、うなずく。
私はトーカちゃんの影から、バッ……! と横に出る。
正直戦いは苦手だ。てゆーか、運動が苦手なのだ。
私はポーション瓶を、アンダースローで、シェルジュめがけて投げる。
左腕をポーションに向ける。
あんたの癖は、私がよくわかってる。精密自動射撃。それがあんたの強み。
けれど精密で自動ってのが、弱点でもあるのよね。
ぱりん! と割れたポーション瓶から、白煙が立ち上る。
煙ポーション。化学反応で煙を起こす……ようは煙幕だ。
銃弾がやむ。それはそうだ。シェルジュは敵を認識して攻撃する。
裏を返せば、敵が見えなければ攻撃してこない……。とはいえ。
師匠の作った魔導人形が
、この程度の事態を想定していないわけがない。
煙幕で敵が見えないのに、銃弾が再び降ってくる。
「見えてないのに、なぜ我らを狙撃できるのでござるか!?」
「敵の熱を感知してるのよー。そのまま守っててねー」
もう手は打ってあるから。
ぱりん! とシェルジュのドたまに、【2本目】のポーションがぶつかる。
中から白くてドロッとした液体が発生し、シェルジュをべっとりとぬらす。
「接着ポーション。ま、ボンドだね」
白い液体は、物体同士を接着させる効果がある下級ポーションだ。
シェルジュのパーツの動きを、ポーションが固定化。やつは指も体も動かせなくなって、棒立ちとなる。
やがて煙が晴れる。
「か、勝ったのでござるか……?」
「す、すごいのです! おねえちゃん!」
わっ……! と奴隷ちゃんたちが近づいてくる。
ゼニスちゃんが動けなくなったシェルジュを見つめていう。
「……あの2本目のポーション、いつの間に投げてたんですか?」
「煙幕張ったときにだよ。あのロボメイド、熱感知モードに切り替わると、生物は捉えられるけど、非生物は追えなくなるんだよね」
ポーション瓶は体温を持たないため、投げても捕捉できない。
あの女が熱感知モードにチェンジしたタイミングを見計らって、2本目を高く、上に投げていたのだ。
「……相手の性能を理解した上で、最小限の動作で敵を無力化する。お見事でした」
「いやぁ、みんなが協力してくれたおかげだよ。ありがとー」
私は奴隷ちゃん達を抱きしめる。えへへと笑う彼女たち。かわええわー。
さて……と。ロボメイドにはお説教タイムかなぁ。