14.荒野で人助(無自覚)
私たちはエルフ国アネモスギーヴへと向かう前に、師匠の工房へ補給に向かうことにした。
地竜のちーちゃんが、どどど、と荒野を走っている。若干揺れるのは気になるけど、まあ自分の足で歩くよりはね。
幌馬車に乗ってる私。膝の上ではダフネちゃんが眠っている。
「しゅぴ~……おねえちゃん……しゅき~……♡」
ふわふわ髪のうさ耳少女が赤ん坊のように丸くなっている。
耳を触るとその都度ぴくぴく動くのが実に愛らしい。ずっと触りたくなるねえい。
隣に座っているゼニスちゃんが私に言う。
「……ところでセイ様、魔除けのポーションの持続時間ってどれくらいなのでしょうか?」
「あー……そういや、測ったことなかったなぁ。ま、効果が切れるまでじゃない?」
「……あ、アバウトですね」
「お風呂入って、体表から流れ落ちると消えるのは確かよ。それ以外は、さぁねえ~……」
効果が発揮出来てればいいや、くらいに考えてたので、持続時間って測ったことなかったわ。
毒蛇……ああ、ヒドラって言うんだっけ。
高純度の蛇毒が手に入ったことで、ランクの高い魔除けのポーションが作れたし、まあ【そこそこ】長く魔除け効果が続くんじゃないかなぁって思ってる。
「む! 主殿! 前方に敵影ありでござる!」
運転席に座ってるトーカちゃんが、私に報告してくる。
荷物管理してるゼニスちゃんから、双眼鏡を借りて、ホロから顔を出し見やる。
灰色の狼に襲われてる……馬車があった。
「馬車が襲われてるわね……こっちにこられても困るし……。トーカちゃん、弓は使える?」
地竜のちーちゃんをゆずってもらったときに、サービスでいくつか武器のお古をもらっていたのだ。
「無論! 拙者武芸全般、得意なので!」
あらやだ頼りになる。槍だけじゃなくて弓も使えるなんて。
馬車の運転をゼニスちゃんと代わってもらい、トーカちゃんには弓を射ってもらう。
「はいこれ使って」
「む? 矢の先に何かついてるでござるよ?」
「うん、魔除けのポーション」
「なるほど! 矢をあそこに向かって打てば、瓶が割れて中の魔除けのポーションが散布されるというわけでござるな!」
そういうことだ。
トーカちゃんは御者台に立って、矢をつがえる。
「ハッ……!」
放った矢は放物線を描いて、正確に、馬車を襲ってる狼たちの群れの中に落ちる。
その瞬間、どさ……! と一気に狼たちがその場で崩れ落ちた。
人間にとって魔除けのポーションは無害だが、気化したポーションを吸い込んだモンスター達はたまったもんじゃないもんね。
「ゼニスちゃん、あの馬車に近づけてくんない? けが人がいるかもだし」
「……お助けになられるのですか?」
「まーね」
旅人だったらこの辺のことにも詳しいだろうし。
師匠の工房の情報を知ってるかもだから。
とまあ打算有りで助けようと思っていたのだが。
「さっすが主殿は慈悲深いでござるなぁ!」
とまあなぜか感心されてしまった。ま、いいや。訂正めんどいし。
ゼニスちゃんが竜車を、さっきの馬車に近づける。
「だいじょうぶですかー?」
「お、おお……あんたらか。さっき助けてくれたのは」
身なりからして、どうやら商人と、護衛の冒険者さんたちのようだ。
「怪我してますね。ポーションはありますか?」
「あいにくと……」
あらら、外出にポーションは必須だと思うんだけどね。
まあミツケの町の市場を見て確信を得たけど、ポーションってほとんど、表のマーケットでは売ってないんだわ。
裏で、しかも質の悪いものしか売ってないときたら、そりゃ買おうって人も少ないだろうね。
「よろしければお分けいたしますが」
「なにっ!? ほ、ほんとうかい?」
「ええ。みんな、治療よろしく」
「「「はいっ……!」」」
奴隷ちゃん達にポーションを配らせる。
その間、私はこの商人さんに話を聞く。
「塔?」
「ええ、このあたりにあると思うんですけど」
すると「まさか……」と商人さんはつぶやいていう。
「【悪魔の塔】のことかい……?」
「あくまのとう……? なんですそれ」
「知らないのかい? この荒野に存在する、おっそろしいダンジョンのことだよ」
ダンジョン……?
「中には見たこともない、鉄でできた魔導人形がいて、侵入者を返り討ちにするんだ」
「あー……」
うん。それは……師匠の工房を守ってるガーディアンよねえ……。
師匠の工房って、結構高価なものがおいてあるから、盗られないようにってことで警備の魔導人形をおいてるのよ。
しかし悪魔の塔……か。なんか妙な噂になってるんだな。
「その場所ってわかります?」
「わかるが……嬢ちゃん、行くのかい? やめときな! 何人ものトレジャーハンターが挑もうとして、返り討ちになったって聞くぜ!」
慌てて止めようとしてくる商人さん。まあ危険な場所に自ら首を突っ込もうとしている人が居たら、止めるのが当然ね。
しかしあんまりここで足止め食いたくないし、ここは……。
「大丈夫です、中には入りません。遠くから見れればそれでいいんで」
「そ、そうかい……まあそれなら」
商人さんは師匠の工房の場所を、地図で示してくれた。どうやらこのあたりを巡回する行商さんらしかったので、地理に詳しいらしい。ラッキ~。
一方で、冒険者さん達の治療が完了したらしく、みんな驚いてる。
「す、すげえ! 出血がピタリととまった!」
「つか傷口がこんなに速くなおるなんて、はんぱねえ!」
奴隷ちゃん達が戻ってくる。よしよし、とみんなの頭をなでてあげた。実にうれしそうにするダフネちゃん、トーカちゃん。
ゼニスちゃんは照れながらも、けれど嫌な顔はまったくしてなかった。きゃわわ。
「それじゃ、我々はこれで」
「あの! ほ、本当に金はいいのかい? 助けてもらっただけでなく、怪我まで治してもらったのに……」
商人さんが申し訳なさそうにする。んーあんま気にしてもらってもなぁ。
こっちは単に、師匠の工房の場所知りたかっただけだしね。
「必要ないです。それじゃ……」
私たちは馬車に乗ると、ちーちゃんが走り出す。
ふぅ、ちょっと寄り道になったけど、無事工房の場所も知れたし、まあ、結果オーライね。