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13.荒野を行く



 馬車、もとい竜車を手に入れた私は、大陸の最果てにやってきていた。


「あついのですぅ~……」

「ぐわ~……」


 竜車をとめて一休みしている私たち。

 目の前には広々とした荒野が広がっている。


「大丈夫でござるか、ダフネ?」

「うう……あついぃ~……とーかちゃんはどうして平気そうなのです?」

「拙者は暑さに強いのでござる! 火竜人なので!」


 ホロの中にいてもさすがに暑い。

 からからに空気が乾いてて、純粋に暑い。あとのどが渇く。


「はいはい、みんな。これ飲んで~」


 私は【工房】のなかから、人数分(+ちーちゃんのぶん)のポーション瓶を取り出す。

 エルフのゼニスちゃんが首をかしげながら言う。


「……セイ様。これはなんでしょう?」

冷却クールポーション。飲むと涼しくなるの」


 奴隷ちゃんたちがポーションをごくりと飲む。

 私は一度荷台から降りて、地竜のちーちゃんにポーションを飲ました。


 その瞬間、ちーちゃんの体に空色のオーラがまとわりつく。


「ぐわ! ぐわわっ!」


 さっきまでぐったりしていたちーちゃんが、元気にがーがーないてる。

 うむ、地竜にもちゃんと効いたようね。


 ホロ付き荷台へと戻る。するとダフネちゃんがぴょんぴょんしていた。


「とても涼しいのです! 快適なのですー!」


 両手を挙げて飛び跳ねるダフネちゃん。ウサギっぽい動きに癒される。いやぁ、いいっすわ。


 ゼニスちゃんはポーションの中身を見て分析を試みていた。


「……体に冷気の膜がまとわりついてる。ポーションに含まれる成分が、汗の成分を変性させてるのかしら。いずれにしろ、すごい技術ですね」


「うむ! やはり主殿はすごいのでござる!!!」「なのです!」


 まあこれでこのなーんもない荒野を快適に進めるわね。


「……あの、セイ様。本当に行き先を、エルフ国にしてよいのでしょうか?」


 私たちはこの荒野を越えた先にある、エルフの国に向かおうとしていた。


「いいのよ。ゼニスちゃんの家族が、いるかもなんでしょ?」

「……そ、それは。そう、かもですが」


 ゼニスちゃんはかつて、エルフの国のお姫様だったらしい。

 今はクーデターが起きて、国王の首がすげ替わったそうだ。


 王族、つまりゼニスちゃんの家族は、男は殺され、女子供は奴隷として売り飛ばされたらしい。


「家族がエルフ国にいるとは限らない。でも、手がかりがあるかもしれない。ならいってみよう。家族に会いたくない?」


 この子は出会った当初から、一貫して大人な態度をとっている。けど私から見たら、無理してるように見えるのよね。


 だって夜に一度、この子が涙を流してるとこ、見ちゃったからなぁ。

 やっぱりさみしいのね。てことで、連れてってあげることにしたの。


「エルフ国がどんなとこかも気になるしさ! 私のわがままなんだよこれは。だからゼニスちゃんは気兼ねせず、私を君の故郷へと連れてってくれればそれでいいの。迷惑なんて思ってないし」


 ゼニスちゃんは目を丸くした後、じわ……と涙をためる。

 私はハンカチを渡してあげると、彼女は何度も頭を下げながら言う。


「……セイ様の寛大なお心遣い、感謝しております。私のような卑しい奴隷のために、ここまでしてくださるなんて」


「卑しい奴隷とか言わないの。君は仲間なんだから」


 私、奴隷とか我慢とか、そういうのだいっきらいなのよね!

 私自身が、我慢して我慢して我慢して、奴隷のように働かされた、にがーい経験があるからさ。


 つい、自分を重ねて、優しくしちゃうのよね。私の時は誰も助けちゃくれなかったからさ、余計に。


「さて! 気分を切り替えて、これからのお話ししましょうね。ゼニスちゃん、地図を」


 ミツケの町で買ってきた周辺国の地図を広げる。


 王国西側に広がる、広大な荒れ地を指さす。


「……現在われわれがいるのは、ゲータ・ニィガ王国の西部、スタンピードと呼ばれる領地です。ここを南西に向かってくだっていったさきに、エルフ国アネモスギーヴがあります」


「随分と広い荒野でござるなぁ。竜車でもかなり時間がかかりそうでござる」


「……そのとおり。途中で補給していく必要があるけど、この土地は人の住める場所が少ない。野営を何度かしないといけません。ですが、注意が必要です」


 はて、と私たちは首をかしげる。


「……この土地には、凶悪なモンスターがかなり生息しています。ここは別名、人外魔境」


「人外魔境ねえ……物騒な名前」


「……はい。通常のモンスターよりも高ランクのモンスターが出てきます。なのでここを渡る際は、キャラバンに同行するか、強い冒険者を護衛につけるのが常道です」


 ふーん、キャラバン、冒険者の護衛かぁ。


「却下で」

「……ど、どうしてでしょうか?」

「私、団体行動苦手なのよねぇ」

「……それだけの理由で」


 ゼニスちゃんがあきれたようにつぶやく。私は火竜人のトーカちゃんを見やる。


「ま、大丈夫でしょ。トーカちゃんいるし」

「うむ! それに、主殿もおりますからな! 主殿のポーションがあれば問題ないでござるよ!」


 ダフネちゃんもトーカちゃんも、私を信頼してくれてるようだ。うれしい。

 ゼニスちゃんは迷ったものの、結局は私の発言を信じてくれるようだ。


「とはいえ、長い危険な旅路になりそう。そこで、私は【賢者の塔】に寄ろうと思います」


「「「賢者の塔?」」」


 まあ聞きなじみのない単語よねぇ。


「……セイ様、なんですか、賢者の塔とは?」

「私の師匠の工房よ。あの人、放浪癖があって、全国のあちこちに自分の工房を作っては、管理せずほっといてるの」


「……なるほど、セイ様のお師匠様の。しかし立ち寄って何をするのですか?」

「この先に何があるかわからないからね。工房をかりて、ナンバーズをはじめとした、魔法ポーションを作っておこうと思ってね」


 下級ポーション(回復や解毒)以上の効果を発揮する上級ポーションを、私はナンバーズと呼んでいる。


 こないだ使った転移ポーションとかね。


 家にあったものはだいぶ劣化してて、だいぶナンバーズに空きがある。

 一度工房にいって、それらを補給しておきたい。


「このスタンピード領に確か、賢者の塔があったはずだわ。そこをまずは目指しましょう」


 そういうわけで、私は一度、補給へと向かうことにした。


「さて、しゅっぱーつ。の前に、えいや」


 ぱしゃ、と私はちーちゃんに魔除けポーションをかけておく。

 まあ、ランクの高いモンスターの出るここで、どれだけ魔除けが通じるかはわからないけどね。


「ぐわ、がー!」


 ちーちゃんが荒野を進んでいく。

 少しすると……。


 ぼとぼとぼと! と上空から何かが落ちてきていた。


「なにかしらね、あれ?」

「……モンスターですね。【大大鷲】です。群れで襲ってくる、Bランクのモンスター」


 ぼとぼと、と大大鷲の群れが落ちてくる。


「拙者なにもしてないでござるよ?」

「……多分、セイ様のポーションの効果でしょう」

「なんと! Bランクのモンスターを、魔除けのポーションで退けてしまうなんて! すごいですぞ!」


 あんまりモンスターのランクとか言われてもわからないのよねぇ。ま、褒められて悪い気はしないけど。


「……これ、余裕なのでは?」「おねえちゃんすごいのですー!」


 ま、何はともあれ出発進行よ。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 地竜に魔除けポーションかけても効かない?地竜は普通の魔物とは違う?
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