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12.聖女さまの偉業



 セイたちが出発して、数日後。


 Sランク冒険者フィライトと、その恋人の冒険者ボルスは、ようやくミツケの町へと到着した。


「きっつぅ~……途中で死喰い花(デス・プラント)の大量発生に見舞われて、すっかり到着が遅れちまったな」


「おいなにぼさっとしてますの!? 黒髪の聖女さまを探しますわよ!」


 フィライトはかつてセイに命を救われたことがある。


 そのときから彼女のファンなのだ。


 彼らはギルマスの命令で、セイを探している。


 フィライト達はミツケの町で聞き込みを行った。だが黒髪で、奴隷を連れた一行は見当たらなかった。


 そうして彼らは、とある商館を訪れる。

「来たんですの!? 黒髪の聖女さまが!」


「ええ、来ましたよ。数日前に。もう出立なさったようですが」


「ああ……そんな……」


 フィライトはその場に崩れ落ちる。心からショックを受けているようだ。


 大げさだな……とボルスはあきれたようにため息をついた。


 確かに黒髪の聖女、セイはすごい力を持っている。瀕死のフィライトを死の淵から生き返らせた治癒力、ヒドラの毒をあっさり解毒する力。


 それは今この世界で幅をきかせている、天導教会てんどうきょうかいの聖女を遥かに上回る。


 黒髪の聖女が天導所属でないとしたら、一体彼女はどこから来たなんなのか……。どこでその力は身につけたのか……。


 フィライトとは違い、ボルスの興味はそちらにあった。


「ああ、なるほど……あのお方はやはり聖女でしたか。やはり……」


「やはり? 何かあったのか?」


 ええ、と商人がうなずく。


「先日死喰い花(デス・プラント)がこの近辺で大量に発生したでしょう? そのときに多数の負傷者が出たんです。ですが、黒髪の聖女さまからいただいた解毒ポーションのおかげで大勢の命が助かったのです」


「なんですって! 詳しく! おしえてくださいまし!」


 黒髪の聖女ことセイがおいていった解毒ポーション。


 死喰い花(デス・プラント)の毒攻撃を受けた人たちを、たちまち解毒して見せたのだ。


 しかも水で薄めて使っても、あの強力な毒を完璧に治して見せた。結果、住民の被害はゼロ。


「あのお方は死喰い花(デス・プラント)が来ることを予知していたのでしょう。だから、我らにその対抗手段であるポーションを残していかれた……しかも無償で。やはり素晴らしいおかたです」


「ああ! やはり黒髪の聖女さまは、慈悲深く、そしてすごいお方です! 未来の危機を予知してみせるなんて!」


 単にセイは、ただで地竜をもらうのがいたたまれなかったから、代わりにポーションをおいてきただけだった。


 しかし真相を知らない商人は、話を勝手に盛ってしまい、さらにセイの評価がガンガン上がっていく。


 町を(結果的に)救ったセイの噂は、ミツケの町から、商人を伝って広がっていくことになる。


 それはさておき。


 フィライトたちは食堂へと移動し、今後の方針を話し合っていた。


「ここで完全に、黒髪の聖女さまの足取りが途絶えたなぁ」


「ああ……聖女さま……会いたいのに会えない……! もどかしいですわぁ!」


 地竜を得た聖女一行は、去って行ったという。行き先も知らない彼女たちの、追跡の旅はここで終わりか……。


 と、思われたそのときだった。


「せいじょさま? せいじょさまのおしりあいなのですか?」


 一人の幼女が、フィライト達に近づいてきた。


 彼女はセイが助けた、母親……もとい、父親の娘だった。


「お、嬢ちゃん知ってるのか? 黒い髪の聖女さま」


「うん! せーじょさまは、ままをたすけてくれたの!」


「まま……?」


 ボルスの元に、ぬぅうっと巨大な影が落ちる。


 見上げるとそこには、見事な肉体美を持った、ゴリマッチョな男が立っていた。

「どうもぉ、ママでーす♡」

「お、おう……」


 どう見てもママではなく、親父だったのだが……それはさておき。


 フィライトは興奮気味に幼女と会話する。


「ままがね、病気で苦しんでたの。そこにね、せいじょさまがきて、なおしてくれたんだ!」


「まあまあ! それは素晴らしい! やはり聖女さまは、人々の苦しむ声をどこからか聞きつける素晴らしい耳もおもちなのでしょう! すごいですわ!」


 否である。単に偶然であって、クッキーレシピほしさに、幼女の家に来ただけだった。


 ここでもまた、セイの行いが美談として語り継がれていく。


 元気になった父親は、病気でしめていたこの店を再開した、という次第。


「あなた、聖女さまがどこに行ったのか知ってますか?」


「おいおいフィライト。さすがにそんな子供が知ってるわけが……」


 幼女は笑顔でうなずいた。


「しってるよ!」

「なっ!? ほんとですのっ!」


「うんっ。あのね、あ、あね……あねもす……あねもすぎーぶ? ってとこにいくって!」


 二人が幼女の言葉を反芻する。


「アネモスギーヴ……って、たしか南西にある、エルフの国だったな」


「そこですわ! 聖女さまの行き先は、エルフ国アネモスギーヴ!」


 がたんっ! とフィライトが立ち上がる。


「さっそくエルフ国へと向かいますわよ。ボルス!」


 フィライトは全速力で店を出て行く。

 支払いを済ませたボルスは、その後へと続こうとする。


「黒髪の聖女さまを追うなら、伝言をお願いしてもいいかしらん?」


 食堂の親父がボルスに言う。


「最近、この町で天導教会てんどうきょうかいの聖騎士たちを多く見かけますわん。つまり……」


「天導のやつらも、黒髪の聖女さまを探し出した……?」


 ええ、と食堂の親父がうなずく。


「黒髪の聖女さまは、天導所属ではないのでしょう? なら気をつけた方がいいですわん。目障りに思って、消しにくるかも……と」


 天導教会てんどうきょうかいは、その聖なる力を使って金儲けをするような連中である。


 無償で人を救うセイとは、正反対の存在だ。


 そんな彼らからすれば、無自覚に人を助け、しかも金を受け取らないでいる彼女を疎ましく思うのは至極当然と言える。

「わかった。忠告感謝するぜぇ」


 ボルスはそう言って、フィライトの後に続くのだった。

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