114.理外の化け物
セイ・ファートと対峙する炎の魔神ドゥルジ。
彼は……驚愕を、そして困惑を禁じ得なかった。
彼は炎熱の魔神。あらゆるものを溶かし、焦がし、そして灰に変えてきた。
数多く存在する魔神の中で、自らが頂点に立っていると、本気で思っていた。
たとえ神が相手だろうと、この灼熱は、命ある者すべてを灰燼に帰すと。
炎に勝てる生物など、存在するわけがない……と。
……しかし。
『なんだ、なんなんだ貴様ぁああああああああああああああああ!!!!』
ドゥルジは炎で攻撃したはずだった。
しかし目の前の小娘……セイはピンピンしてる。
それどころか、謎の理屈で神の炎を無効化していた。
『ありえん! ありえない! なぜ炎がでないのだ!』
「だーかーら、酸素がないんじゃ炎は燃焼しないでしょうが。ソンなこともわからないの? 馬鹿なの?」
……なんだその、遥か高みから見下ろしているような、見下した視線は!
人間ごときが、そんな目を神に向けるな!
炎がでないとなったドゥルジは、物理的な手段にである。
『うぉおおおおおおおおお!』
「能力が駄目なら暴力ね。まったく……ナンセンスだわ」
どしん、とドゥルジがその場に倒れる。
体が……言うことを効かない。なんだ、何が起きてる……!?
「奪った酸素を、今度はあんたの周り、顔の周りにだけ集中させたのよ」
『が……ぐが……』
「酸素は確かに燃焼に必要な要素。しかし高濃度の酸素は、時として生物にとって毒となる」
……わからん、わからん! 何を言ってるのだこの女は!
しかし、ドゥルジの体が全く言うことを効かないのは事実!
苦しい、体から力が抜けていく……。
なぜだ……自分は、神なのに……! なぜ、自分が地面を這いつくばっているのだ!
「私のポーションで、化学反応を起こし、酸素分子に指向性をもたせた。あんたの周りには高濃度酸素……毒が体の中に入ってきてる」
後は仕上げ……といって、セイが小瓶を取り出して、放り投げる。
ドゥルジの頭にぶつかると、中身がぶちまけられる。
「やっぱ魔神には、爆裂ポーションよね」
高濃度の酸素を喰らい……凄まじい爆発が、連鎖して起こる。
ドゴアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!
『ば……かな……炎の魔神だぞ……なぜ……爆発が……きくのだ……』
「とはいっても、あんたは生物なんだ。生き物であれば……炎はきくでしょ?」
……それは、自分の持っていた絶対普遍の美学。
この女はあろうことか、ドゥルジと同じ思想を持っていたのだ。
……おごっていた。
自分こそが、力と知恵においても神だと思った。でも違った。
……この女こそ、神を超越する……。
理外の、化け物だった。




