11.いざ出発
病気のお母さん(お父さん)を治した。
そのおと……お母さんの知り合いである商人を、紹介してもらう。その人から馬……ではなく、地竜を譲ってもらえることになった。
「ぐわ! がー!」
商会の隣にある厩舎にて、私たちは立っている。
地竜。竜の一種で、走ることに特化したドラゴンだ。サイズは人間の私よりちょいと大きいくらい。
たくさんの地竜が並んでいる。どれも結構なお値段がした。
「ほんとにただで譲ってもらっていいんですか?」
さっきのおと……お母さんの知り合いである商人さんに尋ねる。
彼は笑顔でうなずいて答える。
「ええ、あの方にはお世話になったんです。だからあの人を助けてくれたあなたになら、喜んで地竜をお譲りします」
うーん、ラッキー。まさか助けた人がそんな重要人物だったとは……。
私は単にクッキーのレシピ知りたかったのと、ま、あとは困ってる人をほっとけなかっただけなんだけどねぇ。
「さて、と。どの子がいいかな。ダフネちゃん」
「はいなのです!」
ぴょこっ、とラビ族の少女が手を上げる。両手を挙げて主張する姿に癒やされる。うーん、いやし。
「あなたたしか動物と話せるんでしょ?」
「はいなのですー!」
ぴょんぴょんと両手を挙げて飛ぶダフネちゃん。うさぎみたいできゃわわ。
「じゃあこの中からやる気がありそうな子を選んでくれるかな?」
「はいなのです! お姉ちゃんのために、がんばってえらぶです~!」
ダフネちゃんが元気いっぱいに駆けだしていく。
どうせもらえるなら、モチベの高い地竜をもらいたいもんね。長く使いたいし。
ほどなくして、ダフネちゃんが一匹の赤い地竜を選出。
「だふねたちを見て、すっごいやる気なのです、この子!」
「ぐわぐわっ、がー!」
私たち四人を見て、地竜がふがふがと鼻息を荒くしている。
「ほほぅ。ちなみになんて言ってるの?」
「えとえと、【女の子いっぱいだー! うひょー! ハーレムパーティきちゃー!】って言ってるのです!」
……なんだろう、なんかこいつ選びたくないなぁ。
多分オスよねこいつ。
「やる気はあるかい?」
「ぐわ、がー!」「【もちろんさー!】だそうなのです」
まあスケベでもやる気があった方がいいわよね。荒野のど真ん中でやる気失って立ち往生とか勘弁して欲しいし。
「すみません、じゃあこの子いただきますね」
「いいんですか……? そいつ、手のつけられない暴れん坊ですよ?」
商人さんが目を丸くしている。
「大丈夫だと思います。ね、ええっと……地竜だから……【ちーちゃん】」
「がー! ぐわー!」「【もちろんです姐さん】だそうです」
姐さんって。まあこの子達の主人だからそういう扱いでいい……のか?
商人さんはなるほど、とうなずく。
「さすが聖女さまは目利きにも優れていらっしゃるのですね」
「いやいや……だから聖女じゃなくて、錬金術師ですから」
「またまた。ご謙遜を。バジリスクの石化を解除できる、ポーションを作れる錬金術師など存在しませんよ」
目の前に居るんですがそれは……。
まあいいや。訂正するのもめんどいし。ほっとこ。
「聖女さま。実は折り入って頼みがあるのですが、バジリスクの石化を解除したあの聖なる水を、お譲りいただけないでしょうか」
「聖なる水って……ただの解毒ポーションなんだけど、まあいいですよ」
【錬金工房】にストックしてあった、解毒ポーションを20本ほど取り出す。
まあさすがにこの立派な地竜を、ただでもらうのは気が引けたしね。
解毒ポーションなんてその辺の草でちゃちゃっと作れるし、実質ただみたいなもん。
「ありがとうございます。で料金なのですが」
「え、いらないですよ。ただただ」
「こ、こんなに高価な物を、たくさんいただいてよろしいのですか!?」
「ええ、どうぞ。売るなり、困ってる人に使うなりしてあげて」
下級ポーション(ナンバーズのような、魔法付与がされていないポーションのこと)なんて、呼吸するかのように作れる。
さらに安価な素材で作れるので、別にあげたところでたいした痛手にはならない。
それに商人相手に売ったら金にはなるだろうけど、そうなると【どうやって作ったの】だの【その術は誰から教わっただのと】追及がうるさそうだからね。
ただであげれば、さすがにそこまで突っ込んではこまい。善意でもらってるんだから、厚かましいって心理が働いて遠慮してくれるからね。
私もいろいろ考えてるのよ。
その後、商館を出て私たちは最終準備に取りかかる。
地竜のちーちゃんを荷台にくっつける。
御者役はダフネちゃんに任せる。動物と会話できるから、うまく手綱をにぎってくれるだろう。
その隣には、護衛役としてトーカちゃんを座らせる。
腕の立つ彼女には槍を持たせた。モンスターが出たときようにね。
私とゼニスちゃんは荷台にのっかる。ほろつき馬車の旅。一人だといろいろだるかったろうけど、奴隷ちゃんたちがいるおかげで楽に進めそうだ。
三人も面倒見るのは大変だと思ったけど、結果的に楽できるしオッケーかな。それに大人数の方が楽しいし、旅は。
「それじゃ、出発!」
「「おー!」」「ぐわー!」「……はい」
私たちはミツケの町をあとにしたのだった。