10.病気のお母さんもさらっと治す
毒蛇をゲットだぜした2日後。
私は奴隷ちゃん3人を連れて、ミツケという町を訪れていた。
マーケットである程度の買い物を済ませる。馬車の手配、食料の買い込み。
そして……市場調査。
やはり市場を見てわかったけど、どこにもポーションが売られていなかった。
商業ギルドにも顔を出したけれど、そこでも低級のポーションすら出回ってない様子。
……じゃあどこでポーションが売られてるかというと、アングラな雰囲気ただよう、裏路地の店。
そこでポーションを買ってみたんだけど……。
まあ、ひどいものだった。まず質。悪すぎ。これじゃ擦り傷治すくらいが関の山だ。
出血は止められるだろうけど、致命傷となる傷を治すまでには行かない。
もっと質のいいポーションがないか聞いたんだけど、そんなものはないし、そもそも作れないそうだ。
500年後の錬金術師たちはどうしてしまったのだろうか……。そういえば錬金術師を町で全く見かけなかったな。
「さて、買い出しと聞き取り終わりっと」
私たちは二手に分かれて行動。
私とゼニスちゃんのペア、トーカちゃんとダフネちゃんのペア。
トーカちゃんたちは荷物を馬車に積んでいる。
私とゼニスちゃんは情報収集していた。
「これがポーションかぁ……」
濁った色の瓶を私は見てつぶやく。
「……ええ、この世界じゃ、それをポーションと呼びますね」
「こんなのポーションじゃない。泥水だ」
「……高価なポーションを泥水なんて……。500年前とは状況が異なるのですか?」
「そーね。さすがにここまで質の低いものは、なかったかな。そもそも市場には出回らなかったしこんなクズポーション」
私は市場をある程度見て回って、【見えざる圧力】のようなものを感じた。
誰かの意思で、ポーション技術が無理矢理衰退させられてる、ような。
その大元は、天導教会とかいう、怪しげな組織にあるような……気がする。
「ま、私にゃ関係ないけどな……!」
余計なことには首を突っ込まない。
別にポーション衰退の原因を突き止めるぜ! とか。
大いなる謎に踏み込んでいくぜ! なーんて気概はさらっさらないのよ。
私がしたいのは自由な旅。
誰にも縛られない、パワハラ上司もいない世界を、のんびり楽しくすごせりゃそれでいいわけさ。
「準備も調ったし、もめ事が起きる前に出発しましょ」
と、そのときだった。
「きゃっ!」
どんっ、と私に誰かがぶつかってきたのだ。
「おっと、大丈夫、お嬢ちゃん?」
「あ、うん……えと、ぶつかってごめんなさい……」
幼女ちゃんが謝ってくる。
「別にいいのよ。って、なにこれ?」
幼女ちゃんの周りには、クッキーが落ちてる。
「あらら、ごめんね。これ、全部買い取るから許して。ゼニスちゃん、お金払って」
金勘定と金の管理は、頭のいい彼女に任せている。
私はこの世界の相場とか知らないので、だまされたら大変。だから信頼してるゼニスちゃんに財布を預けているのだ。
ゼニスちゃんが金額を聞いて、幼女ちゃんにお金を払う。
その間に落ちてるクッキーを集めてひろう。
ふむ……どれ一口。
「う!」
「う?」
「うまいぞ! シェフだ! シェフを呼べー!」
なんて美味しいクッキーなのかしら!
是非とも作った人に会って、レシピを教わりたいものだ。
「これ作ったのおじょうちゃん?」
「ううん。おかあさん」
「ほほぅ、お母さんに会わせてくれない? 是非ともレシピを知りたいわ」
私は周囲を見渡す。
すると幼女ちゃんがうつむいて言う。
「……おかあさん、おうち」
「……え? あなた、一人でクッキー売っていたの? お母さんの代わりに?」
ゼニスちゃんの言葉に幼女ちゃんがうなずく。
これは……。何か訳ありだろう。
「あなたのおうち連れてってくれないかしら」
「え……?」
「私、お母さんとお話ししたいの」
レシピしりたいしね。
幼女ちゃんは迷ったそぶりを見せる。けれどゼニスちゃんを見て、少し警戒心を解いたのか、こくんとうなずいた。
まあ知らない大人に声かけられてびびってしまうのはわかる。
てかゼニスちゃん同世代だと思われたんだ……かわいそう……。
とまあなんやかんやあって、私は幼女ちゃんのおうちに到着。
「ごほっ、ごほっ……あら、お客さん?」
「まま! ただいまー!」
幼女ちゃんがお母さんにしがみつく。
お母さんは粗末なベッドに寝ていた。明らかに体調が悪そうで、それで痩せている。
……おそらく食べ物を体が受け付けないんだろうな。
「私は旅の者です。そこでこの子からクッキーを買ったんです。とってもおいしくて、よろしければレシピを教えていただけないかと。商売する気はなく、趣味ですわ」
なるほど……とお母さんが納得したようにうなずく。だが……。
「ごほっ! ゲホッ……!」
「! おかあさんっ!」
ごふ……と血が彼女の口から漏れる。
これは本格的に病状が進んで、やばい状態なのだろう。
私はすかさず魔法でポーションを作り上げて、近くに寄る。
「これを飲んでください」
「……げほごほっ! こ、これは……ごほほご!」
「いいから。ほら、ぐいっと」
ここで死なれちゃうと寝覚め悪いし、何よりおいしいクッキーがこの世から永遠に失われるなんて、もったいない!
ということで、私は作った回復ポーションをお母さんに飲ませる。すると……。
「う、」
「う?」
「うぉおおおおおおおおおお! みーなーぎってきたぁあああああああああああああああああああ!」
ベッドで寝ていたお母さんが立ち上がると……。
ぼっ……! と体が一瞬で膨らんだ!?
「ふぁ!? なになに!?」
「ぬぅううん! 力がみなぎるぅうううううううう!」
「ええええええええええ!? お、お、男ぉおおおおおおおお!?」
お母さんと思っていた人物が、元気になると、筋肉もりっもりの大男へと変貌した!
「ままぁ!」
「我が娘よぉ!」
……ママ? 男なのに、ママ?
え、え、どゆこと……?
「……セイ様。おそらくは、あの男が母親代わりをしていたのかと」
「あ、な、なるほど……」
一見したら線の細い女性に見えたけど、それは病気で痩せ細っていただけで、実際はこのごりっごりのマッチョ兄さんだったわけだ。
「どうもありがとうございます! 旅の方! ぬぅうん! バジリスクの石化光線を受け、体の内部から石になっていくという奇病にかかっていたのに! ぬぬぅうん! すっかり元気になりましたぁ!」
「あ、そ、そっすか。よかったすねアハハハ……」
私こういう筋肉ごりごりは苦手だわ……
あと体育会系のノリもね。前の職場を思い出す……うっ、頭痛が。
「是非ともお礼を!」
「あ、お礼はいいのでレシピ教えてください」
というか、このお母さん……じゃなかった、お父さんがクッキー作ったの?
こんな格闘家みたいな見た目なのに?
ううん……人は見た目によらないのねぇ。
「おねえさん! ままをなおしてくれて、ありがとー!」
幼女ちゃんが私に笑顔を向ける。
まあここまでするつもりはなかったんだけど……。
ま、いっか! 少女の笑顔、プライスレスだもんね!