01．わたしの労働環境がブラックすぎる件
ご好評につき連載版開始します！
「【セイ】。明日までにポーション追加で作っておきなさい」
「…………はぁ？」
私の名前はセイ・ファート。
王宮で働く、宮廷錬金術師の一人だ。
所長から渡された発注書に、ざっと目を通す。
「……これ、明日までにポーション１０００本作れって書いてあるように思えるんですけど？」
「そうよ。それがあなたの仕事でしょ？」
私たち宮廷錬金術師は、民間の錬金術師と違って、王宮で使われるポーション、魔道具と薬を作製するのが仕事。
とりわけ、私はポーション作製を担当しているのだが……。
「いや……あの、１０００本って。今抱えてる案件まだ片付いてないんですが。しかも明日までって……無理に決まってるじゃないですか」
「これくらいあなたなら余裕でしょ。最年少で宮廷錬金術師になって、あの伝説の【ニコラス・フラメル】の弟子の、天才術師のあなたならね」
そう言って、所長は出ていった。
「天才術師……ねえ」
私は今年２０歳。５年前、つまり１５歳で宮廷錬金術師の試験に合格した。
宮廷錬金術師の試験資格には、熟達した術師のもとに１０年以上の従事経験が必要としている。
大抵のひとたちは、学校を卒業してから、術師に弟子入りするのよね。だから２０歳を超えての試験になる。
そんな中で私は１５で試験をパス、当時は最年少の天才って持てはやされたものだった。
……けれど、試験に合格したのだって、ほんとはあの師匠の地獄のしごきから逃れるためだった。
伝説の術師、ニコラス・フラメル。
完全回復薬の開発、人工生命体の基礎理論確立、ポーションの安価大量生産技術の確立等など……。
すさまじい功績を残した、生きる伝説。
だが私からすればただのろくでなしだ。
あの人も宮廷錬金術師なのだが、まーサボり癖がひどい。
私に全技術と知識をたたき込んだ後、自分の仕事をほとんど押しつけてきたのだ！ ひっどい人だ！
１５の私は決意した。もうこんな奴隷みたいな生活はうんざりだ！ 資格を得て宮廷錬金術師になろう！ と。
師匠と同格(技術レベルの差はともかく)となれば、もうあの人の弟子として働く必要はない。
そう思って試験を受けてソッコーで合格！ 私の宮廷錬金術師としての生活がスタートした。
これでもう奴隷みたいに働かなくてすむぞ！ と思ったら残念、まさか新しい職場でも奴隷生活がスタートするとは思わなかったね……。
先輩からはいびられ、所長からは人の５倍くらいの量の仕事を押しつけられる。
みんな、若くて才能のある私のことが妬ましいみたい。二言目には『天才だからこれくらいできるでしょ』だ。
「いや、できるけどさぁ……」
深夜。私は追加発注分のポーションを完成させ、王都外れの自宅へと向かっていた。
「てゆーか、所長も所長よね。宮廷錬金術師は他にもいるっつーのに、私にぜーんぶ仕事押しつけてきやがるんだもの。あのババア……いつか毒殺してやる……」
今の宮廷はほぼ私一人で回っていると言ってもいい。
今の宮廷の術師のレベルは、まあひどいもんだ。
これで私が居なくなれば、きっと仕事が回らなくなって大変なことになるだろう。
「やめちゃおっかなー……」
宮廷錬金術師にこだわる必要なんて、ないよね。
なんで続けてるんだろ？ やめるのがダルいから、かなぁ。
まず仕事辞めるのも面倒、というかどうやめればいいんだろう。辞職届ってやつ書けばいいの？
次に、野良で錬金術師やるってなると、商人との交渉とか自分でやらないといけない。言うまでもないが、作ったものを売らないと金にならないし。
最後にまあ……いちおう、せっかく国家資格とったのだから、捨てるのがもったいない……って気持ちも少しある。あとは推薦してくれた師匠への義理も。
「…………」
師匠は、私の恩人だ。５歳の時、両親がモンスターに食われて死んだ。村長は親の居ない役立たずの私を、村から追い出そうとした。
そのとき、偶然村に立ち寄った師匠に才能を見いだされ、あの人の弟子となったわけだ。
……今こうして、生きているのは師匠から教わった技術と知識のおかげ。その師匠に推薦されて、私は宮廷錬金術師になったのだ。
宮廷を辞めることはつまり、推薦してくれた師匠の顔に、泥を塗る行為……。
……結局、私がやめられないのは、あのバカ師匠に恩義的なものを、感じてるからかな。
「はぁ……仕方ない。続けてやるかぁ……はーあ、仕事やめたーい。王都に隕石でも降らないかしら。それとも、モンスターの大群が、押し寄せてくるとかー……なーんて」
と、そのときだった。
カンカンカンカンカンカンカンカン！
警鐘が鳴る。城門の上にいた見張りの騎士が、大声を張り上げた。
「逃げろぉお！ スタンピードだ！ モンスターの大群が王都にやってくるぞぉおおおおお！」
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