はじまり
人には、人生で三度モテ期がくると言う。
僕の一回目のモテ期は中学2年生の頃だと思う。性に興味を持ち始めるその頃、僕は色々な女性と体を重ねた記憶がある。だが、誰とも付き合うことはせずその場しのぎの関係を続けた。次第に彼女らはそんな僕に見切りをつけて、各々が恋人を見つけ、そちらとの関係に時間を割いた。
そこから20年が経つが、思い当たるモテ期はない。25歳で結婚相手に出会い結婚し、その1年後に子供が産まれ幸せに暮らす未来も通り越し、恋人もいない、仕事も中途半端な34歳になってしまった。
朝はいつも、起きてから顔を洗い髭を剃り、味気ない食事を口にし、歯磨きをしてスーツに袖を通す。そこから会社へと向かう。駅から徒歩5分の物件は程よく住宅街で、焦らなくても時間通りに駅に着く。7時15分、いつも通りの急行電車が大勢を乗せて都内へと向かう。冷房も効かず、車内は暑い。張り付く肌と肌、香水の匂い、潰れる鞄。終点の新宿駅では多くの人が降車する。その波に流されるように僕も電車を降り、改札を抜ける。それがいつもの光景だ。
そんな何気ない朝に、最近、変化が起きた
「あの、これ良かったら‥‥」
「へ?」
突然の声かけに変な声を漏らしてしまう。
毎朝電車で見かける彼女はいつも眠そうで、吊り革にもたれかかるようにして電車に乗っていたのを覚えている。そんな、「毎朝見かけるただの女子高生」に声をかけられたのだ。驚きは隠せなかった。
「嫌だったら無視してください!失礼します!」
と、彼女はそそくさと改札から小走りで離れていく。慌てて追いかけようとするも、すぐに彼女は見えなくなった。
彼女からもらった小さな紙には、SNSのIDが書かれていた。突然のことに、少しだけ不安な気持ちになり、その時はポケットにしまい僕も仕事へと向かった。
仕事の休憩中、「見るだけなら」と彼女のSNSを覗いてみた。すると、そこにはいつもの眠たそうな彼女はなく、化粧をして制服を来た「女子高生」の写真が並んでいた。普段見る彼女の違う一面を見てしまったと、心がざわついた。
「誰それ?知り合い?」
「んーん、違うんだけど、知り合い?みたいな人」
「どういうことだよ」
と、同僚の隆史は笑いながら隣に座り弁当を食べ始めた。
「実は、よく通勤電車で見る人なんだけど、今日突然声かけられてSNSのID渡されて‥‥」