表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/4

あなたへ。

 ざぶーん、ざぶーん。


 夕暮れの浜辺に波が打ち付けている。


 それはまるで息をしなくなったルークを慰めるようだった。


「ルーク、あなた、死ぬの?」


 結局、彼は頑張りを見せて処刑場からこの砂浜まで見事に泳ぎきってみせた。


 彼はもう必死だった。


 飢餓状態であることすら忘れるような勢いのある泳ぎだった。


 そして、思っていたよりも早く陸地に辿り着いたのだ。


「せっかく自由になれるのに、こんなところで力尽きるの?」


 つんつん、とルークをつついても返事はない。


 私の問いかけに反応はない。


 冷たい肌。


 冷たい体温。


「可哀想に……」


 その勇姿を見届けた身としては、死にゆくルークが可哀想であった。


 情が湧いてしまったのかもしれない。


 私らしくもないや。


「……」


 ざぶーん、ざぶーん。


 と、ここで遠くから馬が駆けてくる音が聞こえた。


「マーシャ様っ!」


 やって来たのは王国軍の兵士たちだった。


「あら、あなたたち何をしに来たの?」


「ルークが脱走したと聞いて来ましたっ!」


 あらま。対応が早いこと。


 まあ、処刑場に定時の見回りが入ったのだろう。


「奴は息をしておりますか?」


「さあ? もう死んでるんじゃない?」


「そうですか、念のためトドメを刺しておきましょう」


 そう言って、兵士はルークの頭上へ槍を構えた。


「待ちなさいっ!」


 私は反射的に怒鳴っていた。


「その必要はないわ。彼は私が砂に埋めます」


「し、しかし……」


「いいから、あなたは去りなさい」


「は、はい。承知致しました」


 戸惑いながらも兵士は私の言う通りに馬に乗って去っていった。


 ざぶーん、ざぶーん。


「……ざまあない……な」


 おや?


 浜辺に着いてからピクリともしなかったルークの口から掠れ声が漏れた。


「ルーク、生きてたのね」


「ははっ……もう限界だよ」


 笑っているつもりだろうが、ルークの表情は動いていない。


「マーシャ……、君には感謝しておくよ」


「感謝? どうして?」


「君が海に突き落としてくれたおかげで……僕は罪人としてではなく……ルーク・オブスタインとして死ぬことができる」


「そう。恨んでいるかと思ったわ」


「ははっ……恨み半分だけどな」


「祟らないで頂戴よ?」


「君が僕をちゃんと葬ってくれるのなら……僕は大人しくしていよう」


「わかったわ」


「来世で待ってるよ。次は結婚しようぜ」


「ふふふ。そのときも王子様でいるなら考えてあげるわ」


 はっとルークが自嘲するように笑った。


「さよなら、性悪女」


「さよなら、元王子様」


 そして、ルークは動かなくなった。


 ざぶーん、ざぶーん、ざぶーん。


 波がルークの亡骸を拐わんとする。


 私は約束通りにルークの身体を砂に埋める。


 波打ち際から離れた大きな木の根元に弔おう。


「これで正しかったのかはわからないけれど、あなたが感謝してくれたのなら、それでいいのかもね」


 夕暮れはすっかり暮れて夜になってしまった。


 私とルークの関係が終わるには(あつら)え向きの静寂だった。

読んでいただきありがとうございました。

もしよければ評価などしていただけますと嬉しいです。

よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 元王子は国が滅ぼされるようなことをしたのか、またはそうさせるように仕向けたのかな それとも婚約破棄だけで国を滅ぼされたのかな 政治的な意味とは何なのかな 来世でまた結婚できると思ってるのか…
[一言] 磔に至るまでの過程がほとんど描写されてないのでサンドイッチの下り辺りで主人公への嫌悪感の方が強くなってしまいあまりザマァ感はありませんでした。ヤンデレを描きたいのかリョナを描きたいのかシュー…
[一言] 話の筋が通ってないし 前後関係もわからないし、意味不明 なので評価は出来ないです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ