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7日目

「ごめん、ごめん。また日にち空いちゃった」


 また雨降ったからね。


 雨季だし、仕方ないね。


「……そうかい」


 ルークは力なく応えた。


 雨で水分を摂取できるとはいえ、何も食べないで一週間が経過したのだから相当辛いことだろう。


 嗚呼、可哀想。


 せっかくならパンを分けてあげたいっ!


「……じゃあ、君が今食べているそれを僕にくれ」


「これ?」


 私はルークの視線を追って自分の右手のサンドイッチを見た。


 お抱えの料理人に作らせた絶品のベーコンレタストマトサンド。


 私のお気に入りだ。


「ダメよ。これは私の大好物なんだから」


「なら、僕の前で食べないでくれ」


「それも嫌よ。晴れた海の上で食べるのが気持ち良いんでしょう?」


「自分を振った死にかけの元王子を見て食べるとさぞ旨いんだろうな」


 ルークの皮肉。


 そういう力はまだ残ってるんだ。


 無理して頑張って抵抗しようとするのも、可愛いなっ!


 さすがに磔7日目なので見た目はちょっと見ていられないものがあるけれど。


 まあ、そんな酷い有り様で頑張るところがいいのかもね。


「悪趣味だぞ」


「そう?」


 トマト美味しい~。


 あ、そうだそうだ。良いこと思い付いた。


「ねえ、ルーク?」


「何だ?」


「婚約破棄してごめんなさい。許してくださいって言ったら、このサンドイッチあなたにあげるわ」


「……っ!」


 私の提案にルークが目を見開いた。


 ごくりと大きく唾を飲み込むのが見て取れた。


「どうする?」


「……」


 明らかにルークが動揺している。


 それはプライドと生存本能のせめぎ合いなんだろうな。


「早くしないと全部食べちゃうわよ~」


 パクパク。


 モグモグ。


 あ~美味しいな~。




「済まなかった、マーシャっ! 君との婚約を破棄して君を悲しませてしまったっ! 許してくれ、この通りだっ!」




 と、ルークは頭を下げ、力ない大声でそう言った。




 きゃは★




 本当に言ったよ、この男。


「お、おいっ! 話が違うぞっ!?」


 ルークの謝罪を良い肴にして私はベーコンレタストマトサンドを一気に胃に流し込んだ。


 モグモグ。


 モグモグ。


 嗚呼、美味しかったっ!


「……………………………」


 空っぽになった私の手を絶望の眼でルークは見ている。


 食べたかったんだろうなあ。


 一週間何も食べてないわけだし、その空腹は想像を絶するだろう。


 そして、目の前で食べ物がなくなった悲しみも。


「……ふ、……ふざ……け……るなよ」


 ふるふるとルークの体が震えている。


「僕が……どれだけの思いで……」


 そうだよね。そうだよね。


 プライドも葛藤も全部をかなぐり捨てて、謝ったんだよね。


 お腹空いてるもんね。


 辛いよね。


 悲しいよね。


 悔しいよね。


 でも、それが私が婚約破棄された悲しみなんだよ?


「馬鹿言え……こっちは命がかかってるん……だぞ」


 ふーん。


 そう。


 でも、まあ。


 何か本気で可哀想になって来ちゃったなあ。


 このままルークを見殺しにするのも目覚めが悪いよなあ。


 うーん、どうしたものか。


 ……、


 ……、


 ……、


「よし! 良いこと思い付いた!」


 キラン★


 閃き★


「……何だよ」


 良いから、良いから。


 大人しくしてて。


「……お、おい?」




 そして、私はルークを磔から解放してあげた。



「……???」


 突然の出来事にルークは戸惑っている。


 嗚呼、その喜んでいいのかーーでも、状況が理解出来てない顔も可愛いなあっ!


「はい。謝ってくれたから解放はしてあげる」


「どういう……つもりだ?」


「助けてあげるわけじゃないよ」


 そう言って私はルークを海に突き落とした。


「がはっ……」


「ここから泳いで岸まで帰れればあなたは自由の身よ」


「いよいよ気が狂ったか……? こんなの無理があるぞっ!」


 確かに一週間ごはん抜きで長距離を泳げというのは過酷極まりないだろう。


 でも、これくらいしないと処刑からの解放には見合わない。


 このままルークを船に乗せて連れ帰ったのでは私の責任が問われてしまう。


 なので、彼には偶然にも磔から脱出し、自力で逃げ出すことに成功したーーという体で自由になってもらおう。


 まあ、岸に着くまでに力尽きてしまうかは彼次第だけれど。


「はーい、じゃあ頑張ってね~。日が暮れる前には戻れるといいねえ~」


 そう言って私は帰るために船を漕ぐ。


 嗚呼、私はなんて優しいのだろうか。


 わざわざ帰り道を船で先導してあげるなんてっ!


「くそっ!」


 バシャバシャとルークが泳ぎ出す音が聞こえる。


 おーおー、頑張ってる。頑張ってる。


 いいねえ、キュンキュンするぜ。


 まあ、振り返ってはあげないけど。


 岸に着くまで彼が私についてこられるか、とても楽しみだ。

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