8.ブリーフィング
「総員傾注!!」
ザッと、全てのリベリィが姿勢を正した。
あれから俺達は俺のブレイカーを適当に選んで学院長の要請。つまりはアンダーズの襲撃地へと向かう事になった。
しかもあのオウギフとかいう奴も一緒になるなんてな。
集められたのは、一度来たあのステーション。
今から目の前にある陸艦に乗り込んで向かうようだが、あの陸艦って確か俺達が乗ってきた奴だ。もう直ったのか。
「これより状況報告を致します、謹んで聞くように!」
あれ、あのドジっ子居たのか。第一声に声を上げたのはあのドジっ子だったのか。
働き者だ事で、リベリィの鑑って奴か。たしかリッター・ミレスだっけか。
彼女の報告によると、近隣同盟小国からの申請があったようで、アンダーズが現れ小国へ向け南下しているとの事だった。
現状アンダーズの進行ルートの避難勧告が行われているが、小さな町や村がその進路上に存在している。
その為リベリィには速やかに現場へ向いアンダーズの撃退と防衛だそうだ。
幸いにも一番最初に接触するであろう町とアンダーズの距離はまだある為、計算上は俺達の方が町に早く到着するようだ。
「では最後に今回、私達の指揮を執って頂ける事になった、マイスターアーシャより一言。 お願い致します」
つらつらと、戦況をしっかりわかり易く説明してくれて非常にありがたい限りだ。
思ってた印象じゃないみたいで安心したし、前回に比べて人員もしっかりとしてるから今回は楽出来そうで何より・・・。
「え、今マイスター・・・って」
一度顔背けようとし再び顔を上げる。
「今回のアンダーズ迎撃の指揮を執る事になりました、アーシャです。皆さんよろしくお願いします。時間が惜しいので手短に、今回はアンダーズの迎撃が主な目的となっていますが、これは人命救助でもあることを念頭に置いておくよう尽力して下さい」
「「「「「イエスマイスター!!!!!」」」」」
うげぇえ、あれって確か・・・あれだよなぁ。
変にあの時の思い出がフラッシュバックする。ドジっ子のミレスがいるってことはそうゆうことなんだろう。
げぇ・・・出来るだけ目立たないようにしよう。
「それでは各員乗艦!!」
ミレスの言葉でその場にいた者達がゾロゾロと艦へ入っていく。
その波にいつもの二人含め、俺も一緒になって入ろうとした時、俺は唐突にケツを叩かれた。
「おい!なんだその腑抜けた姿勢は! もっとビシッとせぬか!!」
「あぁーはいはい」
なんでこんなチビ助に俺は叩かれねばならんのだ。
こいつは、あのおやっさんの娘だそうだ。
俺のブレイカーを移動中に調整する為にと連れていくよう脅迫・・・いや同行を志願したみたいだ。あの巨漢のおやっさんがちょっと渋い顔をしていたのはまた別の話。
「あ、チシィ?」
「マイスター・アーシャ!! お久しぶりです!」
げぇえ知人かよ。
最悪だ、知らない振りしてそのまま通り過ぎよう。
ガシッ・・・!
「オヤジの頼みで、コイツのブレイカーの調整を任されました」
「コイツ・・・あ、あぁー」
俺の裾を引っ張るんじゃない!!
なんだこの無駄な握力、このチビも将来あんなムキムキになるのかよ怖いわ。
というか、めっちゃ見てるんですけど。目立たないように過ごそうって話しは何処に行った。
「えっと・・・確か」
「マイスター、発進準備が整いました。艦長がお呼びです」
「あ、うん。わかった今行きます。 それじゃあねチシィ」
「はい!!」
助かった・・・のか?
とりあえず変に話しかけられなくて済んだ。
マイスターの話じゃあ、もう出発するってことか。さっき話していた通り時間はないもんな。
「ほら、さっさとハンガーにゆくぞ! お前のブレイカーを作戦が始まる前に何とかせんといかんのだからな!」
「わーったよもう! だから裾を引っ張るな」
「あの・・・リュル」」
なんだ。
さっきから、というよりも一緒に付いてくる途中から二人が会話に入ってこないから緊張してるのかとも思ってけど。
「僕達はその・・・ブリーフィングがあると思うから、ごめん」
「え? あぁ、わかった」
「早くゆくぞ、ほれ!!」
チシィに引っ張られる形で俺は二人と別れた。
俺は・・・どうしても二人が気になって仕方なかった。
まるで、何かを諦めるかのような。
そんな二人を。
――― ――― ―――
ブリーフィングルームでは細かい作戦内容がミレスから説明されていた。
主な内容は作戦に当たる際の分隊だった。
1班。
マイスター・アーシャを筆頭にした精鋭部隊。
主にアンダーズの撃破する動きをする班である。
2班。
1班の援護を軸に臨機応変に行動する班。
これは自ら志願したオウギフに任命された。
以上がアンダーズの迎撃隊本来の布陣。当然例外はある物のリベリィの基本目的はアンダーズの撃破にある。
だが今回に至っては例外中の例外があった。
それは学院長の要請。
リュル、ダッド、ムーの三人を編成に組み込んで欲しい。出来れば三人一緒に行動するように、と。
「進言したします、マイスターアーシャ。彼等の班は3班といて、民間人の避難。そして町への最終防衛の任に付かせてみては如何でしょう?」
「なっ! 自分達は!」
「君等の実力は良くわかっているつもりだ。一人はバリア防御に特化した木偶の坊、もう一人は遠距離からの迎撃狙撃に特化した臆病者。君達のお披露目会に付き合うつもりは一切ない」
「・・・っ」
オウギフの言葉にダッドとムーは返す言葉も無かった。
リベリィは全ての行動が出来る者程優秀とされている。それはどんな戦場、どんなアンダーズが出てきても臨機応変に戦えなくてはいけないから。
防御が得意ではアンダーズは倒せない。狙撃だけでもアンダーズは倒せない。
二人は先日の戦いを思い出した。
まさにオウギフが言う通りの事態だった。今もリュルが居なかったら自分達はどうなっていたか。
「ユース・オウギフ、言葉を慎みなさい」
「大変失礼しました、リッター・ミレス。ですが戦力分析は重要課題かと思われます、私はまだユースではありますが、私を慕い共に戦いたいと言う仲間がいます。そんな今回もそんな仲間達の命を預かる身としては―――」
「もういい!!」
オウギフの言葉を遮るようにムーはブリーフィングルームを飛び出した。
それをダッドは、一礼だけして追っていった。
「ふん、腰抜けには相応だ」
「・・・・・・わかりました。ミレス、3班目を編成。彼等の指揮をお願いできますか?」
「えっ・・・イエスマイスター」
3班。
後方の後方、町の警護に当たる班にリュル達は組み込まれた。
誰もが思っていること、マイスターの力と自分達の力があれば襲撃してきたアンダーズを町にたどり着かせる前に撃退出来る。
つまり、3班の仕事は無い。何しに来たのかわからないと言われる、留守番だと。
――― ――― ―――
「ムー・・・やっと見つけた」
「・・・ごめん、ダッド」
「気持ちは凄くわかる、けど―――」
「ぎゃやぁああぁあああああああああああ!!!!」
「この程度で音を上げるなたわけが!」
「嫌だぁあぁ!!! あぁああああああああああああああ!!!!」
ハンガー内は俺の叫び声がただ響くだけだった。
このチビマジで何してんだ!? 腰がぁあ!! ブレイカーに締め付けられる!! あぁああああああああああ!!!!
「何故そんなにも反発する! 集中し魔力を絞るんのだ!」
「俺が中身が絞られるてるんじゃあぁああ!! 出る!!出る!中身がぁああ!!!」
言われた通りに集中して魔力をブレイカーに共鳴させようとすればするほどブレイカーが俺の身体に逃げるかのように食いこんでくる。
なんでこんな苦行しないといけないんだよ。ふざけやがって!
ブレイカーを上手く使う為に必要なのかもしれんが、前回は上手く行ったんだから別にいいだろう。壊したけど。
「もういい! いいって!! 何とかするから!!」
「なるぬわボケ! ブレイカーの力を存分に発揮させる為には、まずブレイカーの魔力と己の魔力を同調させる必要があるとさっきから言っておろうが!」
「だから!! それをしようとすればするほど―――ぉぉぉおおおおぇええ!!!」
ブレイカーの魔力が明らかに俺の魔力を拒絶してるんだって!!
じゃなきゃこんなに物理的に逃げようとしないだろ普通!!!
「あぁああああああああああああああああああ!!!!!」
「むぅ・・・これは困ったな」
チシィがブレイカーの電源を手動で落とすと同時に俺の腰からずり落ちる。
俺の対内はその安堵を噛み締めれると思ったのも束の間。
「げぼぉおおえぇええええええええええええ!!!!!」
「ぬおっ!!? お前なんて事を!!」
見事な朝食のスープとパンの混ぜ混ぜシチューの出来上がりだ。
アクセントに途中で食ったワサビもトッピングで加わってる。
「な、何ごとですか!?」
「おぉ、リッター・ミレス。ブリーフィングは終わったのかや?」
おぇ・・・リッター? あぁあのドジっ子か。
チシィの言う通りブリーフィングが終わったこっちの様子を見に来たのか。態々ご足労なことで―――
「おえぇええええええええ!!!!」
「また吐くな!!!」
「げぼえぇえええええええ!!!!」
「お前も貰いゲロをするなリッター!!」
もはや何をしていたのかさえわからなくなるほどに俺とリッターは吐いた。
陸軍の方々早々に駆け付け掃除していってくれた。これがリッター・ミレスのゲロ!? なんて言い出す変態が混じっていたのは別の話だ。
そしてある程度を落ち着きを取り戻し、俺はブリーフィングの内容をリッターミレスから聞くことになった。
「内容はわかったけど、あの二人は?」
「二人は・・・自室で待機してます!!」
「「・・・・・・」」
なるほどね。
途中から来たあの気配は別の者ですか。
「まあーいいけど、はいは~い。後方任務、了ー解でーす」
「えっ、あなたは不服じゃないのですか?」
「は? なんで?」
俺とリッターミレスは見合った。
どちらかと言うと俺の目線は無駄にデカイ男のロマンの塊二つに行ってるけど。以前見た素敵な夢もよかったけどやはり大きさの暴力はただの暴力だった。
「後方って事はぶっちゃけ何もしなくていいだろ? マイスター様達が全部やっつけてくれるんだろ? んじゃあいいじゃん」
「そうでは無く! 普通ならマイスターグレードの者がいるようなより安全な戦闘で戦績を上げたいと考えるのが―――」
「安全な戦闘・・・? 戦闘に安全なんてあるのか?」
「いや、そう言うことを言いたいのでは無くてですね! 私は!!」
言いたいことは何となくわかるけどさ。
アンダーズを倒してくれる人間、それも相当に優秀な方がいるのなら喜ばしい限りだ。
学院長の顔を立てる為じゃなかったらこんな所誰が好き好んでくるかっての。
「あんたもその戦績とやらが欲しいなら前線にでも好きな所に行っていいよー」
「それは出来ません! 私はマイスターから直々にあなた方を守るように言われてるんです」
俺達を守る・・・か。
「そうかいそうかい、お守り御苦労様ですねリッター殿」
俺は立ち上がってリッター・ミレスの前に立った。
「俺はともかく、あいつ等にそんなもん必要ねぇよ」
「っ!」
俺の言葉の意味を理解したのか、それとも単純にビビったのか。リッター・ミレスは後ずさった。
そう、あいつ等にお守りなんて必要ない。
正直、ここにいる連中なんかよりも俺は信用できる。当然話したことのないような連中の方が多いが。
それでも俺は言える。
あいつ等は強い、どんな戦士よりも。
「あっ! 何処に行くんだ! まだ調整は終わっとらんぞ!!」
「トイレ!!」
それだけを言い俺はハンガーを後にした。
「・・・ダッド、僕達も行こう」
「うん、マイスターとリッターに謝りに行こう」