6.ヘリオエール
「いや~思っていたよりも到着が遅かったから今から探しに行こうとして所だったんよぉ~」
「すみません、自分達もここまで時間が掛かるとは思わなかったので」
糸目メガネに連れられて寮の中に案内された。
服装から見てリベリィじゃないっぽいけど。
「あぁ~ごめんごめん、自己紹介をしていなかったね。私はここ、東寮の寮長を任されている"レプティ"です。ヘリオエールでは主に歴史の抗議を担当しているよ~ん」
「はあ・・・そうですか」
なんかふにゃふにゃした感じで掴みどころがないというか。
寮長って事はここの管理人兼責任者ってことか。そんで抗議担当ってことは先生か何かって奴か。
んでここがリベリィ達の本拠地ってことか?
ダッド達からは少し聞いていたけど、ヘリオエール学導院って本当に学校みたいな所なんだな。
もっとなんかギスギスした管理団体を想像していたが、予想が外れて少し気が楽になったな。
「ってあれ? 聞いてますかーい?」
「ん? 何も」
全然聞いてなかった。
無駄に奇麗というか、どっかの貴族の御屋敷の中みたいな寮内に目移りしていた。
「あぁ~もう一回説明するからちゃんと聞くんよ~。本来なら一度君の部屋に案内してから学院長に挨拶に行く予定だったんだけど、時間が時間だから先に挨拶だけ済ませるかい?って事、もちろん荷物とかあれば先に部屋案内するけども」
「あそう、荷物なんて無いから別に何でも良いよ」
別に部屋なんて案内されても持ってる物なんて皆無だし行くだけ無駄だしな。
それよりも早めに飯が食いたい気持ちの方が・・・。
「え・・・今なんて? 学院長?」
「うん、それじゃあ僕等は外で待ってるから。レプティでーす、リュールジス君を連れてきましたー」
は?
待て、こうゆうのって心の準備というか。
え、学院長って学院長? 学導院の学院にマスターって書いて長の学院長?
えつまりさ。
「お入りください」
ガチャッ!! バタンッ!!!
(えぇええええええええええ!!??)
閉めるの早っ!!? 何それぇえ!!?
「あなたが、リュールジス・・・さんでよろしいですか?」
「は・・・はい・・・!!」
「・・・・・・」
めっちゃ見てるー!! 目つき怖い!
あ、これヤバい奴だ! 俺知ってる!
怒られる奴だぁああー!!
何だ!? 何した俺!? ブレイカー!? あっ勝手に使った奴!?
リベリィの軍規違反的な奴ー!? 俺もしかして討ち首死刑になるの!?
ちゃんと上の人間、リッターの許可を取らなかったからか。いやいや勝手に慢心して出撃してって死んでった奴の許可なんてどうやって取るんだよふざけるな!
ならば・・・ここは、先手必勝!
(やられる前に・・・やるだっ!!)
「っ!?」
俺は入口から学院長が座っているデスクまで一気に飛び出した。
このまま一気に・・・!!
「すみません!!でしたぁああああああああー!!!!!」
古来伝承。ありとあらゆる罰を許してもらう高等魔術。
土 下 座 !
両手は地面に、頭は出来るだけ下に下に! 床のカーペットが燃え切れるまで、下げて下げて下げまくれば・・・!!!
「ぷっ・・・ふふふ」
(・・・あれ?)
笑ってる?
「フフフ、それって・・・確か土下座でしたっけ? あなた、何か悪い事でもしたのかしら?」
「・・・え?」
あぁ・・・おでこ痛い。
ゆっくりと顔を上げると、そこには年老いたお婆ちゃんがデスクから俺の前に立っていた。
「あなた達3人の働きは、陸軍少佐から直々に報告と感謝の言葉を頂いています。リベリィの人間じゃなければ勲章物だと、ね」
「あ・・・あはは・・そうです、か・・・そうですよねぇええー!!? あははははは」
「でも・・・」
何!?
空気が一変した。学院長は満面の笑顔のままなのに辺りが凍り付いたようだった。
「民間人が勝手な事をされては困りますよ、特にブレイカーを無断使用した挙句破壊し、艦に配備したストックを一切の断りなく全て使用し全て同じように破壊してしまった・・・。始末書だけでは済まされませんので今後は―――」
「ぁ・・・ん」
「肝に・・・免じてくださいね」
「イエスマム! いえイエス学院長!!」
つい、敬礼をしてしまった。汗ヤバいだらだら寒い。
そんなこんなで今回の俺の勝手行動はどうやらこの学院長様が色々根回しをしておいてくれたらしい・・・らしい。
それから学院長は他愛ない話をして俺の緊張をほぐしてくれた。
と、言っても入れてくれた紅茶の話なんだけど。
「では、気持ちが晴れたと思いますのでお話しを進めますね。私は、このストライク王国リベリィ統括拠点ヘリオエール学導院の学院長、"キュベレス"です。以後お見知り置きを」
ストライ、統か、ヘリオ・・・ななんだって?
駄目だ、そういう名前は駄目なんだ、もう一回言ってくれなんて言ったら怒られるだろうから黙ってよ。
「リュールジスさん、あなたは何故ここへ来たのかご存知ですか?」
「え? あぁー・・・そういえば」
考えなかったわけじゃないけど、深くは考えなかったな。しまった悪い癖が出てしまった。
この学院長の口ぶりからすると色々知ってそうだな。
「あなたの事はご家族様から聞かされていますので心配なさらずに。というより今回ここへ来てもらったのもご家族様のお願いがあってのものなの」
まあそうだろうな。
あんな物騒な手紙を送ってくるくらいだからな。最初の一文とチケット以外は殆んどケツ拭きに使っちゃたし。
「つまり・・・俺にリベリィになれ、そう言っていたんですか?」
「・・・それは」
学院長は、言葉を止めた。
まあそんな所だろうと思ってけどさ。ダッド達を見てほぼ確信してたさ。
アンダーズの侵略は今も続いてる。猫の手も借りたいだろうし、こんな力でも利用しない手はない訳だ。
手紙が届いた時からある程度覚悟はしていた。
結局俺は・・・探し物も見つからなかったしな・・・。
「それは・・・あなたが決めて欲しい。そうよ」
「え・・・俺が?」
俺が・・・決める?
なんだそれ・・・。どうゆう事だよ。
駄目だ頭が急に・・・回らなくなった。
決める・・・何を?
俺が・・・リベリィになるかならないか?
それってつまり、アンダーズと戦うのかどうか聞いているみたいじゃないか。
「だって・・・俺は」
「ここまで来させて酷な事を言うようで申し訳ないけれど、それが、ご家族様のお願いです。 もしリベリィになるのであれば、このまま当院の一員になってもらいあなた様の力をお貸し頂きたい」
「もし・・・断ったら?」
俺の言葉に学院長は目を閉じ黙り込んだ。
つまりそうゆう事だ。
断った場合のパターンが脳内に多く浮かび上がる。最悪、俺が今まで見てきた空や大地、いろんなモノを見る事はないかもしれない。
選択肢は・・・。
「あらあら、もうこんな夜空! ごめんなさいね、こう見えても結構年寄りなのよー」
「え・・・ぁぁ」
「本当にごめんなさいねー、返事はまた今度聞くことにするわ~。あ、もちろんそれまで寮を追い出すなんて事はしないから安心してね」
学院長の言葉が入ってくるようで入ってこない。
駄目だ、どう受け取っていいかわからない。何をどうすればいいのか・・・。
「レプティ先生!」
「はいはーい、学院長ー」
「彼の面倒、しっかりとお願いしますね」
「お任せあれ~」
レプティが扉から出てきて話しはもう終わりだと告げた。
俺はまだ頭が回っていない。
それでも。
「あの・・・!」
「ん、どうかしましたか」
「え、っと」
たった一つだけ確認したい事。
俺はそれを学院長に訪ねた。
「俺の家族・・・元気にしてましたか?」
「・・・えぇ。ずっと、あなたの心配ばかりしていましたよ」
「そう・・・ですか」
俺はしっかりと頭を下げ一礼し部屋を後にした。
するとそこには、ダッドとムーが居た。
二人は俺の顔見るなり心配して声をかけてくれた。
「いやぁ~・・・あはははは、怖かったわぁ~あはははは」
痩せ我慢。二人はそんなのすぐに気が付いたようで無理にでも笑ってくれた。
それに対して俺も笑い返すことしか出来なかった・・・。
リュルが居なくなってからの学院長室には、キュベレスとレプティの二人がまだ残っていた。
「学院長のおっしゃった通りになりましたね」
「そんな事はありません、私も驚きました。まさか少佐の報告にあった通り・・・まるで別人でした」
キュベレスは気を緩めながら窓際に立ち夜空を見上げる。
「人間とは・・・難儀な物ですね」
「それが良い所、ともいいますよ」
「そうね、引き続き彼のフォローお願いしますね、レプティ先生」
お任せを。
それだけ口にいレプティはリュル達に合流しに学院長室を後にした。
静まり返った学院長室で一人夜空を見上げ続けるキュベレス。
「あの子、いや・・・あの子達の為にも。何としても成功させねば"アンティオキア作戦"を」
――― ――― ―――
「そうそう、そこのパフェが物凄く美味しんですよ」
「マジか、金入ったら行ってみたいな」
「値段もリーズナブル、僕等の顔を使えば更にお得」
「行くしかねぇーな」
学院長室を出てから二人と他愛ない話をしながらレプティ寮長の後を歩く。ちょくちょくレプティ寮長のオススメを言ったりと会話に入ってくる。
この様子を見ると、あの学院長もこの寮長もこうなることを想定していたみたいだな。
なんか申し訳ないが、今はそれに乗らせて貰う事にする。
それに、せっかく二人が何も聞かずに付き添ってくれているんだ。萎れた面なんかぶら下げてたらバチが当たるってもんだ。
「は~い、という訳でリュル君の部屋はここね~」
「やっと着いたかー」
「えっ! 自分達の隣ですか!?」
「これは幸運」
マジかー。粋な計らいをしてくれたもんだ。
こりゃあこの二人とは腐れ縁になりそうだ。なんて思ってるが多分寮長が面倒がってこの二人に俺を押し付けてる感が否めないんだが。
まあ変に気を使わなくていいから俺は助かるけど。
「それじゃー二人共、明日の朝は彼と共に通常通りに過ごしてくれたね~。何かあったら呼んでくれれば行・・・多分行くから~、それじゃあおやすみ~ふわぁあ~」
それだけ言って寮長は来た道をデカイ欠伸をして戻っていった。
うわ、二人に擦り付けたの隠す気ないだろう。流石の二人も苦笑いだったが。
「明日は、7時に食堂で朝食、8時には講堂に集合っていうスケジュールだから送れるなよ」
「あいあーい、ふわぁ~貰い欠伸したわ。んじゃあ俺ももう寝るわ。明日もよろしくな~」
「おやすみなさい」
なんだかんだ濃い一日だったな。
先日はアンダーズの襲撃からの撃退、それから陸艦の旅に、今日は街歩き。
一個一個が初めてな事だらけな気がして、楽しかったと言えるのかもしれない。
「暗いな・・・電気何処だ」
これから俺の部屋になるんだ、色々知っておきたいが。
まず電気が何処だ。
「電源ここ」
「お、サンキュー」
カチッとスイッチが押された音と共に部屋が明るくなった。
おぉー、寮の雰囲気からある程度予想はしていたけれど凄い綺麗だな。
綺麗な二段ベッド。
綺麗なテーブル。
綺麗なソファ。
綺麗なキッチン。
「そして綺麗な女の子の・・・裸体・・・」
「・・・・・・」
肩に触れるくらいの透き通る銀髪。
低身長特有のスラッとした華奢な素晴らしきライン。
男誰しもが好むであろう物の二つの山は物足りなさを感じるかもしれないがこれは絶妙なプロポーションを演出しているに過ぎない、着痩せするなんとやらって奴だ。
そして最後は、まさにデッドゾーンと呼ばれる割r・・・。
「・・・・・・」
「・・・?」
ふーむ・・・。
「間違えましたぁあああああああああ!!!!!!」
最速!最速で俺は部屋を出た。
俺の大声に反応してか、隣の部屋からいつもの二人の顔がこちらを覗いていた。
いや、それだけで無く他のリベリィ? も何事かと顔を出し俺の事を睨み出した。
「ちょっ・・・違っ・・・とおぉおぉぉぉおう!!!!!」
意味も無く声を上げ俺はいつもの二人の部屋の中に上がり込んだ。
ふぅー、素敵な夢を見させてもらったありがとう神様。さっきのは日ごろの行いのご褒美として脳内にしっかりと焼き付かせてもらったぜ。
「気持ち悪い笑み」
「どうかしたんですか?」
ははははは、なんて平穏らしい平穏だ。
ダッドは歯を磨いていて、ムーはもう部屋着に着替えているじゃないかはっははは。
そうこれは現実。さっきのは素晴らしい夢。そう俺は夢を見ただけであって―――
「いや、もう出てけよ」
「お願いします。ここで寝かせて下さい」
俺は本日2度目の土下座して、初めてのヘリオエール生活に幕を閉じたのだった・・・。